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海外へ打って出る韓国の出版社 国内市場の縮小傾向で日本はどうする

星野渉(文化通信社取締役編集長)

 7月3日から東京・江東区の東京ビッグサイトで開かれた「東京国際ブックフェア2013」は、テーマ国が韓国となり、様々な展示や講演会などのイベントが開催されたが、韓国側には、何とか日本で自国の出版物の市場を拡大できないかという強い思いがあった。

 韓国パビリオンには、日本との歴史的なつながりを示す「朝鮮通信使」の文献や絵図、日本と韓国でそれぞれ選んだ翻訳書50点を集めた「韓国人が読んだ日本の本、日本人が読んだ韓国の本」などが展示されたほか、日本で翻訳書が出ている著名作家も多数来日し、作家・立花隆氏と韓国の前文化大臣・李御寧氏による座談会「デジタル時代、なぜ本か」をはじめとした対談なども行われた。

 韓国は、映画やテレビドラマ、K-POPなど、海外にも輸出できるコンテンツ産業に力を入れており、政府もそうした産業をサポートしている。

 その結果、「韓流」と呼ばれて日本をはじめとしたアジア圏を中心に人気となっているのはドラマやK-POPなど映像・音楽コンテンツだが、そうしたコンテンツの源泉は出版物(活字メディア)であるという考えで、出版にもいろいろな支援政策を進めているのだ。
今回の催しにも政府が資金援助を行っているし、作家の訪日などをサポートした韓国文学翻訳院という政府機関は、日本など海外の出版社が韓国語の本を翻訳出版する場合にも、一定の審査を経て助成を行っている。

 しかし、こと日本と韓国の間の出版物の取引となると、圧倒的に日本から韓国への流れが強いのが現状である。

 もともと韓国の出版市場は輸入超過の状態にある。ブックフェア期間中に開かれたシンポジウムでは、このほど韓国でも翻訳出版された村上春樹氏の新刊『色彩を持たない多崎つくると、彼の巡礼の年』のアドバンス(前払い印税)が、なんと推定1億5千万円から2億円となり、村上氏の前作『1Q84』で記録した1億円を更新し、韓国の翻訳出版史上最高額になったと報告があった。

 そして、その報告によると、韓国で12年に刊行された新刊書3万9767点のうち、翻訳出版物の割合は25~30%に達し、国別では、コミック(マンガ)を含めると、日本が3948点(マンガが2003点)で、翻訳書の39%を占めている。

 一方、日本で翻訳出版される韓国の出版物は、韓国出版研究所が主要エージェンシー6社に行った調査で11~12年は41点、このうち文芸作品は20~30点にとどまっている。04年に韓流ドラマが流行って以降、そうしたドラマの原作や、タレントの写真集などが翻訳されるケースが増えたり、英語学習の世界では韓国のテキストがランキングで上位を占めることはあるが、韓国で出版される日本の出版物の量と比べれば極めて少ない。

 しかし、日本以外の国への展開ということになると、事情は違ってくる。近年はむしろ韓国出版社の積極性と実績が目立つ。

 中国では、韓国の学習マンガが数多く翻訳出版されており、タイなど東南アジアへの展開も日本以上だという。ちなみに、先の韓国出版研究所の調査によると、韓国からの出版物の著作権輸出は、中国が406点、タイが327点、インドネシアが243点となっている。

海外進出に消極的だった日本の出版業界

 日本でも朝日新聞出版が翻訳出版して、シリーズ36巻で190万部という、韓国出版物としては異例の売れ行きになっている『サバイバルシリーズ』も、中国で300万部を発行したのを始め、東アジアを中心に韓国外で1100万部を発行している。

 もちろん、日本の出版物も、韓国の出版物以上に海外で読まれるようになっている。特にマンガは韓国、台湾などアジア圏が大きな市場となっているほか、フランスやイタリア、ドイツなどヨーロッパ各国、北米でも広く刊行されるようになっている。

 しかし、こうした市場は、日本の出版社が積極的に拡大したというより、現地のニーズが先行した。もちろん、日本の出版社も黙ってみていたとは言わないが、どちらかというと、待ちの姿勢だったように思う。

 日本は1億人以上の人口を抱え、しかもほぼ1言語に統一されているため、出版社は国内市場で十分に食べることができたのである。リスクを冒してまで海外に本を売りに行くことはない、という雰囲気が、少なくとも10年ほど前まで、出版業界では一般的だった。

 その結果、海外で最も多く読まれている日本人作家である村上春樹氏の海外翻訳権の取引は、日本の出版社を通していない。これは著者本人の意向が強いとは思うが、かつて日本の出版社には、海外の出版社やエージェントと交渉をする部署すらほとんど無かった。村上氏の著作も刊行する日本を代表する出版社ですら、海外部門を設立したのは07年というところがあるほどだ。

 しかし、国内市場の縮小傾向が長引くことで、こうした出版社の意識も変わってきた。以前から海外に積極的だった講談社は、今後の成長部門として「デジタルと海外」を明確に打ち出しているし、小学館、集英社、そしてKADOKAWAなどの大手出版社は、中国をはじめとしたアジア、欧米への展開を積極的に進めている。

 日本にはマンガ、そして文芸、ライトノベルなど、多くの資産がある。ただし、待っているだけでは売れない。やはり積極的に売りに行く姿勢が問われる。

 かつて『サバイバルシリーズ』を出した韓国の出版社の担当者に話を聞いていたら、日本の出版社について「話が決まるのが遅い。半年もかかってしまうこともある。その点、中国などは早い」と話していた。海外展開を進めるのであれば、自分たちの仕事の進め方も変えていかなければならないのかもしれない。

    ◇

星野渉(ほしの・わたる)

文化通信社取締役編集長。東洋大学非常勤講師。1964年生まれ。国学院大学卒。共著に『オンライン書店の可能性を探る』(日本エディタースクール出版部)、『出版メディア入門』(日本評論社)など。

本論考は朝日新聞の専門誌「Journalism」8月号より収録しました

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