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ツイッターを取材に生かす「ネット記者」2年半の経過報告

神田大介(朝日新聞記者)

 朝日新聞が発行するメディア研究誌「Journalism」4月号の特集は「ソーシャルメディア報道の最前線」です。WEBRONZAではこの中から、ツイッターを積極的に取材に生かしてきた朝日新聞の神田大介記者がその経験をまとめた「ツイッターを取材に生かす『ネット記者』2年半の経過報告」をご紹介します。「Journalism」は、全国の書店、ASAで、注文によって販売しています。1冊700円、年間購読7700円(送料込み、朝日新聞出版03-5540-7793に直接申し込み)です。4月号はただいま発売中です。電子版は、富士山マガジンサービスで年間購読が1200円(定価の86%オフ)でお読みいただけます。詳しくは、朝日新聞ジャーナリスト学校のサイトをご参照ください。

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ツイッターを取材に生かす

「ネット記者」2年半の経過報告

神田大介(かんだ・だいすけ)

朝日新聞国際報道部記者。1975年愛知県生まれ。一橋大学社会学部卒。2000年朝日新聞社入社。宇都宮総局、金沢総局、名古屋本社報道センター社会グループなどを経て13年1月から現職。

 

 朝日新聞記者の神田大介と名乗り、ツイッターでつぶやきを始めて2年半あまり。単なるコミュニケーションの手段ではなく、どうすれば記者として仕事に役立てられるかをずっと模索してきた。以下にその経過をご紹介したい。

 初ツイートは2010年8月21日。朝日新聞名古屋本社版朝刊およびデジタル版(当時のアサヒ・コム)に「原因、実は図書館 岡崎・HP障害 サイバー攻撃のはずが」という自分の署名記事が掲載された日の朝だった(図1)。新聞社名と実名を明記する例は、まだ日本ではほとんどなかったと思う。

拡大図1 愛知県岡崎市立中央図書館の記事が掲載された2010年8月21日、著者は初ツイートで社名と実名を名乗った

 この年の3月から愛知県岡崎市の図書館ホームページが断続的にダウンし、愛知県警は5月、図書館にサイバー攻撃をしたとして業務妨害容疑でソフトウエア技術者の男性を逮捕した。報道機関向けの発表文には「14日間に3万3千回、最大で秒間約1回のアクセスを図書館ホームページにし、サーバーをダウンさせた」とある。これを各紙が記事にすると、数万円のコンピューターでも1日数万回や秒間10回程度のアクセスには耐えるぞ、おかしいのは図書館のシステム側じゃないか、とネットで異論が噴出した。

 私がこの問題に気付いたのは6月。起訴猶予で釈放になった男性がブログを立ち上げ、自作プログラムで蔵書の情報を集めていただけで攻撃の意図はない、と警察の調べとは全く異なる説明を始めていた。異例の事態にネットではさらに注目が集まった。5月の逮捕は朝日新聞も記事にしていたが、ベタに近い小さな扱いで私は読んでいなかった。学者や弁護士、プログラマーなど様々な人が真相を巡って議論していることを、さかのぼって知った。ブログやツイートを印刷すると電話帳のように分厚くなったが、マーカーで傍線を引きながら読み込むことから始めた。

 以後、この男性、図書館、図書館システムをつくった三菱電機インフォメーションシステムズ(MDIS)社、愛知県警や名古屋地検岡崎支部などを取材。比較のため、別のメーカーや他図書館の話も聞いた。調べるほどに男性の言い分が正しく、図書館システム側に欠陥があったように思われたが、事実の証明には図書館システムのソフトの具体的な検証が必要だ。当然ながら、MDISがおいそれと貸してくれるわけがない。あちらこちらを訪ね回って何とか入手し、ネットセキュリティー専門企業などに分析を頼むと、やはり図書館ソフトに問題があるという結論が出た。

 といった具合で、取材の手法に新しいところはまったくない。記事掲載までの約2カ月間、ネットでは一言も発しなかった。わざわざ名乗ってツイートを始めたのには、主に2つの理由があった。

