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藤井聡太は、「将棋の神様」を挑むように見ていた

朝日杯将棋オープン戦を生観戦して

青木るえか エッセイスト

 2月23日、『朝日杯将棋オープン戦』を生観戦した。そして、藤井聡太という棋士の凄さを見せつけられてきた。

 藤井聡太がどう凄いのか、将棋をまったく知らない人にもわかるように、今さらであるが説明してみたいと思う。

朝日杯将棋オープン戦朝日杯将棋オープン戦で優勝した藤井聡太竜王=2023年2月23日、撮影・筆者
 藤井聡太という人がこれほど名を成しているのは「あんなに若くて、とても強い」からだと、多くの人は思っていると思う。

 それはその通りで、若くて強いことに関しては、「まだ20歳なのに、呆れるほど強い」。

 将棋を知らない人に「藤井聡太ってどれぐらい強いの〜?」と聞かれるたびに、「死ぬほど強い。鬼のように強い。イヤになるほど強い」と言っている。

 それも「超横綱相撲」的な強さ。

 「悠然と立ち、相手がぶつかってくるのを悠然と受け、相手のまわしを悠然と取って寄り切り」。そういう強さ。10代の頃から。

 こういうのって、往々にして「つまらない」とか言われたりするものだが、つまらないのも度を越すと「すげえ……」とひれ伏さざるをえなくなる。「恐怖の大魔王というのは、物静かに笑っている藤井聡太みたいなものなのではないだろうか」と思うようになった。それぐらい強い、藤井聡太。

 で、それだけではないのだ。

 私は初めて藤井聡太をナマで見た時に驚いた。

 「あ、これは……まゆゆだ」

渡辺麻友と同じように光を放っていた藤井聡太

 以前、論座で、渡辺麻友について論じたことがある。

 アイドルとして、AKB48時代のまゆゆがいかに「他のアイドルとはちがっていたか」を書いた。その中で、「まゆゆは物理的に光っている」と指摘した。文学的表現としての「光っている」ではなくて、頭蓋骨内に光源を持っているかのように、実際に光を発していると。まゆゆの凄いアイドル性=特異性を皆さんにわかってもらいたくて書いたわけだ。そんな人はめったにいない、と思いながら。

渡辺麻友=渡辺麻友=2018年

 それが、藤井聡太も光ってたんですよ。

 顔のまわりが光に包まれている。写真だとそれがまったく写らないので気づかなかった。

 「藤井聡太もそういう人だったのか……」

 鬼のように強く、春の陽射しのようにふわっと光を放つ。ああ……これは、ちがう……モノがちがう人だ……。

 藤井聡太はプロ棋士であって将棋が強いことが何よりのアイデンティティなのだから、顔が光ってようが曇ってようが、どうでもいいはずなのだ。しかし、光っているとどうしようもなく人目についてしまうので、将棋を知らない大量の人が藤井聡太を目当てに将棋の世界に入ってくる。

 競馬界に武豊が現れた時もこんな感じだった。ルックス無関係実力勝負の世界で、「若くて強くてアイドル性がある人間が登場する」と、その世界はいきなり活性化する。そして、世界ごと変貌を遂げていく。

 今、将棋界はそうなりつつある。

 しかし、将棋というのは「見ててもわからない」のが厳しい。ルールを知ってるぐらいじゃ、プロの対局なんかワケわかりません(私がそれだ)。

 これが競馬なら、初めてレース見たってどの馬が勝ったか負けたかわかるじゃないですか。プロの将棋はわかりません。投了した瞬間を見逃したら、どっちが勝ったのかすらわからない。盤をはさんで二人でうなだれてるだけだし。

 でも大丈夫。今、プロの将棋には、

 「AIによる評価値」

 が出るから。コンピュータが「どっちが優勢か」をパーセンテージで見せてくれて、そこに解説者の棋士がついて、「今の一手の意味は」とかをさらに説明してくれる(その解説棋士だって評価値を見ている)。

将棋の「対局」を見ることで、わかること

 そこで『朝日杯将棋オープン戦』の、藤井聡太の話になる。

 これが公開対局で、有楽町朝日ホールのステージで対局するのを客席からファンが見守る。

 将棋イベントの「お好み対局」でプロ棋士が指してるのをナマで見ることはあっても、真剣勝負をナマで見る機会はほとんどないので、この日のチケットは申し込み殺到、キャパ約600のホールで、SS席の倍率は17倍だったとか聞いた。当日会場に行ってみると望遠レンズのカメラ持った女性客多し。確かに空前の将棋ブームか……いや藤井聡太ブームか。

朝日杯将棋オープン戦朝日杯将棋オープン戦の対局開始時の藤井聡太竜王(左)と豊島将之九段=2023年2月23日、東京・有楽町朝日ホール

 この会場の大きな特徴は、

 「ただ、指しているのを見るだけ」

 会場にはモニターがあって盤面が映し出されるが、そこに評価値などは出ない。無。もちろん解説もない。実況もない。聞こえるのは、駒が置かれる音と、記録係の秒読みの声だけ。たまに棋士がお茶飲んだりすると「ゴク」という嚥下音まで聞こえる。

 そして客席は「スマホ、タブレット使用禁止」。

 これによって、ネット中継の評価値や解説は遮断される。評価値を見た客の心理的どよめきが舞台上に伝わらないともかぎらないからだ。それぐらいデリケートなものなのである。当然、客席での会話も禁止。

 この日の対局は、準決勝が「藤井聡太竜王対豊島将之九段」と「渡辺明名人対糸谷哲郎八段」、そしてその勝者が決勝対局をする。

 準決勝はステージに机が二つ出ての同時対局で、私は「藤井竜王対豊島九段」の机をガン見することになった。

 さて、前に書いたように、私はプロの対局を見ていてもわからない。

 そしてここは評価値完全遮断。

 それがどういうことになるのかというと、競馬のレース中継で、「実況もない。見えるのは馬と騎手の顔だけ」という状態だと思ってほしい。馬が今どこを走っているのかも、馬群の中の位置取りも、ゴールがどこにあるのかもまったくわからない。とにかく見えるのは馬と騎手の顔だけ。そういうものを想像してみてほしい。

 そこで発見したことを書きます。

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