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スマート端末がライフログで健康管理をする時代

高木利弘(株式会社クリエイシオン代表取締役)

 『家庭の医学』といえば、どこの家庭にも必ず1冊はあると言われた時代があった。そして、夜間や休日に急に誰かが具合が悪くなったなどの非常時に頼りになったものである。

 しかし、インターネットが普及すると、『家庭の医学』と同様の情報を提供するサービスがいくつも現れ、いつでも無料で情報を調べられるようになり、本は売れなくなった。

 そしていまや、本に書かれていた情報をネットで公開するという段階から、さらに進んで、人々の健康を促進し、適切な治療を行うサービスを提供する段階に進もうとしている。

 それが可能になったのは、いわゆる「ライフログ」と呼ばれるテクノロジーが実用段階に達してきたからだ。この言葉は、一般的には「生活情報を長期間、データとして記録する」ことを指すが、特に最近は健康情報を自動的に計測する各種センサーが小型・軽量・低価格化し、パソコンやスマートフォンなどで、手軽にわかりやすく確認できるようになったことから、健康管理にも応用されるようになってきた。

食事や睡眠の情報を多様な方法で記録管理

 一般消費者向けにライフログが浸透する契機となったのは、2009年にWithings社が発売した体組成計「WiFi Body Scale」である。

 あらかじめ家族の基本データを登録しておくと、この装置にのるだけで、誰がのったのかを瞬時に判断し、体重やBMI(体格指数)、体脂肪等の計測データをWiFi経由でサーバーにアップし、スマートフォンなどでグラフ表示して簡単に閲覧できるという画期的な製品である。

 そして今年になって、ライフログの普及を加速するデバイスが次々と登場してきている。

 先陣を切ったのは、米国Jawbone社の「UP」というリストバンド型の活動量計である。価格は1万3800円で、4月に発売されるや、すぐに売り切れになるほどの人気となった。

 歩数、移動距離、休息/活動時間、消費カロリーといった「運動」の記録と、睡眠時間、浅い眠り/深い眠り、起床時間といった「睡眠」の記録ができる。

 加えて、スマートフォンのアプリで、何をどこで食べたか、摂取カロリーはどれくらいかといった「食事」の記録をすることができ、それらを総合して自分の活動状態を把握できる。

 仲間とのデータ共有や、フェイスブックやツイッターへの投稿機能も付いている。

 ただし、(1)データを自動転送できず、スマートフォンのイヤフォンジャックに差さなければならない、(2)「運動」と「睡眠」の記録を手動で切り替えなければならない、(3)バッテリーの持ち時間が最長10日と短いなど、普及に向けた課題も多い。

 次いで、ソフトバンクモバイルが7月、「Fitbit Flex」というリストバンド型の活動量計を使った「Soft Bank Healthcare」というヘルスケアサービスを月額525円(2年契約)でスタートした。これで記録できるのは、「UP」と同様、「運動」と「睡眠」と「食事」である。
バッテリーの持ち時間は平均5日。「UP」より優れている点は、(1)Bluetooth 4.0経由で、ワイヤレスでデータ転送ができる、(2)設定した目標を達成するとコインがたまり、プレゼントが当たるくじに挑戦できる、(3)日々の活動内容を5段階評価し、自分の未来の顔を予測する「タイムマシン」というお遊び機能がある、(4)看護師、栄養士、医師などの専門家による健康相談を受けられる、などである。

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 そして、サムスンが9月に発売したスマートウォッチ「Galaxy Gear」(写真)は、「運動」記録が可能なジャイロセンサーと加速度計を内蔵し、バンド部分に「食事」の記録が可能なカメラを装備、「Run Keeper」や「Path」といった健康・ダイエット関連でよく使われるアプリをプリインストールしている。

高度な健康管理で医療費削減を目指す

 一方、日本でもまだ実証実験の段階ではあるが、それらに匹敵するプロジェクトが進められている。それは、13年2月に総務省の委託事業として、千葉県柏市、三井不動産、イーソリューションズ、日本ヒューレット・パッカード、メディシンクが実施した「柏の葉スマートヘルス」プロジェクトである。

 このプロジェクトは、リストバンド型ライフレコーダー(日立製作所中央研究所、日立システムズ)と体組成計(オムロンヘルスケア)を統合して健康データを分析するシステムを構築し、「メディカル」と「エンターテインメント」を合わせた「メディテインメント」というコンセプトで楽しく健康増進しようとしている点で、海外事例の先を行っている。

 ライフログを活用したヘルスケアの時代というのは、単純に「バラ色の未来」という訳ではない。日本は今、世界に先駆けて、深刻な少子高齢化社会を迎えようとしている。増大する医療費の支払いで、日本の健康保険組合は8割以上が赤字であり、破綻寸前となっている。こうした問題解決のためには、予防医学的な健康管理が不可欠である。

 ライフログを活用した新しい健康管理サービスは、付加価値が高く、有償化が可能であろう。健康に関する情報は無償で提供し、付加価値の高い健康管理サービスは有償で提供する。出版社や新聞社も、そうした新しいビジネスモデルに乗り出してみてはどうだろうか。

     ◇

高木利弘(たかぎ・としひろ)

株式会社クリエイシオン代表取締役。マルチメディア・プロデューサー。1955年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。「MACLIFE」などのIT系雑誌編集長を経て、96年より現職。近著は、『The History of Jobs & Apple』(晋遊舎)、『ジョブズ伝説』(三五館)、『スマートTVと動画ビジネス』(インプレスジャパン)など。

本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』10月号より収録しました。同号の特集は「正念場を迎えた日本の政治と社会 憲法改正とメディア」です

 

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