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辻真先さんが語る、てんやわんやのテレビ草創期

戦後大衆文化史を体現するレジェンドに聞く〈上〉

後藤隆基 立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター助教

たくさん金魚が泳いだ「黒歴史」

――『スポンヂの月』は、森繫さんの代わりに有島一郎さんが出ることになって、のり平さんと草笛さんの代役が高城淳一さん、恵ミチコさんに。

 できるわけないんだから、やめるべきだったんですよ。でも、偉い人たちにはメンツがあるから、何がなんでもやれと言うんです。ガリ版の台本がかろうじて2冊できたけど、プロデューサー・ディレクターとフロアディレクターの分しかない。だから、役者はどこに誰が出るのかわからないわけです。

 あの頃、ボールペンができましたから、みんな自分のせりふだけ抜いて、張り物の裏に書いてました。必死ですよ。で、フロアディレクターがチョークを投げて、当たった人が出る。夜8時から9時の放送予定だったのが、20分遅れて始まり、40分遅れで終わりました。でも、見た人はなんだかわかんなかったでしょうね。

――一応、放送はできたんですね。

 やらなきゃいけないから、やりましたよ。ただ、だいぶ金魚が泳ぎました。あの頃の放送番組はうまくいかないと、金魚が泳ぐのを見せていたんですね。あれはNHKの黒歴史でね。台本が1冊だけ持ってますけど、読みたくない(笑)。

――菊田さんのおっしゃったネオンサインは。

 ネオンサインなんてとうとう出ませんでした(笑)。

 1956年12月2日付朝日新聞の「読者のテレビ評」欄には、次のような投書が掲載された。【主演の顔ぶれが新聞のプロ(グラム)と違っていた。また練習不足のせいか、セリフは棒読み。これが芸術祭参加とは情けない。企画はもっと慎重に願いたい】

 インタビュー後半に続きます。


筆者

後藤隆基

後藤隆基(ごとう・りゅうき) 立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター助教

1981年静岡県生まれ。立教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は近現代日本演劇・文学・文化。著書に『高安月郊研究――明治期京阪演劇の革新者』(晃洋書房、2018)、編著に『ロスト・イン・パンデミック――失われた演劇と新たな表現の地平』(春陽堂書店、2021)、『小劇場演劇とは何か』(ひつじ書房、2022)ほか。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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