山口宏子(やまぐち・ひろこ) 朝日新聞記者
1983年朝日新聞社入社。東京、西部(福岡)、大阪の各本社で、演劇を中心に文化ニュース、批評などを担当。演劇担当の編集委員、文化・メディア担当の論説委員も。武蔵野美術大学・日本大学非常勤講師。共著に『蜷川幸雄の仕事』(新潮社)。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
2023・4・24 ファイナル公演「大千穐楽」を観て
『ラ・マンチャの男』の劇中のせりふや歌詞には、心に強く残るフレーズが数多い。これほど、人が生きる意味を考えさせる言葉の深さを持つミュージカルは、あまり例がないのではないだろうか。
例えば、タイトルと同じ「ラ・マンチャの男」の〈聞けや 汚れ果てし世界よ 忌まわしき巷よ 風に旗を翻して 戦いを挑まん〉の格調高く、わくわくするような勇ましさ。代表曲「見果てぬ夢」が歌う〈夢は稔り難く 敵は数多なりとも 胸に悲しみを秘めて 我は勇みて行かん……〉の覚悟。
それらの言葉が、流麗で、耳に残る旋律で歌われると、聴く者の中にしみ入り、広がってくる。ミュージカルという表現が持つ特別な力を改めて感じる。
せりふも胸を突く。
ドン・キホーテは言う。
「一番憎むべき狂気とは、あるがままの人生にただ折り合いをつけてしまって、あるべき姿の為に戦わないことだ」
白鸚は1324回、このせりふで人々を励まし、奮い立たせてきた。その声は、聞いた人たちの記憶の中で、これからも響き続けることだろう。