
寛一郎が初舞台、初主演に挑む舞台『カスパー』(上)
何かを得れば何かを失うのは世の理
──カスパーはどんどん言語を知っていくことによって変化していく役柄ですが、その変化をどう感じられていますか?
もちろん知っていくことの大切さがある一方で、知らなかった方がよかったという時もありますよね。ですから、カスパーが言語を知り、社会性を得ることによって、確実に才能をはじめとした何かを失う、というところはよくわかるんです。何かを得れば何かを失うのは世の理というか。それほど言語というものは大きいわけですし、失ったものが計り知れなかったんだなと。その変化をどう表現していくか?というところにきっとぶつかると思うんですが、少しずつ得て、同時に少しずつ失っていくところ、得たことの喜びと失っていく切なさを思うと、本を読んでいるだけで終盤に向かって辛くなってしまって。まだ稽古も始まっていないので、具体的にどう表現していくかはわかりませんが、そこをどうしていこうか、というものはずっとありますね。

寛一郎=岩田えり 撮影
──そのお稽古に入られる前に、ご自身で準備されようと思っていることはありますか?
プロデューサーさんには「自分の感性だけを信じてください。まったく準備は必要ありません。そのまま稽古にいらしてください」と言っていただいているんです。もちろん必要最低限のことはしていきますが、確かに変に自分だけで作っていくよりも、はじめて世の中に触れたカスパーと同じように、稽古場にいってそこで吸収して、また失っていけたらいいのかなと思っています。
──そんな稽古を共にされる共演者の方々も多士済々ですね。
僕はこれまで身体全体で表現するということをしたことがないので、身体表現のプロの方達と一緒にできることによって、自分が知らなかった表現を直に見て感じられるんじゃないかと、とても楽しみにしています。同時に一緒にひとつのものを作っていく過程そのものが、僕にはすごく勉強になることだと思いますね。

寛一郎=岩田えり 撮影
──そのなかでとてもシンプルな質問で申し訳ありませんが、膨大でしかも序盤は意味をなしていない言葉の羅列という台本ですが、この台詞を覚えるのは大変なのではと思ったのですが……。
僕も思います! これ、完全に無理ですよね? 会話でもないですし、どうやって覚えるんだろうと(笑)。だからどれだけ自分でこの台詞をお腹に落とし込めるかにかかってくると思いますけれども、台詞が飛びそうで怖いです。ただ、これ相手がいないんで、なんなら途中からでも始められるっていうのはあります(笑)。もちろん他の人も喋っていますし、それぞれタイミングもありますから。
──本当に観終わったあと、しばらく動けないんじゃないか?と思う戯曲なので。
何だったんだろう?ってなっちゃうこともあるかもしれないですけど、でもそれはそれでいいのかなと思っていて。きっと観た人の数だけ解釈があるでしょうし、全然わからなかったもまたいいんじゃないかと思いますから、是非身構えずに観にいらしていただきたいです。
◆公演情報◆
東京:2023年3月19日(日)〜31日(金) 東京芸術劇場シアターイースト
大阪:2023年4月9日(日) 松下IMPホール
公式ホームページ
[スタッフ]
作:ペーター・ハントケ
翻訳:池田信雄
演出:ウィル・タケット
[出演]
寛一郎 首藤康之 下総源太朗 王下貴司 萩原亮介
大駱駝艦/高桑晶子 小田直哉 坂詰健太 荒井啓汰
〈寛一郎プロフィル〉
2017年、映画『心が叫びたがってるんだ。』で俳優デビュー。同年に公開された映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』、翌年公開の映画『菊とギロチン-女相撲とアナキスト-』でキネマ旬報ベストテン [個人賞]新人男優賞、など日本映画批評家大賞 助演男優賞様々な賞を受賞。その後も映画やドラマに出演して実績を積み、2022年にはNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』で源実朝を暗殺する公暁役を演じて全国的にも印象を残した。
★公式ホームページ
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