2020年以降の舞台芸術を「定点観測」する〈下〉
2023年04月20日
新型コロナパンデミックに激しく揺さぶられてきた演劇界のこの3年間を、堂本光一の舞台『Endless SHOCK』を「定点」として見つめる論考の後編です。苦境の中、いかにして「Show must go on」の精神は貫かれたのか――。
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2022年の『Endless SHOCK -Eternal-』公演――帝国劇場(4月10日~5月31日)と博多座(9月。当初、具体的なスケジュールは発表されていない)では、ライバル役が上田竜也からSexy Zoneの佐藤勝利(帝国劇場)とKis-My-Ft2の北山宏光(博多座)に交代し、劇場のオーナー役として前田美波里(帝国劇場)にくわえて島田歌穂(博多座)が配役されるなど、新たな布陣が固まった。
堂本光一が『Endless SHOCK -Eternal-』の上演を決めたのは、製作発表会見(2月18日)の2日前。直前まで、2年ぶりとなる本編の有観客上演の可能性を模索したが、コロナ禍以前の形態での上演は困難と判断。本編の無観客収録による映像配信と、帝国劇場および博多座での新演出による『Endless SHOCK -Eternal-』公演という2本立てになった。
本編映像と『Endless SHOCK -Eternal-』の組み合わせは2021年2月と同じだが、2022年には、限られた時間のなかで、新キャストによる本編の撮影と『Endless SHOCK -Eternal-』公演の稽古を同時並行で進めねばならない。ライバル役の佐藤勝利と北山宏光に新曲が用意されるなど、『Endless SHOCK -Eternal-』自体も深化していった。
4月5日に帝国劇場で収録した『Endless SHOCK』の本編映像は、9日にジャニーズネットオンラインで配信。翌10日に初日を開けた『Endless SHOCK -Eternal-』では、前年同様に映像が駆使されたが、新規収録の本編映像と実際の舞台を融合させることで、ふたつの作品がより有機的に絡み合う新たな劇世界を創出した。
また、前年までの感染対策のガイドラインでは、舞台袖に演者の人数分の着替え部屋を設置する必要があり、装置を簡略化せざるをえなかったが、2022年に条件が緩和され、舞台袖に装置を入れられるようになった。
そこでオーケストラを舞台上からオーケストラピットに据え、映像で対応していた殺陣を実際におこなうなど、しだいに本編に近づく演出に刷新されていったのである。
しかし、日々感染状況と対峙しながら、上演の可否と向き合う現場の苦境は続く。5月18には、公演関係者の新型コロナウイルス感染症の陽性反応が確認され、同日夜と翌日昼夜の3公演が急遽中止となる。さらに21日から23日までの公演も中止に。計7公演を失いながら、5月31日昼の部、帝国劇場公演の最終日(夜の部をのこして)に、堂本光一は単独主演1900回の節目を迎えた。
他の公演でも、開場直前に中止が決まったり、開場したものの開演前に突如中止のアナウンスが流れたり、幕間で突如中止になったり……。コロナ禍はフェーズを変えながら、興行を脅かしていた。
それでも事態は少しずつ変化の兆しもみせる。
6月6日付のInstagramでは、まん延防止等重点措置解除から2か月以上が経過し、福岡県内の感染状況が落ち着いた状況に鑑み、博多座公演を2年半ぶりの『Endless SHOCK』本編上演に変更すると発表された。
博多座の『Endless SHOCK』(9月5日~10月2日)は予定どおり開幕。『Endless SHOCK -Eternal-』ではカットしていた客席上空のフライングを、衣裳に合わせた黒いマスクを着用し、歌唱を伴わないかたちで復活させたことは大きな転回点だった。9月9日の昼夜公演を急遽中止したが、11日以降の公演は無事上演され、千穐楽を迎えた。
そして、2023年4・5月の帝国劇場で、2020年2月26日の中断以来、3年ぶりに本編が上演されることになった。
しかも、前年の帝国劇場と博多座から継続するダブルキャストによる『Endless SHOCK -Eternal-』との2作同時上演である。昼夜の公演で装置も変わる。4通りの舞台を背負って走る峻険な道を、堂本光一は選んだのだった。どこまで彼は、自分に負荷をかけつづけるのだろうか、ともおもう。
ふたつの『Endless SHOCK』に刻印されたコロナ禍の記憶。パンデミックという未曾有の事態を背景にうまれた作品が、ついにリアルで同時に並ぶことで、つくり手も受け手も2020年から2023年までの時間を複眼でみることになる。
思えば、2020年2月に止まってしまった『Endless SHOCK』の時間を、その3年後の未来という設定で再起動したのが『Endless SHOCK -Eternal-』だった。現実の時間としても、あれから3年後――つまり2023年に『Endless SHOCK』は、本編と『Eternal』のデュアルモードで、次なる進化形をみせる。そのことじたいが、公演全体を貫く演出の一環でもあるのだろう。
「3年後」という劇の時間に、私たちが生きる現実の時間が追いついたとき、堂本光一がふたたび、帝国劇場の観客の頭上を舞う瞬間が訪れる。
筆者が観劇したのは、4月13日の夜の部。堂本光一がオープニングで、3年ぶりの帝国劇場での本編上演と客席に語りかける。早い段階で、客席上空のフライングが披露される。堂本はマスクを着けていない。後半に向かうにつれて、堂本はさまざまなかたちで、帝国劇場の中空を自在に舞いつづけた。
『Endless SHOCK』が帝国劇場に還ってきた――。
風を切って飛翔する堂本光一の姿を見上げながら、この光景のために、堂本は、カンパニーは、あらゆる公演関係者は、そして観客は、3年という時間を懸けてきたのだと、不意に胸を衝かれた。
劇の終盤、コウイチ(堂本光一)がショウリ(佐藤勝利)に語る。ひとつ苦しみ、ひとつ傷つくたびに、新しい表現がうまれる、と。まさにこの3年間、堂本と『Endless SHOCK』が歩んできた道程を象徴するようなせりふにも聞こえる。筆者が観たのは本編だけだが、おそらく『Endless SHOCK -Eternal-』も単なるスピンオフにとどまらない一個の作品として深化を遂げているにちがいない。
堂本光一は、アイドルとしての立場や役割を十二分に意識したうえで、舞台人として在ろうとしてきた。次に紹介するのは、コロナ禍がはじまる直前の言葉である。
「帝国劇場なら2千人足らず、東京ドームなら一度のライブで5万5千人。若い世代には、『ドームのほうがいい』と思っている子もいるかもしれない。舞台には、ワーとかキャーとかいう歓声もありませんからね。でも、その限られた空間こそ、非常に贅沢だと思いますし、望めば立てるような場所ではないことを忘れてはいけません」
(「表紙の人」『AERA』2020年2月10日号)
今回の帝国劇場公演は、作品のテーマである「Show must go on」の精神をもってコロナ禍のなかを駆け抜けてきた『Endless SHOCK』の新たな現在形であり、堂本光一の、帝国劇場で座長を務める者としての覚悟の証明でもある。
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