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次世代TVの「放送と通信の融合」は守りの発想のままでいいのか?

高木利弘 株式会社クリエイシオン代表取締役、マルチメディア・プロデューサー

 今年2月、今後の日本の「放送と通信の融合」の未来を決める重大な発表があった。

 次世代高精細テレビである4K/8Kテレビの早期実現を目指す次世代放送推進フォーラム(NexTV-F)が、「デジタル放送受信機におけるリモート視聴要件Ver1.0」を公開したのである。

 これにより、高画質で放送を楽しめるだけでなく、外出先でスマートフォンやタブレット、ゲーム端末などでも放送を楽しめることが確実となった。

 その主な仕様とは、(1)「リモート視聴」受信機(親機)と、対応アプリを搭載したモバイル端末(子機)が必要、(2)リモート視聴のために、あらかじめ宅内でペアリングを行い、その有効期間は最長3カ月で、同時にリモート視聴できる子機は1台、(3)親機に録画した番組の宅外での子機へのコピー/ムーブは不可、(4)CMスキップは不可(が望ましい)などである。

 残念なことに、モバイル端末でのリモート視聴は基本的に放送されている番組をそのまま見るだけで、録画した番組を見たければ、「あらかじめ宅内でコピー/ムーブしておくように」という仕様である。

 視聴者の利便性よりも、従来のビジネスモデルを守ることを優先した「放送と通信の融合」である点が気がかりである。

デジタル時代の視聴の実態を無視

 言うまでもなく、現在は若者を中心にテレビ離れが起きている。それも当然で、ネット上には、YouTubeやニコニコ動画、USTREAMなどがあふれ、それらをスマホやタブレットでいつでもどこでも自由に見られるようになっている。

 では、そうした実態に即した形での「放送と通信の融合」を実現する可能性があるのはどのようなサービスだろうか?

 ひとつの有力候補は、グーグルであろう。同社は昨年、「Chromecast」という小さな装置をテレビにつないで、インターネット用のモニターにしてしまう戦略に打って出た。

 そして、世界一のネット広告集稿力と、YouTubeやGoogle Mapなど関連サービスを持つ強みを生かして、従来のテレビ放送が提供できなかった新サービスを提供しようという戦略だ。

 グーグルであれば、視聴率はもちろん、各視聴者の行動パターンや趣味志向をきめ細かく分析できる。その上、視聴者の求めている「買いたい」「行きたい」「解決してほしい」といった様々なニーズに応えることもできるであろう。

 スマートウォッチなどのウェアラブル機器と連動させて、ヘルスケア、教育などの分野で新しいサービスを投入してくるかもしれない。アップルやアマゾンも同様のアプローチをしてくる可能性がある。

 もうひとつの有力候補は、フェイスブック、LINEといった数億人単位の利用者を抱えるソーシャルメディアだろう。

 フェイスブックが世界最大のメッセージをやりとりするWhatsAppの買収を発表すれば、LINEはクリエーターや企業をユーザーと直接結ぶ「LINE Creators Merket」や「LINEビジネスコネクト」、既存の電話サービスを窮地に追い込む「LINE電話」などを発表している。

 そうした流れから見えてくるのは、彼らが社会全体の「コミュニケーション・プラットフォーム」を目指していることである。そして、そうである以上、放送コンテンツも取り込んでいくと考えるのが自然である。

 いずれにせよ彼らは、既存の放送業界のビジネスモデルを温存することよりも、利用者の利便性を優先させるに違いない。

 さて、こうした中、放送業界はNexTV-Fの「モバイル視聴」や、NHKのハイブリッドキャストのような「テレビ中心」のサービスに活路を見出すしかないのであろうか?

ガラポンTVが開く新しい可能性

 ひとつ注目されるのは、若手ベンチャーが開発したガラポンTVという全録機の存在である。

拡大ガラポンTVのホームページ

 ガラポンTVは、ワンセグで地デジ8局分を最大4カ月分全番組録画し、スマホ、タブレット、パソコンなどでいつでもどこでも見たい番組を視聴できるようになっている。

 NexTV-F「モバイル視聴」との一番の大きな違いは、外出先からであっても、自由自在に録画した番組を選択して視聴できる点である。データを受信しながら再生する「ストリーミング視聴」はもちろん、あらかじめ端末にデータをダウンロードしておいて再生する「ダウンロード視聴」もできる。「ダウンロード視聴」は「ダビング10」に準拠しており、全く合法的にテレビ番組のタイムシフト視聴を実現しているのである。

 ワンセグのため、画質の点ではNexTV-Fに敵わないが、以下のような可能性を持っている。

 (1)これまで見逃されてきた多くの良質な番組を発掘、発見する機会を大幅に増やす、(2)ソーシャル連携などにより、テレビ視聴者数、視聴時間数を大幅に増やす、(3)視聴率はもちろん、各視聴者の行動パターンや趣味志向をきめ細かく分析でき、放送局が視聴者の「買いたい」「行きたい」「解決してほしい」などに応える付加価値サービスを展開できる、などである。

 以上のように、ガラポンTVは、グーグルにも匹敵する「放送と通信の融合」を実現する可能性を秘めている。問題は、そうした可能性を日本の放送業界がどう評価し、どう共有できるかに掛かっていると言えるであろう。

     ◇

高木利弘(たかぎ・としひろ)
株式会社クリエイシオン代表取締役。 マルチメディア・プロデューサー。
1955年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。「MACLIFE」などのIT系雑誌編集長を経て、96年から現職。著書に、『The History of Jobs & Apple』(晋遊舎)、『ジョブズ伝説』(三五館)、『スマートTVと動画ビジネス』(インプレスジャパン)など。

※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』4月号から収録しています。同号の特集は「教育はどこへ行くのか?」です


筆者

高木利弘

高木利弘(たかぎ・としひろ) 株式会社クリエイシオン代表取締役、マルチメディア・プロデューサー

株式会社クリエイシオン代表取締役。 マルチメディア・プロデューサー。 1955年東京都生まれ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。「MACLIFE」などのIT系雑誌編集長を経て、96年から現職。著書に、『The History of Jobs & Apple』(晋遊舎)、『ジョブズ伝説』(三五館)、『スマートTVと動画ビジネス』(インプレスジャパン)など。