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公共機関のデータ活用化で個人情報はどう利用されるのか

野々下裕子

企業へのサイバー攻撃を24時間態勢で監視するラック社のセキュリティー監視センター「JSOC」=東京都千代田区

 ネット業界では「クラウド」に続いて「ビッグデータ」が、次のビジネスチャンスとして注目を集めている。中でもSNSなどに蓄積されるユーザーの膨大な量の個人データは、企業にとっては価値の高い情報の宝の山となっている。こうした状況に合わせて、データマイニングや言語解析などの技術で必要な情報を収集し、企業のイメージアップや購買支援に結びつけようという動きが活発で、最近では業界で「マーケティング3・0」とか「O2O(Online to Offline)」といった流行語も聞かれるようになった。

企業のユーザーデータ利用はどこまで許されるか?

 SNSを運営する業者も、広告に代わる収入源として積極的にユーザーの生み出す大量のデータを利用しようとしている。昨年9月にツイッターが社外パートナーにユーザーが投稿するリアルタイムデータを提供すると発表。さっそくパートナー企業のNTTコムが、膨大なツイートの中から特定の話題やキーワードのトレンドやネガポジ分析などを行う「バズ・ファインダー」(Buzz Finder)というサービスを開始した。他にも、ビデオリサーチやニールセンが、従来の視聴率に代わる新指標としてツイートを利用すると発表して話題になった。

 一方で、無料サービスとはいえ、集めたユーザーのデータを一方的にビジネスへ結びつけようとする企業の動きへの反発は強い。昨年4月にフェイスブックに買収された写真投稿サイトのインスタグラム(Instagram)は、今年1月16日改変を予定しているユーザーポリシーの中で、ユーザーが投稿した写真やコメントなど全てのデータを自由に広告素材として使用可能にすると発表した。するととたんにネットで非難する声が沸き上がり、数日後にあわててそれを撤回するという騒ぎになった。

自治体や政府のデータもビジネス化する動きへ

 企業以上に信頼性の高いユーザーデータを多く保有しているのが行政機関だ。昨年7月27日に産官学連携で設立された「オープンデータ流通推進コンソーシアム」では、技術やデータガバナンスと並んで、利活用・普及をテーマとした委員会を設置し、蓄積されたデータを積極的に活用し始めようとしている。

 本コンソーシアムは、12月10日に開催されたシンポジウムで、オープンデータの情報の発信と事例開発の検討を行うと発表しているが、特に注目すべきなのがオープンデータをビジネスへ応用させようという動きだ。たとえば、気象庁がオープンにしている気象データは市場でアプリ化され多く出回っているが、同様に行政機関の持つデータをネットやアプリでより扱いやすくするAPIの開発を促進し、新規ビジネスや雇用を生み出そうという狙いだ。

 海外の自治体では子どもが安全に遊べる場所をまとめた公共データを、使いやすいアプリにした有料サービスなども登場している。

 国内でも福井県鯖江市や千葉県流山市、横浜市などの地方自治体がそうした方法を模索し、コンソーシアムと連携を図っている。これら自治体の実証実験を元に、将来はビジネスモデルの開発を行うことで、結果的に公共サービスの効率を高めてコストを下げる仕組みにもつなげるとしており、優良な事例の表彰も行っていく予定だ。

 現段階で対象となるデータはすでに公開されているものだが、今後は個人情報を含むデータも目的によっては利用されるようになる可能がある。具体的には東日本大震災の際にグーグルが提供した安否確認システム「パーソンファインダー」を政府や自治体が提供できるよう、法整備やルール作りも進められなければいけないとしている。

 コンソーシアムの顧問である東京大学大学院の坂村健教授は、「情報はオープンにしなくても漏れるもので誰にも止められない。出て行く部分を制御できないのであれば、使う部分で制御するしかない」という。利用する側にもきちんとした倫理観が求められ、トラブルが起きたら実例ベースで事後対策や罰則を決定するしかないと提言している。

 政府をはじめとした公的機関が保有する情報を利活用していくための公開方法や利用条件については、コンソーシアムのデータガバナンス委員会が法的側面から検討を行っていくようだ。様々な方面からの意見が求められており、ぜひ多くのジャーナリストが関心を持ち、できれば実際に参加してほしいものだ。

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野々下裕子(ののした・ゆうこ)

フリーランス・ライター。デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。著書に『ロンドン五輪でソーシャルメディアはどう使われたのか』。共著に『インターネット白書2011』(共にインプレスジャパン)などがある。

本稿は朝日新聞の専門誌「Journalism」2月号より収録しています