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世界遺産紹介する「産業遺産情報センター」に行ってみた

見学にハードル、見えない近代化の「影」

中沢けい 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

情報発信が目的なのに、敷居が高い

 東京の大江戸線・若松河田駅から5分ほどの場所にある「産業遺産情報センター」に出かけたいと考えながら、なんとなく気が重かった。

 産業遺産情報センターのHPを見ると平日の午前10時から17時までが開館時間で、土曜、日曜、祝日、年末年始は休館日とある。

 博物館、美術館などが独立行政法人となり、来館者を集めるために土日の開館は当たり前、時には曜日を決め、夜間時間帯の開館を定めているこの時代の公共施設としては特異だ。そのうえ、見学のためには事前予約が必要となっている。事前予約ではガイド付きの見学かガイドなしの見学を選ばなければならない。

 率直に言って、現在の産業遺産の政策について批判的な見学者はなるべく寄せ付けたくないと、そう語っているような予約フォーマットだ。

 内閣官房HPの「産業遺産情報センターの開所について」と題したページでは以下のような説明が掲げられている。

 産業遺産に関する総合的な情報センターとして、同センターでは、平成27年7月にユネスコ世界遺産委員会において世界文化遺産として登録された『明治日本の産業革命遺産 製鉄・製鋼、造船、石炭産業』を中心とした産業遺産に関する情報発信を行って参ります。

 ユネスコ世界遺産登録と合わせて作られた施設である。

 産業遺産情報センター 5県23件の資産をまとめた「明治日本の産業革命遺産」は、2015年にユネスコ(国連教育科学文化機関)の世界文化遺産に登録された。だが、審査の過程で、韓国から「自国民が強制労働させられた施設が含まれている」と問題視、日本側は「適切な措置を説明戦略に盛り込む」と約束し、ユネスコの世界遺産委員会は「各資産で包括的な歴史が理解されるための措置について日本の発言に注目する」との補足事項をつけた。それに応えるため、2017年に同センターが開設されたが、ユネスコの委員会から、朝鮮半島出身者に労働を強いたことなどの説明が不十分だと、再三指摘されている。


筆者

中沢けい

中沢けい(なかざわ・けい) 小説家、法政大学文学部日本文学科教授

1959年神奈川県横浜市生まれ。明治大学政治経済学部政治学科卒業。1978年「海を感じる時」で第21回群像新人賞を受賞。1985年「水平線上にて」で第7回野間文芸新人賞を受賞。代表作に「女ともだち」「楽隊のうさぎ」などがある。近著は「麹町二婆二娘孫一人」(新潮社刊)、対談集「アンチ・ヘイトダイアローグ」(人文書院)など。2006年より法政大学文学部日本文学科教授。文芸創作を担当。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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