さかせがわ猫丸(さかせがわ・ねこまる) フリーライター
大阪府出身、兵庫県在住。全国紙の広告局に勤めた後、出産を機に退社。フリーランスとなり、ラジオ番組台本や、芸能・教育関係の新聞広告記事を担当。2009年4月からアサヒ・コム(朝日新聞デジタル)に「猫丸」名で宝塚歌劇の記事を執筆。ペンネームは、猫をこよなく愛することから。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
礼真琴×フレンチ・ロック、圧巻のパフォーマンスが宝塚の壁を突き破る
星組公演『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』が、3月21日、梅田芸術劇場シアター・ドラマシティで上演されました(29日まで。4月4日~10日/日本青年館ホール)。
宝塚においてスタンダールの『赤と黒』は、1957年の初演から何度も上演され、最近では2020年に月組で再演された不朽の名作です。しかし今回のフレンチミュージカル版は、音楽で物語を紡ぐ通常のミュージカルとは異なり、感情を爆発させる音楽と退廃的な雰囲気が独特で、これまでとはまったく別のものと言っていいでしょう。
主演は、プレお披露目が『ロックオペラ モーツァルト』、次回の大劇場公演が『1789』とご縁が深い、宝塚フレンチ・ロックの申し子・礼真琴さん。専科の英真なおきさん、紫門ゆりやさんと、歌の得意な星組生20名が一丸となって挑み、宝塚歌劇の壁を突き破ったかのような作品が生まれました。
――ナポレオンが没し、王政復古となったフランス。貧しい大工の息子として生まれたジュリアン・ソレル(礼)はナポレオンを崇拝し、いつかは立身出世をして富と名声を手に入れるという野望を秘めている。そんなある日、彼にレナール(紫門ゆりや)町長家の家庭教師の話が舞い込んだ。レナールにとっては、競い合う貧民収容所の所長ヴァルノ(ひろ香祐)と夫人(小桜ほのか)に差をつけるための策だったが、ジュリアンはすぐにレナール家の人々に気に入られていく――
襟足を刈り上げた黒髪が新鮮な礼さんは、今回、初の地毛で臨んでいるとのこと。長めの前髪からのぞく伏し目がちな表情から、繊細さと自尊心の強さを、細かな演技力で伝えています。上流階級への怒りと闇に包まれた彼の見た目はひたすらおとなしい青年で、そのため「暗い」と批判されることも少なくありませんでした。しかし、彼には常に両極端な面があって、純情なのか大胆なのか、その切り替えに客席は何度もあっと驚かされます。特に最初の変身場面(?)には、まさに“お客様のハートを一網打尽”と呼ぶにふさわしい電撃ショックで、これぞフレンチ・ロックの醍醐味なのかも⁉
難解なメロディーとリズムを全身で刻み、ハードロックの連続で圧倒したかと思えば、切ない心情を吐露する歌で胸を締め付けられる。ソロナンバーでは、録音した自らの声でハーモニーを重ねているのもさらに耳福でした。
下級生の頃から歌・ダンス・芝居には定評のあった礼さんですが、その実力はさらに深く、より高まっています。礼さんにとって限界という言葉などないのかもしれません。
◆公演情報◆
『Le Rouge et le Noir ~赤と黒~』
2023年3月21日(火)~29日(水) 梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ
2023年4月4日(火)~10日(月) 日本青年館ホール
公式ホームページ
[スタッフ]
潤色・演出/谷貴矢