きっかけはネットへの還元と「下心」

 紙面では誰でも理解できるように専門的な用語は避け、「サーバー」という単語すら使わなかった。この分野に詳しい人にはかえってわかりにくい表現になっている可能性がある。紙幅には限りもある。より詳細かつ具体的に記事内容の補足をしたい、という思いが募った。

 なにせ取材を進めるうえで、ネット上の情報にはひとかたならずお世話になった。この問題は、男性の主張が事実なら嫌疑は不当で、プログラマーの自由な創作意欲を萎縮させかねないとして、学会で取り上げられたほどだ。今後の議論を深めてもらうため、記者として知り得た事実をネットに還元したい。とはいえ、専門家のように解説するのはお門違いなので、記事への質問に答える形を考えた。リアルタイムにやりとりできるツイッターはうってつけ。社名と実名を名乗ることは必然だった。

 もう1つは下心。この記事の掲載を機に「ネット記者」として名乗りを上げることを狙った。私はネタ枯れに困っていた。10年4月に名古屋に異動すると「調査報道班に入れ」と命じられたが、班とは名ばかり、事実上ひとりぼっちの職場。担当デスクは「何をしてもいい、題材は問わない。基本は1面、最低でも社会面アタマ」と、なんとも簡単に言ってくれたが、足場がない。東京・大阪・西部の他本社に比べると名古屋は東海3県だけとエリアが狭く、巨大ブロック紙の存在もあってかタレコミは乏しい。かつて愛知県警を担当していた時代のツテはあったが、後輩記者のシマを荒らすわけにもいかない。そこで、ネットの海に網を掛けようと考えたのだ。

 記者はなぜ政治家や警察官に「夜討ち朝駆け」をするのか。人は誰しも感情の起伏があり、常に心穏やかではいられない。職場を離れたときなど、ふと本音を話したくなることもある。多くの場合、そういう気持ちになったとき一番近くにいる人に話をするものだ。その機会を最大化するための作業が夜回りと言えるだろう。ネットも同じことで、何か身の上に問題が起きたときに、そういえば神田大介という記者がいたな、と頭に思い浮かべてもらえればしめたもの。こっそり耳打ち話をしてもらえるかもしれない。

 そのためには、ネットで自らの存在を明確に示す必要がある。岡崎図書館問題はかなりの注目を集めており、この記事が結果的に逮捕されたソフトウエア技術者の無念を晴らす方向になったこともあって、デビューとして格好だと思った。ツイッター人口が今ほど多くなく、朝日新聞社内でも存在をほぼ認識されていなかった時期。直属の上司であるデスクから口頭で許可をとるだけで、ツイートを始めた。面白い試みだと方々で紹介され、みるみるフォロワーが増えた。

フォロワーを巻き込む新たな手法

 ここからが予想もしない展開になった。ツイッターのやりとりで、続報になりそうな話が次々と舞い込んできたのだ。岡崎市と同じMDISのシステムを使う九州の図書館ではFTPサーバーと呼ばれる図書館システムを制御するコンピューターにパスワードが設定されておらず、誰でもホームページの中身を改ざんできる状態になっている。同じシステムが、接続の集中を緩和させようと一部の接続を排除したため、国会図書館が法律に基づいて行っている情報収集をできなくしてしまっている、などなど。情報の裏付けを取り、記事化していった。

 その中の1つに「コピペ疑惑」があった。MDISがつくったすべての図書館ホームページを子細に調べた人がいて、複数の図書館から別の図書館の「残骸」を見つけていた。見た目こそ別物だが、ソースやデータに特定の図書館の痕跡があるという。彼は、ある図書館のシステムを丸ごとコピーして見た目だけ変えるようなやり方をしているのでは、と推測していた。

