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3年後の「3・11」報道でテレビが発揮した「強み」

水島宏明 ジャーナリスト・法政大学社会学部教授

 3・11の「その後」。テレビはちゃんと伝えているのだろうか。2年前、私がテレビを去った動機につながった疑問だ。それだけに「3年後」の3・11には注目した。

 総じていえば「テレビならではの強み」を発揮した民放の特番がいくつか目立った。当日のテレビ朝日「スーパーJチャンネルスペシャル 東日本大震災から3年」は5時間かけて3年後の現実を伝えた。

 渡辺宜嗣キャスターが津波と原発事故の両方に見舞われた福島県浪江町の請戸小学校の内部を実況。学校側が児童に山道3キロを歩かせ避難させた小学校。校内にいた全員が助かったが、津波が2階膝下まで押し寄せた校舎の一つ一つの教室すべてを生放送で伝えた。入口から1階の教室、放送室、職員室、校長室、ランチルーム…2階へ上がると津波被害はなく、音楽室や教室は当時のまま。そこでの日常を渡辺アナは言葉で淡々と再現。生映像だけで伝えた。マルチコプターという無人ヘリで撮影した「震災遺構」のリアルな映像。テレビは映像なのだと改めて感じさせた。

 また、原発周辺で続けられる除染作業で出た放射性物質をためた土嚢の山。各地の「仮置き場」に積み上がるが、飯舘村では土嚢の袋に穴が開いている映像を撮影。袋の耐久性が3年程度しか持たないことを報道し、環境省の責任者を追及したのはスクープと言えた。

 さらに津波で住宅や街灯も消えた通学路を夜照らす光はない。女子を含む子どもたちが暗闇の中を通学する危険な現状を映像で見せて問題提起。それぞれの地域の問題を掘り下げた。各局の「報道特番」の中で「テレビの強み」を発揮して出色だった。

 フジテレビの特番「あの日が教えてくれること」も良かった。安藤優子キャスターが原発事故の警戒区域に指定された楢葉町で一軒だけ残った家を訪ねる。90代で寝たきりの母親の介護のためにそこで暮らす決意をした女性の家だ。震災1年目、2年目と訪ねて話を聞き、一緒に泣いた。3年目の今回、母親は94歳で亡くなり、安藤は墓前で手を合わせる。一つの家族の3年間が映像で記録されていた。

 この番組では原発事故で人口が流出した浪江町の町長が「廃炉ビジネスで町を振興する」と宣言するなど、地域の現状を追い続けたゆえの特報があった。他にも津波火災について注意喚起。海水に浸かった車が火災を引き起こすメカニズムを検証し、ヒューズボックスなどからの発火が火災につながる再現をした。テレ朝の特番同様に、安藤も除染後に出た放射性廃棄物の「仮置き場」の問題や土嚢袋の耐久性を懸念するレポートをした。

 「3年後には『仮置き場』から国の責任で『中間貯蔵施設』に移すと言っていたのに」と。

 国の地元への約束が果たされていない「中間貯蔵施設」の問題から見ても「進んでいない3年後」の現状が理解できた。

 NHKでは看板ドキュメンタリー枠「NHKスペシャル」(Nスペ)の様々なアプローチが光った。「被災地こころの軌跡」では、被災者たちに定期的にアンケートを取って、3年間で心境がどのように変化したかを記録。肉親を失った被災者のケースで、1年目は現実に適応できずに亡き人が生きているかのように面影を追い求め、2年目には忘却することで心を安定させ、3年経った今は再びその面影とともに生きている、など、切実な心の内面を丹念に伝えた。3年目で国の復興計画と住民のニーズに乖離が生じていることを伝えた「どう使われる3・3兆円~検証復興計画~」。

 「”災害ヘリ”映像は語る」は3・11当日の自衛隊ヘリが記録しながら未公表だった「津波到来第1波」の映像の検証など、映像でこそ体感できる震災のメカニズムやその後の3年間の重みを伝えた。

 「避難者13万人の選択」も原発事故による避難指示の解除や賠償、就職就学などで揺れる被災者たちを取材。長期化する避難が離婚などの家庭問題を引き起こしている実態を伝えた。

 原発事故に関してもNスペ「メルトダウンFile.4 放射能”大量放出”の真相」が新たなスクープを放った。2号機からの放射性物質の放出が想定外の形でなぜ起きたかを大がかりな再現実験などで実証したのだ。

 3月11日のテレ朝「報道ステーション」は子どもの甲状腺がんの調査や診察、治療を独占的に管理する福島県立医大の硬直的な対応と不安を募らせる母親の心情を対比させて報道した。

安倍首相に配慮?した 日本テレビの報道番組

 違和感が大きかったのは、日本テレビの報道番組の数々だ。3・11当日の夕方の「特番」は、被災地からの中継レポートの後で、東京から政治部出身のキャスターが「安倍総理は……という方針です」と、政権がこういう対策を考えているというまとめ方に終始した。

 他の民放のように被災地で起きている細かい問題に着目する、という地域密着の視点は希薄。問題提起よりも政権がこう対応する、という政権PRめいた報道のスタイルが気になった。

 驚いたのは3月9日の「真相報道バンキシャ! 被災地1000人の声2014」だ。安倍首相と仲が良く、NHK経営委員としての適格性を問う声が上がっている作家の百田尚樹氏がスタジオに登場。原発事故後の影響を伝えるVTRの後で彼は「(東京大空襲の後10年で復興したのだから)必ず10年で復興します」という現実味がない楽観論を披露した。

 福島に今も戻ることができない被災者や福島で子どもの被ばくを心配する親からは、無神経な発言だという感想をたくさん聞いた。震災から3年という節目の報道番組で、なぜ彼を呼んで発言させたのか。

 被災者の心に寄り添ったテレビ報道とは何か。3年経って伝えるべきこととは何か。そのことを各テレビ局が真剣に考えているかどうかの「差」が大きく出た3周年になった。

     ◇

水島宏明(みずしま・ひろあき)
ジャーナリスト・法政大学社会学部教授。
1957年生まれ。札幌テレビ、日本テレビでテレビ報道に携わり、ロンドン、ベルリン特派員、「NNNドキュメント」ディレクター。「ズームイン.SUPER」解説キャスターなどを歴任。2012年4月から現職。主な番組に「原発爆発」「行くも地獄、戻るも地獄」など。主な著書に『ネットカフェ難民と貧困ニッポン』など。

※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』5月号から収録しています。同号の特集は「集団的自衛権を考える」です