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フェイスブックのつながり検索「グラフ検索」の巻き起こす波乱

小林啓倫(日立コンサルティングシニアコンサルタント)

 会員数10億人を突破し、日本でもすっかり定着した感のあるフェイスブック。その影響力ゆえに、彼らの行動には常に賛否の声があがるが、今年1月に発表された新機能「グラフ検索」が新たに物議を醸している。

拡大公開された「グラフ検索」の画面

 「検索」という単語が入っていることからも分かるように、これはフェイスブック内に蓄積されたデータを検索するための機能で、取り立てて新規性があるというわけではない。実際に「フェイスブックフォン(携帯電話)」のような大ニュースを予想していた市場からは期待外れと受け取られ、一時的に同社の株価が下がる事態となっている。

 その一方で、グラフ検索がフェイスブックに新たな価値をもたらすという期待の声や、プライバシー侵害のリスクがより高まるという不安の声も少なくない。いったいグラフ検索とはどんな機能で、どんなメリット・デメリットがあるのだろうか。

 グラフ検索の「グラフ」とは、友人関係や親子関係など、人と人との結びつきを指す「ソーシャルグラフ」のことを指す言葉だ。ただしこの場合はフェイスブックに限った話なので、グラフ検索とは「フェイスブック上に構築された友達関係のネットワークの中を検索する機能」ということになる。

自分の友達を中心に独自の検索結果

 具体例を挙げよう。グラフ検索の公式紹介ビデオの中に、「私の友達の中で、同じ会社に勤めていてスキーが好きな人」を検索する場面が出てくる。すると検索結果として様々なユーザーが表示されるのだが、これはあくまで「実行したユーザー本人のソーシャルグラフを検索した結果」に過ぎない。

 そもそも「私の友達」という時点でユーザーによって対象範囲が異なるし、「同じ会社に勤めていて」などという条件が閲覧者を限定する(当然ながら公開範囲を限定している情報がその範囲を超えて表示されることはない)。グーグルのような一般的なウェブ検索の場合とは異なり、100人いれば100件の異なる結果が出てくるわけだ。

 通常の検索エンジンを図書館の蔵書検索に例えれば、グラフ検索は友人の本棚を検索するようなものと言えるだろう。当然ながら両者には長所と短所がある。

 例えば小説が読みたくなったとして、図書館全体を検索した場合には、無数の候補が結果として表示されるはずだ。その結果は「借りられた回数が多い順」のように一定の条件で並べられているはずだが、あくまでも一般的な評価であり、自分の趣味とは異なるかもしれない。

 一方で友人の本棚を検索した場合、得られる結果はずっと少なくなるものの、すべて友人が面白いと思った作品ということになる。しかも自分の友人であれば、趣味や好みが近いことが期待できる上に、「○○さんの本棚にあった本」という情報が作品の内容を判断するのに大きな手助けとなるだろう。

 この例えからも分かるように、仮にグラフ検索が普及することになったとしても、何かを調べる際に「グーグルかフェイスブックか」というような二者択一が迫られることはない。友人が大の読書家ばかり、という人であれば、先ほどの例ではグラフ検索が活躍するだろう。

 しかし友人に小説を読む人が少ない場合や、例えば「ヘルシンキの美味しいレストラン」を調べる場合などには、有効な答えを出してくれるかどうかは疑問だ(友人がフィンランド人ばかりなのであれば問題はないが)。

 また仮に友人が読書やフィンランド旅行を趣味にしていたとしても、彼らが関連情報をフェイスブック上にまとめていてくれなければ意味がない。つまりグラフ検索とは、「グラフ」を土台として検索するという本質そのものが、長所にも短所にもなるわけだ。

 グラフ検索にはもう一つ問題点がある。その名前とは裏腹に、実はグラフ検索は自分の友達関係だけを検索するものではない。一般公開されている情報であれば、フェイスブック内の全データが検索対象となるのだ。

 例えば「自分と同じ町に住んでいる独身の女性」というような条件を指定した場合、これらの情報を「友達だけに公開」している自分の友達に加えて、「一般公開」している他のユーザーも結果画面に現れる。これらの情報は現在でも閲覧可能であるものの、グラフ検索の登場によって、一気に発見されやすくなることは想像に難くない。自分でも忘れていたような情報が掘り起こされ、メリットやデメリットを被るという事態も発生するだろう。

 もちろん情報の探し方が変わる、情報が探されやすくなるというのはグラフ検索が初めての話ではない。新しいメディアやツールが発明され、それによって情報の流れ方が変わるということはこれまで幾度となく起きてきた。それを考えれば、最終的には「グラフ検索で検索されることを前提にした情報公開のあり方」も編み出されてゆくことだろう。しかしその状態に至るまでには、プライバシー侵害を始めとしたさまざまな混乱が生じるかもしれない。

小林啓倫(こばやし・あきひと)

日立コンサルティングシニアコンサルタント。1973年東京都生まれ。筑波大学大学院地域研究研究科修士修了。国内SI企業、外資系コンサルティング会社等を経て、2005年より現職。著書に『リアルタイムウェブ―「なう」の時代』『災害とソーシャルメディア―混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」』(共にマイコミ新書)など。

この論考は朝日新聞社の専門誌『Journalism』3月号より収録しています

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