真名子陽子(まなご・ようこ) ライター、エディター
大阪生まれ。ファッションデザインの専門学校を卒業後、デザイナーやファッションショーの制作などを経て、好奇心の赴くままに職歴を重ね、現在の仕事に落ち着く。レシピ本や観光情報誌、学校案内パンフレットなどの編集に携わる一方、再びめぐりあった舞台のおもしろさを広く伝えるべく、文化・エンタメジャンルのスターファイルで、役者インタビューなどを執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
今後も自分の技術は磨いていきたい
2006年にミュージカル『テニスの王子様』で舞台デビューしてから着実にキャリアを重ねてきた伊礼彼方。近年では、『レ・ミゼラブル』のジャベール役や『フィスト・オブ・ノーススター~北斗の拳~』のレイ役とジュウザ役の交互出演、さらに『ミス・サイゴン』ではエンジニア役で主演を務めるなど、「大型ミュージカルに伊礼彼方あり」と言わしめるほどの存在感を示している。
ミュージカル『キングアーサー』を終えた伊礼彼方に、現在の心境や今後のこと、役者としての思いを聞いた。
――数年続いたコロナ禍もようやく落ち着いてきましたね。
そうですね。でも、まだまだ規制があるので、早く緩めばいいなと思います。開演前のインフォメーションでマスク云々言ってるのも、もうそろそろいいんじゃないかなと、個人的には思います。裏側で言うと、制作会社によって対応も違うので、同じ方向を向き始めてもいいんじゃないかな。検査の仕方や発声の規制とかね。
――演じる側としては何も変わらない?
演じるうえでは何にも変わっていないですね。もちろん恐怖心はありましたよ、最初は。でもニュースも早い段階から見なくなりましたし、僕の中のコロナの枠は早々に外しました。あと、作品を届ける人間として思うのは、もうシングルキャストはやめた方がいいと思います。常にダブルやトリプルキャストですればいいんじゃないかなと。ひとりに何かあれば補えるようにした方がいいですよね、そうすれば公演は止まらないから。
――今思えば、すべての公演がストップしたのは衝撃でした。
当初は仕事がなくなりましたからね。正直、このままで食っていけるのか?って思いましたし、本当に必要のない仕事なんだとも思ってしまいました。マスクを外さなきゃ成立しない仕事だから、立場がなくなりましたよね。さすがにその時は、別の収入源を持たなきゃいけないなと、現実的に。非常に危険な産業だなと。ただ、ありがたいことに徐々に再開していく中で、役者の仕事をもらえたのでお仕事を下さった方々に感謝しています。
――以前のインタビューで、自分の影響力というのを考え始めたということをおっしゃっていました。だからセンターに立ちたいと初めて思ったと。それから『ミス・サイゴン』でセンターに立たれました。実現されましたが、何か変化はありましたか?
センターに立ったといってもまだ1作品だけだから、そんなに変わるわけじゃないけれど、周りの方々は、センターにたった伊礼彼方を見て、この人には求心力があると言ってくださったんですよね。それは大きな自信に繋がりました。舞台も主演を担うスターの人が座組みを引っ張っていくことが多いんですけど、僕は早々にそういうスターシステムから離脱したタイプだと思っていて、技術力とその影響力で勝ち上がっていきたいという思いが強かったんですけど、それが叶ったかなという感覚があります。変わらず自分のブランド力を上げなきゃいけないとは思っていますけれど。
――SNSで上げていらっしゃいましたが、若い役者の方へ演技を教えていました。
そうなんです、技術も若い方へ伝えていきたいと思うので、アドバイスをするようになりました。リアルな芝居に目覚めてくれたらいいなと思うんです。僕は芝居に関しての特別な教育を受けていないので、経験してきたことしか伝えられないけれども、あながち間違った方向ではないと思っています。ただ、先生のように伝え方が上手なわけじゃないから、やって見せて、その感覚を盗んでもらう。自分の技術を盗んでもらって、また次に繋げてもらいたい。本当はレッスン代を取ってやるんだろうけど(笑)、それを職業にしたら役者を辞めなきゃいけないと思うので、そういうことは関係なく、伝えていく活動はこれからもしていきます。
――センターに立って自信に繋がる反響を得ることで、変化することもあったんですね。
ただ、このままでは演劇界の外には影響力を与えられないですよね。ミュージカルを知らない人たちに影響を与えるにはテレビに出なきゃいけないし、演劇界を引っ張っていこう、変えていきたいんだと言える人がもっと出なきゃいけない。僕自身は変わらず、地位を確立して、意見を言える影響力を持つ人間になれるように目指していきます。
もともと、僕はいろんな人に意見を言うんです、プロデューサーともよく話をしますし。その中でいろんな情報を聞くんですけど、コロナで舞台の中止が相次ぐとやはりビジネスとしては大変なんですよね。だから、僕にできることがあれば手伝いたいという気持ちになるわけです。でもそんなことを考えて活動している役者って少なくて、ただ、みんながそういうマインドにならないと、自分の公演だという感覚で携わっていかないと、単なる1プレイヤーかもしれないですけど、そこは作品への愛情を持って……愛情かな? 作品と向き合う意識の高さかな、それが必要になってくると思います。
――なるほど。
僕の立ち位置を上げていくために、これからも技術力を高めたいです。先日まで出演していた『キングアーサー』では、僕が“ロックな歌唱”をできる人とは多分知らなかったと思うんです。たまたまプロデューサーがキャスティングしてくれたけれども、あの作品でお客さまは知ってくれたわけです。伊礼さんってロックな歌唱ができるんですねって。今後、ロックな歌唱ができる役者の需要があれば、キャスティングされる可能性があるだろうと思います。そういった可能性を広げていきたいし、日本のミュージカル界にこういう役者がいますよっていうことは伝えていきたいです。
〈伊礼彼方プロフィル〉
1982年、沖縄出身の父とチリ出身の母との間に生まれ、幼少期をアルゼンチンで過ごす。中学生の頃より音楽活動を始め、2006年『テニスの王子様』で舞台デビュー。2008年『エリザベート』ルドルフ役に抜擢され、以降、ジャンルを問わず多数のミュージカル、ストレートプレイ等で多彩な役柄を演じ幅広く活躍中。主な出演作に、『レ・ミゼラブル』、『ジャージー・ボーイズ』、『ミス・サイゴン』、『キングアーサー』など。2019年には藤井隆プロデュースで初のミュージカル・カバー・アルバム「Elegante」をリリース。6月から『ムーラン・ルージュ!ザ・ミュージカル』にデューク(モンロス公爵)役で出演する。
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