2014年01月29日
最近、「オンライン学習サービス」と呼ばれるネットのサービスが相次いで登場してきている。従来のいわゆる「eラーニング」が、より分かりやすく一般的な方向に進化したものだ。
その特徴は、基本的に無料(もしくは超低料金)であるということ。そして、誰でも受講できるオープンな教育サービスであるというところにある。
海外では、バングラデシュ系アメリカ人のサルマン・カーン氏が2006年9月に始めた「Khan Academy」が月間ユーザー数600万人と世界最大規模になり、最近の大きな話題になっている。数学や科学、経済、歴史など膨大なコースを無償で提供しており、ビル・ゲイツやグーグル関係者などが資金提供している。
大学の講義をオンラインで配信するサービスも盛んで、それらは大規模オープン・オンライン・コース(MOOC:Massive Open Online Course)と呼ばれている。代表例には「Coursera」「Udacity」「edX」などがある。
「Coursera」は、スタンフォード大学のコンピューターサイエンスの教授が12年4月にスタートしたMOOCで、いまや東京大学を含む世界107の大学の講義を格安な授業料で受けられるまでに成長している。登録ユーザー数は400万人以上だ。
「Udacity」は、グーグルの副社長でスタンフォード大学非常勤研究教授でもあるセバスチャン・スラン氏の講義を11年に無料公開したところから始まった。
当初、「ロボットカーのプログラミング」と「サーチエンジンの作り方」という二つの講義だけしかなかったにもかかわらず、いきなり190カ国以上から16万人の生徒を集めたことで有名になった。無料で視聴できるが、学費を払って学生になることもできる。登録ユーザー数は150万人以上だ。
「edX」は、11年11月にハーバード大学とマサチューセッツ工科大学が共同で始めた非営利のMOOCで、日本からは京都大学が参加している。登録ユーザー数は100万人以上。
また「creative LIVE」は、その名のとおりウェブのデザインやグラフィックス、映像、音楽などクリエーティブ系の授業をライブで無料配信するサービスである。
エミー賞を受賞したウォールストリート・ジャーナル紙の記者や、ピュリッツァー賞カメラマンなど、各分野の一流講師陣の授業を生放送で受講できる。Photoshopの人気授業では、178カ国15万人が視聴する記録を打ち立てている。
ライブは無料だが、シリーズ・パッケージ(VOD)は有料となっている。VODには購入期限があり、残り時間をカウンター表示することで、客に購入を促す作りになっている。
日本でもユニークな「オンライン学習サービス」が育ち始めている。
なかでも13年に話題となった「schoo(スクー)」は注目株だ(図)。社会人向けのライブ授業を提供するサービスなのだが、その特徴は、徹底的にライブのインタラクション(講師と生徒、生徒どうしの相互交流)にこだわっているところにある。
「schoo」誕生のきっかけとなったのは、マイケル・サンデル教授の「ハーバード白熱教室」だった。代表の森健志郎氏は教室を見て、「これをオンラインで実現できたらどんなに素晴らしいだろう」と創業を思い立ったのだという。
一般的に大半の「オンライン学習サービス」は、数多くの授業コンテンツをアーカイブし、それをいつでもどこでも好きな時に閲覧できる「個別学習」を売りにしている。これに対して、「schoo」は、皆で一緒に学習をする「体験」が重要であるという発想で全体を設計している。
この違いは非常に大きい。たとえば、「schoo」ではウェブのデザインやPhotoshop、Illustratorの使い方といった授業が人気なのだが、生放送の授業であるがゆえに、不明な点があればすぐに質問できる。いきなり録画された授業や解説本で勉強するよりも、はるかに効果的に学習できるわけだ。
こうして、一度ライブ授業でポイントを掴んで、録画授業や解説本で「個別学習」をすれば、格段に理解が早まるはずだ。
もうひとつの人気の理由は、孫泰蔵氏などITベンチャーの最前線の人々が講師となって、直接授業をしてくれるところにある。その結果、IT最前線に強い関心を持ち、実際に活動している若い元気な人々が集う「学校」ができている。現在の登録者数は5万人を超えたという。
そのほか、フィリピンと日本を結んでマンツーマンで格安オンライン英会話を提供する「Rarejob(レアジョブ)」や、誰もが無料で大学の受験勉強ができるようにと、約30大学、約260人の学生がボランティアで動画授業を作成・配信している「manavee(マナビー)」なども、新たな人的ネットワークを構築している点で特筆される。
以上のように最近注目の「オンライン学習サービス」の代表例を紹介してきたが、特に注目されるのは「ライブ」というキーワードだ。教科書をひたすら追うドリル方式の多かった退屈なeラーニングを超え、ライブ感を強調した新しい学習サービスがこれからいろいろな分野で伸びていく可能性が高い。
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高木利弘(たかぎ・としひろ)
株式会社クリエイシオン代表取締役。マルチメディア・プロデューサー。1955年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。「MACLIFE」などのIT系雑誌編集長を経て、96年より現職。近著は、『The History of Jobs & Apple』(晋遊舎)、『ジョブズ伝説』(三五館)、『スマートTVと動画ビジネス』(インプレスジャパン)など。
※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』1月号から収録しています。同号の特集は「民主主義にとって最大試練の年 2014年を展望する」です
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