後藤隆基(ごとう・りゅうき) 立教大学江戸川乱歩記念大衆文化研究センター助教
1981年静岡県生まれ。立教大学大学院文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。専門は近現代日本演劇・文学・文化。著書に『高安月郊研究――明治期京阪演劇の革新者』(晃洋書房、2018)、編著に『ロスト・イン・パンデミック――失われた演劇と新たな表現の地平』(春陽堂書店、2021)、『小劇場演劇とは何か』(ひつじ書房、2022)ほか。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
戦後大衆文化史を体現するレジェンドに聞く〈上〉
辻真先さん、91歳。NHKでテレビドラマ制作に携わった後、脚本家に転じ、『鉄腕アトム』をはじめ、膨大な数のアニメ、特撮の脚本を執筆してきました。小説では1972年にミステリー作家デビュー。2020年『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』は、その年の「ミステリランキング」3冠に輝き、いまも新作が次々刊行されています。卒寿を超えた「レジェンド」にして、バリバリの「現役」、辻さんのインタビューです。戦後日本の大衆文化史総まくりの様相を呈する「辻真先・大宇宙」のほんの一端ですが――前編は草創期のテレビドラマ狂騒曲を。
――辻さんは名古屋大学を卒業後、1954年にNHKに入られました。ここから、現在まで連なる戦後メディア史の扉が開きます。
辻 そんな大それた話でもなくてね(笑)。NHKは、入ったばかりの三級職は番組を担当しても名前が出ないので、記録に残っていないものが多いんです。少し出世して二級職にならないと名前を出すことまかりならん、という組織で。だから、初期に演出していた『お笑い三人組』にはクレジットされてなかったんじゃないかな。
――当時の三遊亭小金馬、一龍斎貞鳳、江戸家猫八が出ていた公開生放送。1955年にラジオではじまって、翌年からテレビとの同時放送になりました。
辻 そう。僕の番組だと、撮影――当時の正しい言い方だと「撮像」ですが――とか美術とか、スタッフはよそから引っ張ってきていたんです。ラジオにはそういうポジションがありませんでしたから。なので、彼らのほうが給料はいいわけですね。僕は正面からNHKに入ったので一番安かったね。
辻真先
1932年名古屋市生まれ。54年NHKに入り、ドラマのディレクター、プロデューサーなどを務め62年退局。『鉄腕アトム』『サザエさん』『サイボーグ009』『デビルマン』『Dr.スランプ アラレちゃん』など、アニメや特撮の脚本家として幅広く活躍。現在も『名探偵コナン』の脚本を手掛けている。
72年『仮題・中学殺人事件』でミステリ作家デビュー。82年『アリスの国の殺人』が第35回日本推理作家協会賞、2009年に牧薩次の名で刊行した『完全恋愛』が第9回本格ミステリ大賞。19年に第23回日本ミステリー文学大賞を受けた。ミステリランキング3冠の『たかが殺人じゃないか 昭和24年の推理小説』は2023年3月に、『仮題・中学殺人事件』の新装版は4月に、いずれも創元推理文庫で刊行されている。