 常識的には考えられない。ふつうのシステムはまっさらな状態の母体が1つあり、導入先ごとにそれぞれカスタマイズする。指摘通りならとんでもなくずさんな方法だが、なんとその通りだった。岡崎市立中央図書館の利用者163人分の個人情報を含むファイルが、MDISのシステムを使う全国37図書館のサーバーから見つかった(紙面1)。返却期日までに本を返さなかった利用者の氏名や年齢、電話番号、借りた本の書名などのリストで、貸出日の記録もあり、一定の期間に集中していた。他のプログラムやデータからは独立した1つのファイルで、岡崎からある段階のシステムが他の図書館にフォルダごとコピーされたとしか説明がつかない。

拡大紙面1 朝日新聞2010年9月28日付名古屋本社版夕刊

 この37図書館には前述のパスワードのかかっていなかった九州の図書館も含まれていて、岡崎の個人情報はインターネットを通して外部にも漏れ出していた。最終的に3図書館の2971人分の個人情報流出が確認された。

 この個人情報が書名を含んでいたことが、さらなる議論を呼んだ。「耳をすませば」というスタジオジブリの映画をご存じだろうか。読書好きの中3少女が図書館で借りる本の貸し出しカードにいつも同じ男子の名前があることに気付き、私と同じ本が好きな彼はどんな人かしらと思いを巡らせていたが、実は同じ学校の気にくわないアイツで……という、甘酸っぱい青春ラブストーリーである。

 これに日本図書館協会が異を唱えた。このような貸し出し方法は誰が何を読んだか、つまり利用者の思想信条の特定につながるため現在では行われていない、という趣旨だった。人によってはヤボと言いそうだが、そんな声をあえてあげるほど図書館にとって利用者のプライバシー厳守は重要な問題。思想統制に協力した戦前への反省からつくられた同協会の「図書館の自由に関する宣言」にもうたわれている。実際、現在の図書館は返却された瞬間に貸し出し記録を抹消している。

 8月の時点では問題はなかったとしていた岡崎市も、個人情報漏洩をきっかけに、MDISとの契約打ち切りと解約に伴って生じる費用の負担を請求。市民によるシンポジウムが開催されるなど紆余曲折を経て、11年2月、岡崎市立中央図書館は公式にソフトウエア技術者の男性に罪はなかったと認めた。

 振り返れば初報以降、この問題に関連して私が書いた記事は30本近い。後にジャーナリストの津田大介さんに「フォロワーを巻き込んだプロセスジャーナリズムの手法」と評価していただいたが、高尚な意気込みがあったわけではなく、あれよあれよという間に事態が進んだというのが正直なところだ。たった1人の調査報道班がネットで無数の「班員」を得たようなもので、つくづく集合知の力を感じた。

 ネット上の議論で、プログラマーたちはこの問題を、明日は我が身ととらえていた。逮捕された男性がつくった図書館の蔵書情報を集めるプログラムはクローラーと呼ばれ、グーグルなどの検索エンジンでも一般的に使われている。当節はやりのビッグデータ収集・解析にも不可欠な技術だ。これで逮捕されてはおちおちプログラミングなどできないという危機感があった。危機感は、懸命に守ってきた利用者のプライバシーがずさんなシステム管理でいとも簡単に外部へ漏れ出すという点で、図書館司書や職員にも広がった。私の記事は、そういうネット上で広がっていた問題意識を、実社会(という言い方は好きではないが)へと橋渡ししただけだ。しかし、それこそ新聞というメディアが得意とし、また期待されている役割なのだろう。

広がった人脈を生かし次々と情報を記事に

 さて、「ネット記者デビュー」はその後どうなったか。結論から言うと、労せずに特ダネが向こうから飛び込んでくるようなうまい話はなかった。が、この機に広がった人脈を通じて、面白い話題に触れるきっかけは増えた。切望していた「足場」がネット上にできたのだ。こうして得た情報から書いた主な記事は以下の通り。

・「1Q84」無断電子化 アップル配信サイトに中国語版(10年11月)

 村上春樹さん『1Q84』や東野圭吾さん『白夜行』など日本のベストセラー小説が著者や出版社に無断で電子書籍化され、米アップル社がiPhoneやiPad用のアプリを独占的に配信する「AppStore(アップストア)」で販売されていた。売り上げの3割は米アップル社に支払われる仕組み。

・アップログに批判集中 スマホのアプリ利用を記録→広告配信に(11年10月)

 アップログはスマートフォン(アンドロイド)の利用者がどんなアプリをいつ、何回使ったかを記録して好みを分析し、興味を引きそうな広告を配信するプログラム。行楽地ガイドや郵便番号検索など様々なアプリにこっそり組み込まれていた。記事掲載後、サービスを終了した。

・ネット流出、「さらし屋」暗躍(12年1月)

 ファイル交換ソフト「Winny(ウイニー)」を介した暴露ウイルス感染による情報流出は、最盛期の06年ごろには毎日のように報じられたが、最近は聞かなくなった。実は今も続いている。根こそぎダウンロードして「2ちゃんねる」などにさらしていたのは、もともと2~3人。彼らがさらしをやめ、流出が潜在化しただけ。2人から直接取材した。

・有料テレビ放送、不正に見放題 海賊版B-CASカード出回る(12年3月)

 デジタル放送に対応するすべてのテレビに付く「B-CASカード」の海賊版がネットで出回った。WOWOWやスカパーなど有料のテレビ番組を放送事業者に金を払わずに視聴できる。実際の購入者に取材した。後に販売業者らが逮捕。

・新東名周回「キセル」横行 ネットに「安さ自慢」多数(12年5月)

 4月の新東名高速開通後、東名と周回して正規の通行料金を支払わない、鉄道のキセル乗車のような手口の報告がブログや2ちゃんねるで相次いだ。正規料金4万1600円を250円で走破したとの書き込みも。サービスエリアが趣向を凝らし、目的地化したことが背景に。

・Tポイントに薬購入履歴、販促に利用厚労省が問題視(12年7月)

 4000万人以上が利用する日本最大の共通ポイントサービス「Tポイント」が、ドラッグストアで会員が買った医薬品の商品名をデータとして取得し、会員に十分な説明をしないまま販促活動などに使っていた。刑法に抵触する可能性があり、厚生労働省も問題視。そもそも、Tポイントが医薬品に限らず、個別の商品名を収集、利用していることが知られていない。

 ―東日本大震災に絡む長期出張の多かった11年を除くと、コンスタントにネタが取れたと自負している。なお、12年の1年間に朝日新聞デジタルに掲載された中で、「よく読まれた記事」の総合2位が海賊版B-CASカード、6位が新東名不正ループだった(ちなみに1位は美術家村上隆さんのインタビュー)。

 ただ、ここに挙げたすべての記事で、岡崎図書館問題と同じようにツイッターで質問を受けたり取材の裏話を披露したりして、反応もそれなりにあったが、あのときのような展開は生まれなかった。どうもレアケースだったようだ。

今までのやり方ではたどり着かない取材先

 それとは別に印象深い記事がある。12年3月、すでに調査報道班を離れて社会グループの交通担当になっていた私は、誕生から20年の節目を迎えた東海道新幹線「のぞみ」に関する連載記事を名古屋本社版に書いた。その締めくくりとなるのが3月16日、鋭いワシ鼻が特徴的な「初代のぞみ」300系車両の引退。2月ごろから記事の中身を思案していた。

 一般的には、運行するJR東海なり西日本に取材のアレンジを依頼する。「300系を設計した技術者」「最終列車の運転士」など特徴的な職員のインタビューを申し込む場合もあるし、「記事になりそうな人を紹介してくれませんか」と頼む記者もいる。が、私はどうも違和感があった。鉄道の新時代を切り開いた人たちに敬意は持つが、さりとて新幹線は鉄道事業者だけのものではなく、乗客のものでもあるはず。新聞の読者は大半が乗せる側ではなく乗る側だ。300系の引退とは、300系と乗客の別れに他ならない。

 そういう記事を書きたいと思ったが、人選が難しかった。いちばん単純なのは当日ホームにいる人をつかまえて話を聞くことだが、中身のある記事にするのは難しい。また、あまりに鉄道に詳しすぎる人だと、JR職員と視点が似通う可能性がある。読者が自分の思いを投影できるような人がいい。そんなことを考えていたとき、たまたまツイッターで教えてもらった。300系最終列車の切符売り出し日に自分で窓口に並んだのに、入手できず落ち込んでいるとツイートしているタレントがいるという。水野裕子さん。スポーツ系アイドルの印象が強く、鉄道ファンというわけでもないが、東海道新幹線だけには強い思い入れを持っているという。インタビューを申し込むと、快諾をいただいた。

拡大紙面2 朝日新聞2012年3月17日付朝刊

 愛知県一宮市出身の水野さんは高校在学中にオーディションを受け、テレビ番組「王様のブランチ」出演が決まって卒業と同時に上京した。新生活への期待と不安を抱え、車窓から見た富士山。大阪での仕事が入り、地元の駅を通過したときの誇らしさと寂しさ。人生の場面は常に300系とともにあったという、こちらの意図にぴったりの話を聞かせてもらった(紙面2)。

 それにしても、なぜ東海道新幹線にこだわるのか。実はお父さんが新幹線の架線を張る仕事で、家でもよく話題にしていたという。弟さんも同じ仕事に就いているとのこと。なるほどと膝を打ったが、ツイッターで教えてもらわなければ、この人選はあり得なかっただろう。

記者会見の質問をツイッターで募集

 このように、自分ひとりではどれだけ頭をひねっても得られなかっただろう発想や情報をもらえることこそ、ソーシャルメディアの強みと言える。最たるものが12年12月に試みた、記者会見での代理質問、質問の公募だった。

 12月2日朝、山梨県の中央道笹子トンネル上り線で天井が崩落した。1枚1トン以上あるコンクリートの板が約330枚、110メートルにわたって落ちるという、悪夢のような大事故。後に9人の死亡が明らかになった。管理する中日本高速道路は午後3時すぎから名古屋市の本社で会見を開き、私も出席した。記者の質問はまずトンネルの構造の確認、続いて原因の追及に集中した。天井板で仕切られた空間で排ガスを換気するということ自体、多くの人が初耳だろう。記者も同じことだ。各部の寸法や重さ、形状や材質といった事実の確認にもかなりの時間を費やした。

拡大図2 中日本高速道路の2度目の会見が始まる前にはツイッターのまとめサイトにもやりとりがアップされた。「記者さんを通して、会見での質問が行えるという時代なんだ……!」というつぶやきも

 会見開始から約1時間後、やや質問が落ち着いたタイミングで、「何か質問があったらリプライ(返信)ください」とツイッターで呼びかけた(図2)。寄せられたリプライは計154件。感想や「こういう試みがある」と紹介するツイートも含むが、大半は質問だった。すでに会見で記者から出ていた質問との重複も多かったが、リプライから新たに4つの質問をした。

 特に印象に残ったのは「高速道路の利用者に対する心理面へのケアはあるか」という問い。高速道路は全国で毎日900万台以上が通行するという生活に密着したインフラだ。国土交通省によると、笹子と同じ構造のトンネルは中日本高速の管内だけで4カ所、全国には48カ所ある。必要に迫られて使わなければならない人は少なくないが、どんな心持ちで走ればいいのか。この視点は私にも、30人ほどいた他の記者の質問にもなかった。中日本高速は「あすから緊急点検を行い、できるだけ早く結果を報告したい。異常があればすぐに補修する。なければ安心してもらえる」と回答した。他のトンネルは通行止めにしなくて良いのか、あすにも天井板が落ちてこない保証はないのではないかと質問を重ねたが、納得のいく答えはなかった。

