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ニコ動「アメリカ大統領選 生放送」大使館主催番組の舞台裏

七尾 功

 ニコニコ動画は、昨年11月6日から7日の2日間にわたって、米大統領選挙特別番組「アメリカ大統領選〈オバマvs.ロムニー〉開票まで16時間ぶっ通し!解説&実況生放送」を配信した。この番組は米国大使館主催であり、ジョン・V・ルース駐日米国大使が緊急生出演するなど異例づくめの放送となり、平日深夜からのスタートにもかかわらず約27万人が視聴した。

 米大統領選の2カ月前の時点で大使館側から示された企画は、選挙投開票日の1週間前から、1日1番組ずつ、討論や解説番組を生放送し、投開票日に向けてネットユーザーの関心を高めていくというものだった。

 しかしながら、ユーザーの最大の関心はやはり選挙の勝敗にある。それは過去に放送した2009年総選挙や10年参院選特番、民主党代表選や自民党総裁選の生中継で経験してわかったことだった。

 聞けば、州単位で投票される米大統領選は、接戦の場合、投票から開票そして結果がわかるまで長時間を要するという。特に今回は、米メディアによる事前予想がほぼ互角で、その差も調査の誤差の範囲といわれ、勝敗当確まで10時間はゆうに超えるだろうとのことだった。日本時間で、投票開始は11月6日22時から、当確判明は翌7日午後ということになる。

 こうした事情を踏まえて、投票開始から当確までの時間を16時間と想定、当初の1週間分の企画を、テレビや新聞の報道量やユーザーの関心が最大となるこの2日間で一気に見せたらどうか、ということになった。そのほうがユーザーにさまざまな情報をトータルで伝えることができ、米大統領選への理解が深まるのではないかということになったのである。

 この日の打ち合わせ以後、米国大使館はあれよあれよという間に企画を具体化していった。最終的には、生放送、録画放送からなる12の番組で構成され、大統領選の基礎知識からオバマ、ロムニー両候補陣営の戦略、選挙後の日米関係の行方について議論する盛りだくさんの内容となった。また、総合司会に津田大介氏を起用、中山俊宏青山学院大学教授やタレントの麻木久仁子氏、現地在住の日本人ジャーナリスト、作家の村上龍氏など、個性豊かなメンバーをそろえた。テレビ、ネット双方のユーザーに広くアピールする米国大使館のキャスティングは見事というほかない。

■大使館ぐるみで盛り上げる「民主主義の祭典」

 初日の11月6日、特に盛り上がりを見せたのは、現地で活動するジャーナリストと日本のスタジオとを結んだスカイプ中継だった。カリフォルニアからは映画評論家でありジャーナリストの町山智浩氏、ワシントンDCからはオバマ、ロムニー両陣営の選挙キャンペーンを数カ月にわたって実地取材した海野素央明治大学教授、ニューヨークからは大統領選挙の草の根取材で米国横断を果たした佐久間裕美子氏が最新リポートを届けてくれた。「ティーパーティー」や「オキュパイ運動」の実態や話題となったロムニー氏の隠し撮り映像の.末など、日本のテレビや新聞ではあまり報道されない、現地発ならではの報告にユーザーは釘付けになった。

 また、番組中、随時挿入したAP通信による投票所のリアルタイム映像からもさまざまなことを知ることができた。日本とは違い、投票用紙のサイズが大きく分厚いこと、そして有権者がその投票用紙に書き込む時間が日本の国政選挙とは違い数分間に及ぶこと―。映像を見たユーザーからなぜ投票にこんなに時間がかかるのだろうとの疑問の声があがった。番組のなかで、今回の投票では、大統領選、連邦議会選挙と同時に州民投票も行われていたことを知ることができた。

 2日目の早朝からは、州ごとの開票結果を米国のテレビ局やネットサイトが報道し始めた。生放送スタジオの一角では大使館側の選挙情報分析係が本国からの速報を解析し、その結果を番組の中で逐次報告した。ジャーナリストのモーリー・ロバートソン氏らも、iPadを活用しながら、米国のメディアサイトの情報をピックアップしユーザーにわかりやすく伝えてくれた。

 開票結果が判明するごとに番組はクライマックスに近づいていった。ちょっとしたハプニングもあった。モーリーさんの取材にきていたNHKが同氏にインタビューする様子もそのまま当番組で放送したのである。

 やがてロムニー支持で知られる米国の放送局Foxがオバマ氏勝利の当確を報じた時点で、出演者から「ロムニー支持の放送局がいうのだから間違いない」との声があがり、番組的にオバマ氏勝利が確定した。このようにオープンで自由度の高い放送でもあった。

 さらに台本にはなかったもうひとつのクライマックスが訪れた。「勝敗までを何とか時間内にユーザーに伝えることができた」という安堵の余韻に浸る間もなく、ルース大使が突然スタジオに登場したのだ。番組開始から、かっきり16時間後に! 視聴者数は一気に1万以上増えた。

 今回の番組を経験して最も印象に残ったことは、ルース大使をはじめ大使館員らが口々に、米大統領選を「民主主義の祭典」と述べていたことだ。

 今号が発売される頃には、日本では総選挙が行われ、その結果も判明している。

 「一票の格差」違憲状態のまま、突如行われた今回の選挙では、09年の総選挙のときにはあれだけ注目された、各党が「マニフェストで民意を問う」姿勢はまったく見られない。必ずしも政策が一致したとは考えにくいのに公示直前になって合流した第三極と、論争からの第三極はずしを最後まで画策した二大政党の行為は、有権者にどのように映っただろうか。

 日本の国政選挙は「民主主義の祭典」からはほど遠い。

    ◇

七尾 功(ななお・こう)

ニコニコ動画政治担当部長(株式会社ドワンゴ)。シンクタンクで地方公共団体における調査および地域政策の立案に主任研究員として従事。2006年、選挙・政治データサイトの立ち上げに参加、日本初の全党参加の政党チャンネルを同時開設。09年ドワンゴ入社。

本論考は朝日新聞の専門誌「Journalism」1月号より収録しています

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