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話題のメガネ型情報検索装置 グーグル・グラスは取材向け?

野々下裕子 フリーランス・ライター

 街角に設置された定点カメラが捉えた決定的瞬間が、スクープ映像としてニュース番組で紹介されるのはもうめずらしいことではなくなっている。国土交通省によると2011年3月末の時点で、全国の駅などに設置された防犯カメラの台数は約5万6000台で、その他の街角や繁華街、私的な建物や敷地内に設置されたカメラの台数は推定で数百万台にのぼるという。都心部では頭上を見上げると何かしらのカメラがあるという状況だ。

 そこへもう一つ加わるのが、自動車に設置し、映像などを記録して事故解明に役立てるためのドライブレコーダーにつけられたカメラである。同じく国土交通省が10年4月に行った調査によると約42万台があるとされ、矢野経済研究所が08年に行った調査によると14年にほぼ倍の約85万台になると試算されている。事故の瞬間を捉えた映像は、インターネット動画サイトに数多く公開されている。

 それ以外にも最近では、ロシアのウラル地方のチェリャビンスクに隕石が落下した際、まばゆい光を放ちながら空を横切る瞬間などを捉えた映像の多くが、ドライブレコーダーから撮影されたものであったことが話題になった。

 そして、今後は人の行動を記録する定点カメラによって、こうしたスクープ映像が数多く捉えられるようになるかもしれない。その大きなきっかけとなりそうなのが、グーグル・グラス(Google Glass)の存在だ。

自然に日常をとらえるどこでもカメラの登場

 グーグル・グラスとはあの検索大手グーグル社が開発しているメガネの形をしたウェアラブルコンピュータと呼ばれる情報検索端末で、数年前から研究開発が進められていることは知られていたが、今年3月に年内の発売が発表され、大きく話題になっている。

 

 見た目は普通のメガネと変わらないが、目の位置に小さなカメラが付いている。また一方のツルの部分にアンドロイドを使った装置が搭載されており、スマートフォンと同じくネットに接続して、メールを使ったり、行き先をナビゲーションしたり、GPSで位置を確認してその場所に関する情報を検索表示するといったことができる。操作は音声コマンドを使ってハンズフリーで行うのを基本としており、コントローラなどを使う必要はない。ディスプレー画面は目の前に浮かぶような状態で見えるので、歩いたり、自転車に乗ったり、スポーツをしながらでも利用できる。

 2月にカリフォルニアのロングビーチで開催された国際的に注目を集めるアイデアプレゼン会議「TED 2013」では、グーグルの共同創設者であるセルゲイ・ブリン氏がこのグラスをかけた姿でスピーカーとして登壇した。彼は画面を見ながらキーボードで入力する必要がなくなり、本当の意味でのユビキタス情報社会がやってくる、というきたるべき新しい情報社会の姿について語った。その際に公開されたプロモーションビデオでは、スポーツや移動中など手がふさがっている状態でも音声コマンドで写真やビデオの記録が始められるという事例が紹介されていた。

 実際にブリン氏自身はTEDの会場内を歩き回っている時はいつもグラスを着用していて、誰かが話しかけると「OK、グラス、写真を撮って(OK Glass, take a picture)」と音声コマンドで操作し、相手の顔を記録していたようだ。あえて何もいわなければこちらは全く撮影されたことにも気が付かないほど自然だ。たとえば、著者はブリン氏と一緒にヨガを楽しんだのだが、もしかしたら様々なポーズをとりながらも周りの様子を撮影していたかもしれない。

プライバシーなどの問題は未解決

 グーグル・グラスは現在、開発者向けに限定で実機が1500ドルで発売されている。また、すでに似たようなメガネ型のデジタルデバイスは他社でも開発されており、今年1月にラスベガスで開催された家電展示会CESの会場でも多数展示されていた。そうした製品でも主な用途とされていたのが映像の記録であり、実況中継をするライブストリーミング的な使い方が提案されていた。

 数年前にライブストリーミングサービスのユーストリームが登場した時は、自身の行動をそのままインターネット上に流す、「ダダ漏れ」と呼ばれるスタイルが話題になったが、メガネをかけるだけでいつでもどこでもライブ中継が可能になれば、再びこうしたことをする人たちが増えるのはまちがいない。もちろんプライバシーの問題も残っているが、時代の流れとして普及するのは間違いないだろう。

 グーグル・グラスの活用方法については、TEDでもおもしろいアイデアが語られていた。「真っ先に使うのはジャーナリストだと思う。カメラやICレコーダーといった機材がこれ一台ですべて賄えて、音声認識でテキストを作成したり、翻訳機能だって使えるから、何かあったらその場で取材が始められ、スクープ映像も増えるだろう」。
さらに付け加えれば、ネットにつながっているのでその場ですぐに、世界中に向けて配信ができる。それに合わせて、今までにない新しいスタイルのメディアが登場する可能性もありそうだ。

 TED2013にグーグル・グラスをかけたラフな格好であらわれたセルゲイ・ブリン氏。会場ではヨガで逆立ちのポーズなどを披露していた。

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野々下裕子(ののした・ゆうこ)
フリーランス・ライター。デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。著書に『ロンドン五輪でソーシャルメディアはどう使われたのか』。共著に『インターネット白書2011』(共にインプレスジャパン)などがある。

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※本稿は朝日新聞社発行の専門誌「Journalism」5月号より収録しました。

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