ペリー荻野(ぺりー・おぎの) 時代劇研究家
1962年、愛知県生まれ。大学在学中よりラジオパーソナリティを務め、コラムを書き始める。時代劇主題歌オムニバスCD「ちょんまげ天国」のプロデュースや、「チョンマゲ愛好女子部」を立ち上げるなど時代劇関連の企画も手がける。著書に『テレビの荒野を歩いた人たち』『バトル式歴史偉人伝』(ともに新潮社)など多数。『時代劇を見れば、日本史はかなり理解できる(仮)』(共著、徳間書店)が刊行予定
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ドラマに対する向き合い方の二極分化
1992年の放送開始から長く愛されてきたフジテレビのドラマ「赤い霊柩車」シリーズが、3月17日に放送される「山村美紗サスペンス 赤い霊柩車39 FINAL~弔の京人形」で30年の歴史に幕を閉じる。
父から受け継いだ京都の葬儀社の社長・石原明子(片平なぎさ)が、医師で婚約者の黒沢春彦(神田正輝)と狩矢警部(若林豪)に協力し、身近で起きた殺人事件の真相を探る。最終話は、京人形職人役に榎木孝明、明子の幼なじみ役に松下由樹など豪華ゲストを迎え、友禅の下絵師だった男(羽場裕一)が殺された事件を追う。“映える葬儀を”という依頼を邪険に断ったことで石原葬儀社が危機を迎えると聞いては、ファンとしてはやきもきするが、シリーズが大切にしてきた京都の風情とともに、石原葬儀社の名物コンビ、秋山(大村崑)と良恵(山村紅葉)のコミカルなやりとりも楽しめる内容になっているという。
昨年12月にはやはり、テレビ朝日系の「土曜ワイド劇場」(1990年~)から長く親しまれてきた片岡鶴太郎主演の「森村誠一 終着駅」シリーズと高橋英樹主演の「西村京太郎 トラベルミステリーシリーズ」(1979年~)もそれぞれファイナルとなっている。2時間ドラマ枠で育てられた名物ドラマが、次々姿を消している。
2時間ドラマの歴史は、日本のテレビの歩みやライフスタイルの変化と深く関係している。
その元祖といわれる「土曜ワイド劇場」は、77年にスタート。第一弾は、渥美清主演の「時間(とき)よ、止まれ」だった。脚本はテレビ黎明期から活躍し、NHKの名作「天下御免」などを手がけた早坂暁。時効寸前の殺人事件を追う万年平刑事(渥美)が、テレビ画面で偶然、犯人(小林桂樹)を見つけ、執念で追い詰めるというストーリーで、この年の第32回文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。放送時間は90分だったが、当時、ドラマは30分か1時間枠がほとんどで、90分のドラマは「特別」だった。
「土曜ワイド劇場」は、山口百恵の「野菊の墓」といった文芸ドラマなど試行錯誤を続けながら2時間枠となる。2時間ドラマは、その後、日本テレビ系で80年4月に「木曜ゴールデンドラマ」、81年9月に「火曜サスペンス劇場」(通称・火サス)がスタート、TBSは82年に「土曜ワイド」と同じ時間帯で「ザ・サスペンス」をぶつけ、84年にはフジテレビの「金曜女のドラマスペシャル」も加わって、各局が長時間ドラマで鎬(しのぎ)を削る時代がきた。2001年に始まったテレビ東京系の「女と愛とミステリー」とともに、放送日や枠の名称は変遷しつつも、全盛期が続いたのである。
その中で、市原悦子の「家政婦は見た!」、水谷豊の「相棒」(ともにテレビ朝日系)など人気作が生まれ、多くの主演作を持つ俳優は“サスペンスの女王”“2時間ドラマの顔”と呼ばれるようになった。