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「神戸新聞NEXT」は電子版の地方紙モデルになるか

『Journalism』

 全国紙の有料デジタルサービスが出そろうなか、神戸新聞社は2012年11月1日、電子版「神戸新聞NEXT(ネクスト)」を創刊した。ウェブサイトの有料記事や紙面ビューワー、記事データベース、安全安心メールを組み合わせたサービスで、新聞(紙版)読者の月額料金を購読料プラス電子版157円と設定した。全国紙のサービスとは異なる地域発のデジタルメディアをめざしている。

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 「電子版を創刊する」。11年1月、社長の年頭あいさつで号令がかかった。前年に日経新聞電子版がスタートし、他の全国紙も有料サービスを始めるといううわさが出ていた。

 社内でもサイトの有料化から新しい端末やプラットホームでのサービスまでさまざまな課金プランを模索していたが、本格的な有料サービスに踏み切るためには、まず編集、販売などの意識が変わる必要があった。社長のトップダウンで社内横断の開発チームが発足。しかし、当初は社内でも温度差があり、電子版には抵抗も大きかった。

 最初の試案では〈2年間の助走期間を設けてまず速報や動画、深掘り記事などをデジタル媒体向けに出せる報道態勢をつくる〉〈販売店対策も不可欠〉と、有料モバイルサイトを先行させながら3年間かけて有料電子版への準備を進める計画だった。 試案に対して経営陣から「3年先では遅い、2年後だ」とはっぱがかかり、12年秋のスタートに向けて計画は急加速した。

 ユーザーとして当初から想定していたのは現在の読者。新聞を購読していない人が新聞料金並みの料金を支払うのはハードルが高い。かと言って紙面データを含めた電子版を安く販売することは、販売部門も受け入れ難い。「新聞を読んでいる人にとって便利なサービス」を新聞購読料と合わせて手ごろな料金で提供する―というコンセプトでシステム設計に入った。

 全国紙の電子版は機能豊富だが多大な開発費もかかっている。地方紙の規模では負担が大きい。地方紙ならではの「身の丈サイズ」で、かつ必要な機能は落とさないことが課題だった。

 最もコストがかかると予想された会員管理課金システムで、共同通信社の提唱による加盟社のシステム共有化の話が持ち上がったのは渡りに船だった。

 このシステムで会員認証を行い、サイト、紙面ビューワー、データベースの機能を共通のID、パスワードで使えるようにする。紙面ビューワーはすでに僚紙「デイリースポーツ」電子版で利用していた。過去記事データベースも既存システムを結合し、テキストだけでなく見出しや写真を含めた切り抜きイメージでも出力できる。ビューワーとデータベースは、パートナー会社が電子版向けに改良し、ローコストのクラウドでの運用が実現した。

 コンテンツと機能を考えるにあたっては、「全国紙と地方紙のデジタルメディアはまるで異なるものになる」という認識があった。新聞社は横並び意識が強く、他紙と同じ土俵で勝負しようとしがちだ。しかしネットではポータルサイト、ソーシャルメディア、放送、雑誌、ネットニュースサイト、ブログなどあらゆる発信元がPV(ページビュー)を取りあっている。地方紙メディアのコンテンツが競合するのは、全国紙ではなくむしろ個人のブログやソーシャルメディアかもしれない。

 紙面と同じく12の地域版ごとにページを設け、支社総局から地域情報の速報を送る▽朝刊紙面に加えて全地域版を紙面イメージで見せる▽兵庫県内の事件事故をはじめ災害情報や鉄道運行情報、気象警報を安全安心メールとして発信するなど、紙面以上に地域情報にこだわった。

 パソコン、タブレット、スマートフォンのブラウザーを通してすべてのサービスを利用でき、複数の端末で同時にログインできる。プラットホームのバージョンアップや規約変更、端末間の差異に振り回され、課金手段も制限されるアプリを回避し、きめ細かくデザイン変更やコンテンツが追加できるブラウザーベースにした。スマートフォンとパソコンやタブレット用では画面デザインを大きく変えた。

 価格は議論となった。少しでも利益が出る価格設定をと考えたが、先行紙の電子サービスも普及が進んでいないことなどを参考に、プラス157円という戦略的価格を打ち出した。

 支払いは、新聞購読者のダブルコースは購読料と併せて販売店に集金を委託、電子版単独コース(3675円)はクレジットカードで決済する。購読者かどうかの確認は販売店にリストを送り確認してもらう。ダブルコース、単独コースのいずれも販売店に販売や購読確認の管理手数料を支払うようにした。

■電子版公開で記者の速報意識が変わる

 最後まで難航したのが、朝夕刊の締め切りを前提とした記事編集から出稿までの流れを変えることだった。デジタル専門の取材・編集態勢を敷くのは難しい。「紙もデジタルも」並行して取材からデスク作業までこなすことが求められる。現場の記者から「必要性は理解するが、人員を増やさず速報を強化すれば負担が増える」と危ぶむ声もあった。実際に電子版を公開し、記者自身がサービスを利用するようになると「発生ものはまずNEXT」という意識に変わりつつある。鉄道遅延など暮らしにかかわる速報が増え、記者が写真を撮影する合間に撮った動画の本数も増えてきた。電子版と連携したフェイスブックでの記者ブログも始まった。

 「13年2月末まで無料」のため、登録者数はまずまず伸びている。読者からは機能やコンテンツ、デザインなどにさまざまな要望が寄せられる。「どうしてサイトを有料にした」とのおしかりもあり、無料と有料との区分は悩ましい。

 紙面と併せて読めばもっと便利なサービスをめざして、できるだけ多くの人に活用していただくよう改良を重ねていく。

    ◇

大町 聡(おおまち・さとし)

神戸新聞社デジタル事業局次長。1959年大阪市生まれ。大阪市立大学卒。83年入社、社会部副部長、デジタル情報部長などを経て2010年から現職。

本稿は朝日新聞社発行の専門誌『Journalism』1月号より収録しています。

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