メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

不況下でにぎわう「書店大商談会」 出版社と書店それぞれの事情

星野渉(文化通信社取締役編集長)

 「書店大商談会」という今年で4年目を迎えるイベントがある。出版社などが展示ブースを出して、主に書店関係者が来場するという展示会だが、この不景気な折にもかかわらず、開始以来毎回、出展社と来場者が増え続け、開催される地域も広がっている。

 この催しが始まったのは2010年11月。東京の新宿区にある日本出版クラブ会館が会場だった。出展社は出版社など80社で、関東圏の書店関係者259人が来場した。
翌年の第2回では、会場を東京・秋葉原のアキバ・スクエアに移し、出展社は96社、来場者は425人に増加。そして昨年の第3回はまた会場を東京・新宿のベルサール新宿グランドホールに移して、出展社は147社、来場者は714人とさらに増え、今年10月9日に開かれた第4回は、出展社177社、来場者は808人に達した。

 しかも、今年は前年に出展していなかった初出展が43社にのぼり、さらに40社近くが申し込むのが遅れて出展できなかったというほどだった。

 そして、東京で始まった商談会は、11年には関西に飛び火して「BOOKEXPO2011秋の陣」として開催。こちらも今年3回目を迎え、規模は拡大している。このほかにも、昨年からは九州の福岡で同様の商談会「九州選書市」が始まり、来年は北海道での開催も計画されている。

取次主導から中小書店中心へ

 これら商談会の特徴は、書店が企画しているという点だ。しかも、大手チェーンではなく、いわゆる街の書店と呼ばれる中小書店が中心になって運営している。

 これまで出版業界で開かれてきた商談会と呼ばれる催しの多くは、書店に書籍・雑誌などを供給する取次会社(最近は販売会社と呼ばれることが多くなった)主導だった。そういう商談会は、取次各社が各地域ごとに組織している取引書店会の総会などに合わせて開かれてきた。

 商談会が取次主導で開かれてきた理由は、多くの書店が出版物の仕入を取次に依存しているからだ。毎日平均すれば200点以上刊行されている新刊書籍や、毎週毎月刊行される雑誌の供給も、書店側が補充や客注(お客からの注文)で1冊ずつ頼む注文品の調達も、ほぼ全て取次が担っている。

 そのため、書店が直接出版社から商品を仕入れることはほとんどなく、たとえ商品確保や在庫の確認のために直接電話で出版社に頼んだとしても、物流と代金決済は取次を通して行われることが圧倒的である。

 このように、もともと書店が出版社から直接仕入れることがほとんどないため、他の業界のような、メーカーと小売店が参加して直接商品取引を行う展示会や商談会が開かれてこなかったのである。

危機感を持つ書店と出版社を直接つなぐ

 そんな出版業界で、書店サイドから商談会が企画されたのは、書店の強い危機感からである。長年にわたり販売低迷が続くなか、特に雑誌の市場縮小によって、中小書店の経営は苦しさを増し、多くの書店が転廃業を余儀なくされている。

 これまで書店への商品供給を担ってきた取次会社も、かつてのような余裕はなくなり、むしろ効率化のために商品供給を絞り込む傾向にある。以前からベストセラーなど売れ行き良好商品がなかなか入手できないという不満を抱えてきた中小書店は、ますます欲しい商品を確保できないという状況に追い込まれているのだ。

 そんななかで、自らの手で直接、商品を調達しようと企画されたのが、一連の商談会である。これら商談会のうたい文句として「帳合(取引)取次を超えた商談会」があげられるのも、そのためである。

 一方、出版社側は、当初、「知り合いの書店に頼まれたから断れなくて…」といった、どちらかというと消極的な姿勢での出展が多かったが、回を追うごとに積極さが増している。そして、出展したくても出られない社がでるほどになっている。

 やはり、実際に書店と面談することで、お互いの熱意が伝わるという経験が、こうした出版社の積極性を引き出しているようだが、一方で、不景気のなかでなかなか自由に出張に出ることができないため、直接、地方の書店を訪ねて既刊書の販売促進を行う機会が減っているという事情もあるという。

「C本」「K本」独自の品揃えに向けて

 商談会は、机とパイプ椅子というブースに、出版社がアピールする本などを並べるという極めて簡素なものだ。そのため出展料金は1ブース3万円と安い。これも多くの出展社が集まる要因になっている。

 来場する書店側は、事前に配布された小冊子に付箋を貼り、目指す出版社のブースを次々に回る。最初の頃は、出版社側から声をかけないとなかなかブースで席に着かない書店人の姿も見られたが、いまでは積極的に商談に向かう書店人が多い。

 そして、今年は「C本」「K本」という販売企画が試みられた。「C本」はチャレンジのCで、書店が低正味・買切・直接取引で仕入れる企画。「K本」のKは「くすぶる」から来ていて、出版社の倉庫でくすぶっている本を一定期間販売すると特別報奨が提供されるというものだ。

 両企画は、実行委員を務める若手の書店人が立案した。出版社の倉庫に眠っているような本の中から発掘された商品を、特別条件で仕入れて利益に結びつけようという目的とともに、オンライン書店や電子書籍の市場が広がるなかで、自分たちの目利きで独自の品揃えをしなければならないという意識が、書店に芽生えてきたことを示している。

     ◇

星野 渉(ほしの・わたる)
文化通信社取締役編集長。
東洋大学非常勤講師。1964年生まれ。国学院大学卒。共著に『オンライン書店の可能性を探る』(日本エディタースクール出版部)、『出版メディア入門』(日本評論社)など。

※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』11月号より収録しています