朝日新聞社の言論サイト「論座」に掲載された原稿を含む2件の報道がPEPジャーナリズム大賞特別賞を受賞しました。
一つは、朝日新聞編集委員の奥山俊宏さんによる「後世に引き継ぐべき著名・重要な訴訟記録が多数廃棄されていた実態とその是正の必要性を明らかにした一連の報道」、もう一つは、フリージャーナリストの中野円佳さんによる「キッズライン事件を巡る一連の報道」です。
奥山さんは、訴訟記録の廃棄の実情について、2019年2月以降、朝日新聞紙面や朝日新聞デジタルに記事を出すのと連動して、「法と経済のジャーナル Asahi Judiciary」(AJ)で「東京地裁で記録が廃棄されてしまった著名な訴訟のリスト」など詳細な資料を公開。「違憲判例の刑事訴訟記録9件中8件廃棄 法務省が改善検討チームを設置」など詳報をAJに出しました。AJはその後、論座に合流しました。
7月30日に公表された選考委員のコメントは「検察・裁判所は司法の一角を担う機関であり、人権や民主主義と密接に関わっているが、そうした機関において、違憲訴訟を含む訴訟資料が廃棄されていたことをこの報道は暴いた。その意義は重大で、日本の民主主義を考える上で、衝撃的である」と述べています。
奥山さんは授賞式のスピーチで「AJは、法制度やその運用・執行、裁判をできるだけ詳しく伝えるための、かなりニッチな分野を対象としたニュースサイトとして11年前に立ち上げたのですが、その特性もあって、資料をPDFファイルで掲載するなど詳細な報道を出すことができ、世の中での議論のための素材を提供することができた」と述べました。
中野さんによる報道について、授賞式で、選考委員長の林香里・東京大学大学院情報学環教授は「中野氏はまさにオンラインジャーナリストというにふさわしく、当事者、被害者の証言、さまざまな情報を遠隔地から取材・収集して記事を書き上げ、さらにそれを複数の媒体で発信して、どんどん注目度を上げていくという、取材から公開までネットをフル活用して展開されました。このように、調査報道の新たなあり方、そしてその展開の仕方も提起されていることから特別賞といたしました」と述べました。
授賞式で、中野さんは「大手メディアが縦割りゆえにやりにくかったこと」をやれたと言い、「告発してきてくださる方々がSNSを利用して連絡してきてくださる」と振り返りました。インターネット上のジャーナリズムについて「いろいろな可能性がある一方で、玉石混淆」と指摘し、「広くボトムアップをする、質を上げていく活動」の必要性を訴えました。多様なメディアでの記事掲載について「その関係者のすべてにお礼を申し上げたい」とスピーチを締めくくりました。
また、大賞を受賞した石戸諭さんにも、受賞作とは別ですが、「東浩紀『ゲンロン戦記』をつくりながら考えたネットメディアと私の戦い」などを論座にご寄稿いただいています。
奥山さん、中野さん以外の受賞者、受賞作は以下の通り:
大賞 石戸諭 「自粛警察」の正体──小市民が弾圧者に変わるとき
現場部門 藤井誠二 その8年間は毎日不安だった ――「無国籍児」だった娘と、フィリピン人母の思い
オピニオン部門 吉川トリコ 流産あるあるすごく言いたい