メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ソーシャルネットワークを使って スクープが続出する現状

野々下裕子(フリーランス・ライター)

 取材活動のツールとしてネットを利用するのは常套手段になりつつあるが、海外の記者の間ではソーシャル・ネットワーキング・サービス(以下SNS)の一つであるリンクトイン(LinkedIn)を活用してスクープ記事が書かれるケースが増えている。

世界の有名人が出入りするリンクトインの強さ

 リンクトインはシリコンバレーに本社を持ち、創設は2003年とフェイスブックより古い。多くのSNSがパーソナルも含めた幅広い情報交流を目的としているのに対し、ビジネスを基調とした交流に特化しており、筆者の場合は取材相手のプロフィルをチェックする、あるいは取材を依頼する際の自身の身分証明の一つとして活用している。

 リンクトインは世界最大のプロフェッショナル交流のネットワークとしての位置付けが強まっており、利用者も全世界で2億3800万人を超えている。

 ビジネス向けの機能も増え、特定のジャンルに関する最新記事が通知されたり、ジャック・ウェルチやビル・ゲイツ、オバマ大統領ら世界のトップリーダーを業界のインフルエンサーと位置付け、独自記事が投稿されたりしている。企業や団体がプロフィルを掲載する会社ページも300万件以上登録があり、大学のためのカレッジページもあるなど、取材情報源としての価値がますます高まっている。

 以前に登録したものの最近は使っていないという人は、あらためてアクセスするとその進化に驚くかもしれない。

 そして、取材者として最も注目すべきなのがその検索機能である。無料でもいいが、プレミアムアカウントの詳細検索を利用すれば、過去の勤務先や現在の経験年数、職務レベルといった項目をクロス検索できる。検索手順は保存可能で、注目している企業に関していくつか検索項目を作っておけば定期的なチェックに使える。

 また、プレミアムアカウントでは、指定した期間内に企業や団体に所属していた人たちを調べられる照会先検索もあり、この機能を使えば、たとえばスティーブ・ジョブズが最初にアップル社に在籍していた頃の同僚を探したり、銀行が統合される前と後の社員をそれぞれ探すといった使い方ができる。

 残念ながら現時点で国内ではリンクトインのプロフィルを詳細に登録している会員は少ないが、海外向けにはかなり使える機能であり、取材の手がかりとして利用している記者は多いという。リンクトイン自身もそうした取材の手段として使えることを特徴としており、国内でも記者向けの説明会が不定期ながら開催されている。

検索結果をどう読むかがスクープに結びつく

 こうした例を見ると、従来の取材手法と異なる独自性があるというわけではなく、今まで人脈や自分の足で探していた情報の入手先がSNSにも拡がっているだけのように見える。リンクトインの詳細検索はキーワードの設定にコツが必要だが、普段から取材で情報収集作業に慣れている記者であれば、すぐに勘所がつかめるので特に難しいというわけではない。

 むしろポイントとなるのは、検索した結果をどう読み解くかにある。実際、リンクトインは誰もが同じように情報収集ができるツールなので得られる結果=情報は同じはずなのに、全ての記者が同じようなスクープがとれるわけではないからだ。

 リンクトインがスクープ源になった例としては、ツイッター社が上場を正式発表する前に関連する専門家を募集していたのを見た記者がそれ(募集そのものはすぐに取り下げられたそうだが)をきっかけに取材したことから上場が判明したという例がある。他にも、アップル社が新興半導体メーカーのイントリンシティを買収しているのがリンクトインの会社ページからキャッチされたりしているが、それはあくまで取材のきっかけであって、そこから事実を引き出すのは記者の手腕によるものである。

 取材に使えるSNSもリンクトインだけに限らず、いろいろ組み合わせてみる方法もある。たとえば、取材相手がツイッターのアカウントを持っている場合、投稿しているコメントに加えてフォロー先をチェックし、どのような人物や物事に関心を持っているかをチェックする。フォロー先は相互リンクかそうでないかで、その人物とどうつながっているかも推測できる場合がある。

 そしてSNSを取材のツールに使う場合、取材している自分の姿も相手や多くの人たち同様、見えるようになっていることを忘れてはいけない。9月に埼玉県でおきた竜巻の映像をツイッターにアップしていたユーザーのタイムラインに、取材を依頼するメディアのメッセージが次々投稿されているのが、まとめサイトにさらされるという例もあった。自分からも情報を開示しなければ情報が得られないのもSNSであり、そうしたことも含めて使い方を考えていく必要がありそうだ。

     ◇

野々下裕子(ののした・ゆうこ)
フリーランス・ライター。
デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。著書に『ロンドン五輪でソーシャルメディアはどう使われたのか』。共著に『インターネット白書2011』(共にインプレスジャパン)などがある。

本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』11月号より収録しています