 翌3日も同様に質問を集め、54件のリプライがあり、4件を新たに質問した。この日のなかで印象的だったのは「天井板に1トンを超える重さが必要なのはなぜか」「開通から30年以上ボルトを交換していないというが、『そういうもの』なのか」という質問。どちらもごく一般的な感覚に基づく、いわばシロウト的な質問だが、これは物事の理解にとても重要だ。1トンが重いのか軽いのかは、比較対象や「その業界の常識」で異なる。身の回りのもの、たとえば家電や乗用車で考えたとき、30年も部品を何一つ交換しないということは考えられない。トンネルのような巨大な構造物では違うのか。

 3日夜までに中日本高速の会見は4回開かれ、毎回2時間以上に及んだ。この間に私は笹子トンネルを巡る事情について半可通になってしまい、感覚がまひしていた。ツイートは何が大事なのかを思い出させてくれた。ちなみに中日本高速の回答は、「換気で生じる風圧などを考慮して設計している」「耐用年数の設定はない。点検、補修をして使い続けるのが基本的な考え方」。設計自体が間違っていたか、点検に不備がなければ、今回のような事故は起きないのだが。

 この手法は記者が見落としがちな質問ができるほか、もう1つ効用があった。会見には流れがある。1人の記者が質問した内容が次の記者の質問につながる、ということがよくある。ところが、ネットでそんな流れはわからない。私がツイートをもとにした質問は少なからず流れを遮った。だが、それがむしろ良かった。回数を重ね、細かい事実の確認に終始しがちだったやりとりに、新しい風を吹き込む効果があったように思う。

 読者から質問を募り、会見で代わりに尋ねるというのは、ずっと温めていたアイデアだった。記者会見は記者のために開かれているのではない。記者を通じて情報を知る読者、市民のためにある。会場の広さや質問の時間におのずと制限があるから、代表として会見に出ているだけのことだ。だが、重要な会見の多くは突発的に開かれる。事前の質問募集は難しいが、ツイッターならリアルタイムに集められる。

 とは言え、会見ではまず記者として必要な質問をするのが先だ。回答を聞きながらメモをとり、配布された資料に目を通して、どんな記事が書けるか判断する。その場で原稿を書き始めることもある。ネットを見る余裕はなかなかない。このケースは事故の規模が大きく、朝日新聞からは2人以上の記者が出席することが多かったため、やっと実現できたというのが正直なところだ。メリットの大きさは実感できたが、一般化のハードルはちょっと高いかもしれない。

正解はないがツールに過ぎない

 記者のソーシャルメディア活用、なんて言うとどうも堅苦しい。私は意識してあまり構えず、直感的、本能的に使うようにしている。実際の仕事で使えることはもちろん、取材先で見つけたグルメ情報の紹介など、仕事と直接関係ないことにもどんどん活用する。そういう接し方がソーシャルメディアには最も適しているのではないか。誤解を恐れずに言えば、読者との交流は結果として生まれるものだ。

 朝日新聞社内でツイッター利用のマニュアル作成に関わり、一般化することの難しさを感じた。ソーシャルメディアは個人の特性、人となりを、良い点も悪い点も丸ごと映し出してしまう。日ごろ紙面では出さない人間性が、隠したつもりでもにじみ出る。それだけに活用の仕方にも正解や最適解がない。私がこの原稿に書いた内容と同じことをしても、人によってはうまくいかないだろう。

 もっとも、ソーシャルメディア自体はツールに過ぎない。たとえば「記者はどう携帯電話を使うべきか」「ワープロをどう……」なんて議論がかつて(おそらく)なかったように、デジタルネイティブ世代の記者が増え、のびのびと使える環境が整えば、自然に活用は進むと楽観的に見ている。

 それがツイッターやフェイスブック、あるいはLINEという形のままであるかは別として、ソーシャルメディアが今後も社会に存在し続けることは間違いない。現実を見据えるのが記者の仕事である以上、そこから背を向けるという選択肢はすでに存在しない、と私は考えている。

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