
「言葉」を知ることによって、否応なく人が社会に囚われていく様を描いた衝撃の舞台『カスパー』が、3月19日(日)~31日東京・東京芸術劇場シアターイースト、4月9日大阪・松下IMPホールで上演される。
舞台『カスパー』は、日本でも大ヒットした映画『ベルリン・天使の詩』(ヴィム・ヴェンダース監督)の脚本家として知られ、2019年のノーベル文学賞受賞作家ペーター・ハントケが、19世紀はじめに実在した謎多きドイツ人カスパー・ハウザーを題材に描いた問題作。
カスパー・ハウザーはおおよそ16歳頃に発見、保護されるまで長期にわたり地下の牢獄に閉じ込められていたとされている1800年代に実在したドイツの孤児。発見後教育を施され、言葉を話せるようになり自らの過去を少しずつ語り出すようになったころ、何者かによって暗殺されてしまった為、その正体と出生から保護に至るまでの経緯はいまなお謎に包またままだ。鋭敏な五感を持っていたことでも知られ、その生涯は多くの研究、また芸術作品のテーマになり続けている。
だが、今回上演されるペーター・ハントケの『カスパー』は、カスパーの史実に残る謎多き生涯を描くのではなく、「言葉」を知ることによって特異な才能が失われていく一人の青年を通して、個人と社会とのかかわり、また教育とはそもそもなんなのか?をつきつけてくる戯曲で、寺山修司はこの『カスパー』を「『ゴドーを待ちながら』と共に20世紀に書かれた最も重要な作品」と評している。
そんな衝撃の問題作で、主人公カスパーを演じるのが映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』『菊とギロチン』などで多くの受賞歴を持ち、話題を呼んだNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にも出演した俳優の寛一郎。この作品が初舞台にして初主演という、大きな挑戦の舞台になる。
その主演舞台の稽古を前に、寛一郎が作品のこと、初舞台について、更に英国人気鋭の演出家ウィル・タケットと「言葉」をテーマにした作品を作る思いを語ってくれた。
言語自体題材にしている戯曲に惹かれた

寛一郎=岩田えり 撮影
──拝見する側の私が読ませていただいても大変な戯曲だなという印象がありましたが、これに挑戦しようと決断されたお気持ちから教えてください。
そもそもプラットフォームというか、何でやるかは置いて、カスパーという作品に興味を持ったんです。カスパー・ハウザーという人物は知っていましたし、概要と言える程度のことは理解していたのですが、旧訳の台本を読んだ時に、僕の知っているカスパーではなく新しいカスパーで、「言語」というものそれ自体を題材にしている作品だと思ったんですね。そこからこれは出会いだなと思い、挑戦させていただくことに決めました。
──言語という部分が、寛一郎さんを惹きつけたのでしょうか?
そうですね。誰しも興味を持つものってあるじゃないですか。それは所謂哲学的なものでもあるし、例えば「生命はどこから生まれてどこへ行くんだろう」というようなことは、きっとみんな一度は考えたことがあるんじゃないかなと思うんです。そういった意味で、僕が「どうしてだろう」と思う領域は言語に対するものが多かったんです。そこから言語の解釈について色々と調べていくうちに行き着いたのが、プラトンという哲学者の「想起説」で。「想起説」ってもともと僕らは生まれた時から全ての事象を知っていて、言語を媒介してそれを思い出していく作業をしていくんだ、というものなんですね。もちろんそれが本当にそうなのか?ということは置いておいて、その考え方自体に僕は興味があったんです。それに近いものをこのカスパーを読ませていただいた時に感じて、やってみたいと思いました。

寛一郎=岩田えり 撮影
──映像を中心にお仕事をされてきて、この出会いがあるまでは舞台作品に大きな関心を持っていらっしゃらなかったと伺っているのですが、その気持ちを覆すものがこの作品にあったということでしょうか?
そうなんですよ。舞台をやろうと思ったことはこれまでなかったですし、これからもやるつもりは正直なかったんです。そういう人間が初舞台で『カスパー』をやるんだ!と、僕自身も思いますが(笑)、やりたいと思った戯曲が舞台作品だった、という自分としてはシンプルな感覚なんですよね。「舞台だから」でも「舞台なのに」でもないので、そこを難しく捉える必要もないのかなと思っています。
◆公演情報◆
東京:2023年3月19日(日)〜31日(金) 東京芸術劇場シアターイースト
大阪:2023年4月9日(日) 松下IMPホール
公式ホームページ
[スタッフ]
作:ペーター・ハントケ
翻訳:池田信雄
演出:ウィル・タケット
[出演]
寛一郎 首藤康之 下総源太朗 王下貴司 萩原亮介
大駱駝艦/高桑晶子 小田直哉 坂詰健太 荒井啓汰
〈寛一郎プロフィル〉
2017年、映画『心が叫びたがってるんだ。』で俳優デビュー。同年に公開された映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、翌年公開の映画『菊とギロチン-女相撲とアナキスト-』でキネマ旬報ベストテン [個人賞]新人男優賞、など日本映画批評家大賞 助演男優賞様々な賞を受賞。その後も映画やドラマに出演して実績を積み、2022年にはNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源実朝を暗殺する公暁役を演じて全国的にも印象を残した。
★公式ホームページ
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