日常生活に関わる語さえ
JPCZは少々特異だが、日ごろ見聞きする英頭文字語でも、思いの外わかりにくい例がある。しかも日常語の場合、略語は説明なしに用いられることが多いだけに、よけいにそうである。
例えば「CT」。これは今日「医療モノ」に限らず映画・TVドラマ等で頻繁に見聞きする。ちょっとした病院なら院内で実際に見られる。だがどれだけの人がCTの意味を知っているだろう。Computed Tomography(コンピューター断層撮影)のうちtomographyとなると、誰にも分かるまい(私も今回初めて知った)。

CTの「T」の意味は……
おまけに、新聞等と違い、ドラマでも病院でもその説明などないから、「CT」それ自体で何とか理解しなければならない。辞書でも引かないかぎり、それは困難である。
だが「CT」などという英頭文字語を用いずに、ローマ字日本語の頭文字で「DS」(断層撮影)とでも表記したら、どれだけ市民の理解を助けたかしれない。
母は「ATM」が理解できなかった
日常生活の言葉として、はるかに一般的な語をあげる。例えば「ATM」。この名で呼ばれる機械は非常に普及したので、いま多くの人が「ATM」という語をそのまま理解するだろう。
だが一部の人、例えば私の母はこれを理解できなかった。機械の操作法はいちおう覚えた。でも銀行のチラシ等で見る「ATM」という文字が何を指すのかは、ついに分からなかった。

「ATM」は、元の言葉の説明なしに街中に普及している
「○○銀行ATMをご利用のお客様へ/ 2023年1月のシステム移行に伴い、以下の通帳をATMでご利用いただく場合……」──これは最近見たチラシの文面だが、母が見たのもこのようなものだったろう。説明なしに使われる「ATM」は、英語の素養のない母には無意味な記号だった。
「ATM」はAutomatic Teller Machine(自動出納機)の略語である。機械の普及以前なら、英語を多少解する人も理解に苦労しただろう。tellerの正確な意味を知るには、特殊な知識が必要だからである。当初この言葉が身につくまで、私も苦労した。
もし始めからこれを「ATM」ではなく、例えば
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