投票率より視聴率が大事?
2015年02月23日
今からごく普通に考えてみれば、あの衆議院選挙の意味は、政権の延命=権力の更新、自己強化以外に一体何があったというのだろうか。だが、本誌で、そんなことを今さら指摘してみても、まことに益が少ない。それを行うべきは別のメディア、 紙面ないし誌面においてであろう。ここでは、むしろ、今回の選挙に際して、テレビの選挙報道がどのような変容をみせたのかについて考察する方が、今後の健全なジャーナリズムの発展のために、いくらかましな材料を提供できるというものだ。
今回のテレビにおける選挙関係報道は、とりわけ民放のワイドショーで選挙を扱う放送時間が激減した。民間の調査機関、エム・データ社の調査では、2012年の総選挙時に比べると、3分の1ほどに激減していたという(朝日新聞12月10日付朝刊の報道などによる)。確かにワイドショーで選挙のことを扱う時間は実感としてかなり少なくなったと思う。実際にワイドショーを制作しているプロデューサーに聞いてみた。—今回、何であんなに選挙のことを扱わなかったの?「解散がいきなりすぎて、準備をする余裕がなかったということもありますけど、そもそも何のためにやる総選挙だか、最後まで有権者が熱くならなかったんじゃないでしょうか。ワイドショーは大衆の本音部分に寄り添ってネタを選択するわけですから、選挙には向かわなかったですね、正直なところ」
別の担当者は言う。「だって、数字(視聴率)取れないですよ、選挙じゃ。選挙報道では、ファクトで些細な間違いがあったりすると、内外からメチャクチャに叩かれますからね。だから徐々に足が遠のいたということもあります。それと誰もはっきりとは言いませんが、今、テレビのワイドショーに出ている人(出演者)で、政治ネタを裁ける人が2年前に比べて、ものすごく少なくなっちゃったんですね」。さらに、別の担当者が声をひそめて、こんな話をしてくれた。「例の自民党からの文書のことが僕らにも上から伝えられたんですよね」
何があったのか。11月20日付けで自民党から在京民放キー局の編成局長・報道局長あてに1通の文書が送付された。「送付された」と記したが、実際に起きたことは以下のような経緯をたどったのである。このディテールを、新聞も含めてほとんどのメディアは報じていない。
マスメディアの政治部で自民党を担当する記者クラブに「平河クラブ」というのがある。政権与党の中核を担当するとあって、民主党政権時代でさえ、各社ともそこには人員を厚く配置していた。今回の文書の件の場合、筆者が取材した限り、在京民放キー局(日本テレビ、TBS、テレビ朝日、フジテレビ、テレビ東京)の平河クラブ・キャップが個別に幹事長室の奥の部屋に呼び出され、その一人ひとりに萩生田光一自民党副幹事長らから、当該文書が手渡されたのである。11月20日の午前11時40分頃のことである。部屋には他に2人の自民党幹部が立ち会っていた。複数のルートで取材をしたが、外形的な事実関係はほぼ同じだった。その際に、副幹事長からは、文書を手交するにあたって理由めいた説明もあったという。
説明内容のニュアンスは、各局間で多少異なっていたが、「先日、ある局の報道番組に総理が出演した際に、街の声として偏った内容のVTRが放送され総理も気にされていた。政権与党として、こういう文書を出すのもどうかと思ったが、お話ししたケースも含めいろいろとあったので、今回このようなお願いをする次第です」。順番は、日テレ→TBS→フジ→テレビ朝日→テレビ東京の順番。各局キャップの反応はさまざまだったという。
メディアに対する過剰な反応をみせる現政権の姿勢にうんざりという向きもあれば、
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