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ウエアラブルの次にくる埋め込み型情報機器の可能性

小林啓倫 日立コンサルティング 経営コンサルタント

 メディア論で知られるマーシャル・マクルーハンは、あらゆるテクノロジーは人間の身体の拡張であると唱えた。衣服は皮膚を拡張するもの、車輪は足を拡張するものといった具合である。

 これには比喩的な意味合いも強いが、グーグルグラスやスマートウオッチといった最近のウエアラブル技術の流行を考えると、技術がマクルーハン的な概念に近づきつつあると言えるだろう。

インプラント時代がもうすぐやって来そうだ拡大インプラント時代がもうすぐやって来そうだ
 そしてウエアラブルの次に来ると期待されているのが、インプラント(埋め込み)技術だ。その名の通り、人間の身体に埋め込んで使う形式のデバイスである。既にペースメーカーや人工臓器といった機器が存在するが、より簡単に装着でき、様々な機能を実現する技術を開発しようという動きが出てきている。

 2014年1月、グーグルが「スマートコンタクトレンズ」を開発中であることを発表して話題を集めた。

 これはコンタクトレンズを二層にした形状で、間にセンサーや無線アンテナなどが備えられており、涙に含まれるグルコース値を調べることで装着者の血糖値をリアルタイムに把握することができる。既に動物実験を終え、人間を対象とした臨床試験の実施を当局に申請する段階まで来ている。

 またグーグルが、コンタクトレンズにカメラを組み込むという特許を出願していたことも明らかになっている。実用化されれば、眼鏡型のグーグルグラスよりもはるかに違和感を与えないデバイスとなるだろう。ただコンタクトレンズは直接眼球に接するものとはいえ、「埋め込む」という発想とは若干異なるかもしれない。

医療分野で研究が進み感覚を補完する応用も

 これに対し、文字通り体内に埋め込む血糖センサーを開発しようという動きもある。そのひとつである米センスオニクス(Senseonics)社では、グルコースに反応する蛍光ポリマーを使用し、皮下に埋め込むタイプのセンサーを実現した。

 測定されたデータはスマートフォンやパソコンなどに転送可能で、また異常値が観測された場合には、振動して装着者に警告を発することができる。既に人間での臨床試験を終え、約半年間使い続けても問題がないことが確認されているそうだ。

 こうした動きに象徴されるように、インプラント型の技術は主に、医療分野での開発が進められてきた。しかしこれまでにない、まったく新しい機能を実現しようとする人々も存在している。

 例えば英レディング大学のケビン・ワーウィック教授は、「世界初のサイボーグ」として知られている。彼は1998年に、自分の腕にICタグを埋め込むという実験を行った。そして研究室のドアに読み取り機をつけ、目の前に立つと「こんにちは、ワーウィック教授」というあいさつとともにドアが開く仕掛けを実現したのである。

 さらに野球帽にソナー(音波探査)装置をつけ、得られたデータを腕への刺激に変換することで、音波と痛みで周囲に存在する物体を知覚できるようにした。最初は違和感を覚えたものの、しばらくすると脳が痛みに慣れ、第六感とでも呼ぶべき感覚で周囲の環境を認識できるようになったそうである。

 また「バイオハッカー」として知られる米国のリック・リーは、両耳に磁石を埋め込み、ネックレス状に首に巻いたコイルを経由して音楽を聴くことに成功した。音楽だけでなく、磁場やWi−Fiなども感知できるそうで、彼もこの新しい感覚を「第六感のようだ」と表現している。

 リーは視力を失いつつあり、彼にとってインプラントは、テクノロジーを超えた大きな意味を持つようになっている。

 この他にも、体温などを測定するスマートタトゥー(刺青)やスマートバンドエイド、また飲み込むことで体内の状態を測定するスマートピル(錠剤)などの技術が研究されている。

人体への影響や規制についても未解決

 ウエアラブル技術が普及し、ごく小さなデバイスで様々な情報を送信・受信することに慣れてくれば、人々はより技術が小型化し、見えなくなることを求めるようになるだろう。

 出かける前に装着するのを忘れたり、小さすぎてどこかに無くしてしまったりといったことを防ぐという点でも、埋め込み型の方が望ましい。その意味でインプラントデバイスは、私たちの想像以上に早く普及する可能性がある。

 一方でインプラント型の技術では、当然ながら人体への悪影響をどう防ぐかという課題に取り組まなくてはならない。情報技術・通信・医療の3つの分野が重なり合うことになり、どの行政機関がどのような形で関与するのかという問題も出てくるだろう。日本では認可の下りていないインプラント技術を手に入れるために、海外で手術を受けようとする人々も現れてくるに違いない。

 あるいはスポーツ選手が体内に通信デバイスを埋め込み、外から見えない形で情報を送受信するなどという不正行為が起きることも考えられるだろう。いかにマイナス面を抑えてプラス面を促進するかという、あらゆる新技術で繰り返されてきた議論がまた起きることは避けられなさそうだ。

     ◇

小林啓倫(こばやし・あきひと)
日立コンサルティング 経営コンサルタント。
1973年東京都生まれ。筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。国内SI企業、外資系コンサルティング会社等を経て、2005年より現職。著書に『リアルタイムウェブ—「なう」の時代』『災害とソーシャルメディア—混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」』(共にマイコミ新書)など。

本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』6月号から収録しています。同号の特集は「テレビ・ジャーナリズムが危ない」です


筆者

小林啓倫

小林啓倫(こばやし・あきひと) 日立コンサルティング 経営コンサルタント

1973年東京都生まれ。筑波大学大学院地域研究研究科修士課程修了。国内SI企業、外資系コンサルティング会社等を経て、2005年より現職。著書に『リアルタイムウェブ—「なう」の時代』『災害とソーシャルメディア—混乱、そして再生へと導く人々の「つながり」』(共にマイコミ新書)など。