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異分野の専門家が取り組むデータジャーナリズムの試み

野々下裕子 フリーランス・ライター

 インターネットやソーシャルメディアなどを通じてネット上に公開される、さまざまなデータを分析して社会の問題を見つけ出し、わかりやすい形にしてネットなどで発表する「データジャーナリズム」と呼ばれる新たな調査報道の手法が注目を集めている。

 情報の分析や編集、表現において取材者だけでなく、デザインやプログラミング、分析といったスキルを持つ専門家がかかわり、ひと工夫されているのが特徴だ。

 背景にはネットで急増するデータ(ビッグデータ)を分析するツールの普及や情報を整理してCGなどで表現するインフォグラフィックス手法の定着など、さまざまな要因がある。中でも大きいのはオープンデータという、誰もが使える形での情報公開を進める動きが加速し、国際レベルでのルール作りがはじまったことだろう。

 2013年6月18日に英国で開催されたG8サミットでは「オープンデータ憲章」が合意され、政府が保有するデータは原則公開することを中心にした項目が盛り込まれた。

 また、参加各国は15年末までの行動計画を、13年10月をめどに公開するよう求められている。日本政府も、15年度末までに他の先進国と同水準の公開内容を実現するという目標を掲げており、内閣官房、経済産業省、総務省らがそれぞれ取り組みを始めている。

ジャーナリストが他分野の人とチーム

 しかし一方で、データジャーナリズムは一時的なバズワード(ネット上の流行語)に終わるのではないかとの見方もある。明確な定義がいまだになく概念的で、事例は海外のものばかり。ともすれば使われている技術ばかりが話題になる。

 ジャーナリストの藤代裕之氏はそうした懸念を払しょくするには、「まず現実に何ができるのかをやってみることが必要」と、日本ジャーナリスト教育センター(JCEJ)主催による「データジャーナリズム・キャンプ&アワード2013」を開催した(http://jcej.info/djc2013/)。

「データジャーナリズム・キャンプ&アワード2013」のサイト拡大「データジャーナリズム・キャンプ&アワード2013」のサイト
 国内における活動の盛り上げと水準向上が主眼だが、一つでも多く日本での成果物を増やすため、誰でも作品が応募できるアワードだけでなく、制作のための準備をするキャンプも行うという2部構成にした。

 昨年11月30日、12月1日に行われたキャンプの初日は、エンジニア、アナリスト、デザイナー、ジャーナリストの4人一組でチームを組み、プログラミング、データ分析、デザイン、取材という四つのテーマで講義を行った。専門外から二つ受講するルールも設けられた。

 応募期間が短かったにもかかわらず、8チームが作れるだけの数の専門家が集まり、それも女性と地方からの参加者が多かった。組み合せは主催者が決め、初対面で翌昼にはテーマを発表。それから約1カ月で作品を発表するハードなスケジュールだったが、時間切れの1組以外は作品をまとめ、全部で9作品が発表された。

個人の感じていることと実証データを突き合わせる

 12月27日に開催されたアワードでは、プレゼンのレベルを高めるのも一つの目的とし、持ち時間5分という短い中で発表が行われた。中には、データを集める段階で許可を取るために時間がかかり、最終的な成果物にまとめきれなかったものもあったが、これほどいろいろな手法や課題があるのかと驚かされる内容であった。

 チームG.の「『失われた20年』は本当なのか。何が失われたのか?」という作品は、90年代以降、直近にかけて、経済や社会状況が成長したかどうかをさまざまなデータで分析すると、そのほとんどが上向きであるという結果が出た。それに加え、「あなたの失われた度数」を計測するツールも作成。個人の感覚と現実のデータとのギャップが明らかになった。さらに、マスコミによって拡散される言葉がいかに社会風潮に影響を与えるかを考えさせられる内容になっている。プレゼンが良かったこともあり、会場投票でダントツの最優秀賞に選ばれた。

 キャンプ以外からの応募では、Team Soloによる、ツイッターのコメントを1人で解析して記事にまとめあげた「Suica履歴販売は何を誤ったのか」や、岩手県大槌町に駐在する朝日新聞の記者が集めた5551枚のチラシを分析した「チラシでたどる震災1000日」など、情報ソースの選択や分析の角度が面白く、評価が高かった。

 後者ではチラシを100枚ウェブ上で掲載するにあたり、発行者全てに確認をとり、データに対する向き合い方の大切さを確認させられた。

 今回のアワードについて関係者は、「実験的要素も取り入れながら、予想以上の成果が得られた」とコメントしている。

 藤代氏は「他に誰もやらなかったので自分で開催してみたが、最初の火をつける役割は果たせたのではないか。こうした動きは継続が大事なので、要望があれば企画の見直しも含めて続けていきたい」と話している。

 発表された作品はアワードのサイトに公開されているが、これらをきっかけにデータジャーナリズムの可能性がさらに広がることに期待したい。

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野々下裕子(ののした・ゆうこ)
フリーランス・ライター。
デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。著書に『ロンドン五輪でソーシャルメディアはどう使われたのか』。共著に『インターネット白書2011』(共にインプレスジャパン)などがある。

本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』2月号から収録しています。同号の特集は「『だってネットに出てたもん』を考える」です

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筆者

野々下裕子

野々下裕子(ののした・ゆうこ) フリーランス・ライター

フリーランス・ライター。 デジタル業界を中心に、国内外のイベント取材やインタビュー記事を雑誌やオンラインメディアに向けて提供する。また、本の企画編集や執筆なども手掛ける。著書に『ロンドン五輪でソーシャルメディアはどう使われたのか』。共著に『インターネット白書2011』(共にインプレスジャパン)などがある。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです