ドラマに対する向き合い方の二極分化
2023年03月16日
1992年の放送開始から長く愛されてきたフジテレビのドラマ「赤い霊柩車」シリーズが、3月17日に放送される「山村美紗サスペンス 赤い霊柩車39 FINAL~弔の京人形」で30年の歴史に幕を閉じる。
父から受け継いだ京都の葬儀社の社長・石原明子(片平なぎさ)が、医師で婚約者の黒沢春彦(神田正輝)と狩矢警部(若林豪)に協力し、身近で起きた殺人事件の真相を探る。最終話は、京人形職人役に榎木孝明、明子の幼なじみ役に松下由樹など豪華ゲストを迎え、友禅の下絵師だった男(羽場裕一)が殺された事件を追う。“映える葬儀を”という依頼を邪険に断ったことで石原葬儀社が危機を迎えると聞いては、ファンとしてはやきもきするが、シリーズが大切にしてきた京都の風情とともに、石原葬儀社の名物コンビ、秋山(大村崑)と良恵(山村紅葉)のコミカルなやりとりも楽しめる内容になっているという。
昨年12月にはやはり、テレビ朝日系の「土曜ワイド劇場」(1990年~)から長く親しまれてきた片岡鶴太郎主演の「森村誠一 終着駅」シリーズと高橋英樹主演の「西村京太郎 トラベルミステリーシリーズ」(1979年~)もそれぞれファイナルとなっている。2時間ドラマ枠で育てられた名物ドラマが、次々姿を消している。
2時間ドラマの歴史は、日本のテレビの歩みやライフスタイルの変化と深く関係している。
その元祖といわれる「土曜ワイド劇場」は、77年にスタート。第一弾は、渥美清主演の「時間(とき)よ、止まれ」だった。脚本はテレビ黎明期から活躍し、NHKの名作「天下御免」などを手がけた早坂暁。時効寸前の殺人事件を追う万年平刑事(渥美)が、テレビ画面で偶然、犯人(小林桂樹)を見つけ、執念で追い詰めるというストーリーで、この年の第32回文化庁芸術祭優秀賞を受賞した。放送時間は90分だったが、当時、ドラマは30分か1時間枠がほとんどで、90分のドラマは「特別」だった。
「土曜ワイド劇場」は、山口百恵の「野菊の墓」といった文芸ドラマなど試行錯誤を続けながら2時間枠となる。2時間ドラマは、その後、日本テレビ系で80年4月に「木曜ゴールデンドラマ」、81年9月に「火曜サスペンス劇場」(通称・火サス)がスタート、TBSは82年に「土曜ワイド」と同じ時間帯で「ザ・サスペンス」をぶつけ、84年にはフジテレビの「金曜女のドラマスペシャル」も加わって、各局が長時間ドラマで鎬(しのぎ)を削る時代がきた。2001年に始まったテレビ東京系の「女と愛とミステリー」とともに、放送日や枠の名称は変遷しつつも、全盛期が続いたのである。
その中で、市原悦子の「家政婦は見た!」、水谷豊の「相棒」(ともにテレビ朝日系)など人気作が生まれ、多くの主演作を持つ俳優は“サスペンスの女王”“2時間ドラマの顔”と呼ばれるようになった。
90年代後半以降、筆者は2時間ドラマ関係者に取材してきたが、その中で、興味深かったのは、2時間ドラマの特徴についての話だ。
たとえば、「土曜ワイド劇場」は、週末の放送ということで娯楽色が特に強い。名探偵明智小五郎が、顔面の変装をべりべりとはがす場面でも知られる「江戸川乱歩の美女シリーズ」(天知茂・北大路欣也・西郷輝彦主演)や温泉ギャルズと呼ばれる女性たちのヌードも定番だった「混浴露天風呂連続殺人シリーズ」(古谷一行・木の実ナナ主演)、高橋英樹の船長シリーズ(高橋英樹主演)、「タクシードライバーの推理日誌シリーズ」(渡瀬恒彦主演)など、男性主役のシリーズが多いのも特徴だ。
「土曜ワイド」のライバルといわれた「火サス」は、まだ週末には遠く、視聴者も仕事モードで、浜木綿子主演の「監察医・室生亜季子」、片平なぎさ主演の「小京都ミステリー」、眞野あずさ主演の「弁護士・高林鮎子」など働く女性たちが活躍するシリーズが目立つ。
週休2日制が定着してくると、フジテレビの金曜枠に「赤い霊柩車」はじめ、「京都祇園入り婿刑事事件簿」(三田村邦彦主演)、「おだまりコンビシリーズ」(美川憲一・加賀まりこ主演)、「スチュワーデス刑事」(財前直見主演)といった人気シリーズが出てくる。この枠はコメディタッチで気楽に楽しめるところが特徴だ。
しかし、05年、「火曜サスペンス」が終了。
中高年層を主な対象とする2時間ドラマよりも、若い視聴者を狙った企画を優先するためとも言われたが、当時、取材して気になったのは、
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