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選挙報道に新たな手法を生み出したい

ソーシャルメディアを使った朝日の試み

藤谷 健 朝日新聞東京本社報道局ソーシャルメディアエディター

 朝日新聞社の編集部門は、3年前からソーシャルメディア利用を報道の一環として位置づけ、Twitter(ツイッター)やFacebook(フェイスブック)などの積極的な活用を進めてきた。

 代表的な取り組みとして挙げられるのが、記者やグループ(本社各部や地方拠点、取材班など)によるソーシャルメディア発信を奨励する「公認アカウント」制度だ。これまでに200人を超える記者や100近いグループが、朝日新聞記者や社の組織であることを明示したツイッターのアカウントを持ち、記事を紹介したり、取材の端緒を探ったり、さまざまな活用を実践してきた。

 ソーシャルメディアをめぐる戦略づくりや社内での普及・研修、リスク対策などを担うエディター職に昨年1月に就いた筆者は、こうした取り組みを支える一方、ソーシャルメディアのより多様で、旧来の思考や手法にとらわれない活用ができないかを模索してきた。

 こうした思いに至る背景には、デジタル版も含めた読者・会員の高齢化や、スマートフォン普及による記事の読まれ方の変化、テクノロジーの進化による記事や写真、動画などのコンテンツの多様化(ハイブリッド化)、長年蓄積してきた良質なコンテンツの活用といった、新聞社の抱える多くの課題がある。また昨秋以降、朝日新聞を取り巻く環境が大きく変わり、信頼回復の途上にあるなか、外に開かれているソーシャルメディアに担える役割が何かしらあると考えるためだ。

 前置きが長くなったが、昨年12月の衆院選の際、同僚記者とともに、ソーシャルメディアを活用した新たな報道をいくつか試みた。基本的な考え方として、(1)既存のニュース価値判断や取材方法に必ずしもとらわれない(2)これまでコンテンツの届いていなかった層を意識する(3)双方向性を可能な限り重視する(4)テクノロジーやイノベーションを活用する、などを念頭に置いた。また朝日新聞の選挙報道のツイッターアカウント(@asahi_election)を新たに作った。

 ただ、のっけから言い訳がましくて恐縮だが、解散・総選挙の可能性が浮上してから公示までの期間が短かったため、準備不足は否めず、本紙やデジタルでの展開も十分にはできなかった。消化不良感が残るものの、教訓などを含め、今後の参考になればとの思いから、そのいくつかを紹介したい。

政治担当編集委員と二人三脚で取り組む

 力を入れたテーマが、インターネットと選挙や政治の関係についての取材だった。2013年の参院選で初めてネット選挙が解禁となり、補選を除くと、2回目の国政選挙となった衆院選のタイミングで、現状をさまざまな角度から見ていこうと考えた。以前からこのテーマの取材を重ねていた政治担当編集委員の松下秀雄記者(ツイッターアカウント@hideomatsushita)と二人三脚で取り組むことになった。

 具体的には、松下編集委員らが持ち回りで執筆している本紙朝刊のコラム「政治断簡」や、衆院選企画の一環として、朝日新聞デジタルで新たに設けたコラム「ネットを歩く」の執筆・掲載に向けて、この分野に詳しい人たちへのインタビュー取材をライブ中継しようという試みだった。いわゆるインターネットでの公開インタビューだ。

 狙いはいくつかあった。一つは取材の可視化、つまりインタビューを公開することで、記者の仕事の一端を見てもらい、どのようなやりとりをしているのかを知ってもらいたかった。そしてソーシャルメディアの特性である双方向性を生かし、インタビューの途中で、視聴者から質問や意見をリアルタイムで投げてもらい、取材相手と記者の間でさらに深まったやりとりができれば、との期待があった。またこれらのインタビューを踏まえて、コラムが出来上がっていく過程の一端を見せることもできる。

 最近広がるメディア不信も意識した。その根っこには、記者が恣意的に情報を選んでいるのではないか、という疑念があるように思える。情報源(ソース)を常にすべて明らかにすることはできないのは言うまでもないことだが、取材テーマによっては開示することは可能であり、今回はそれに挑戦することにした。

 一方で、この公開インタビューを衆院選に合わせて実施するため、選挙に直接影響するような言及などを避ける必要があった。このため候補者はもとより、各党のネット選挙担当者などは、取材対象としつつも、公開インタビューの対象からは外した。また快諾していただいた取材相手の方々にも、特定の候補者や政党の支持などに言及しないでほしい旨をお願いした。

 実際、この企画を始める直前には、NPO法人代表だった大学生が小学4年生と名乗って立ち上げた、解散総選挙に疑問を呈するウェブサイトをめぐり、安倍首相がフェイスブック上で「子供になりすます最も卑劣な行為」だと非難。その際にヘイトスピーチやコメントが並ぶサイトを引用したため、ネットを中心に大きな注目を集めた。はからずも時宜を得た形となったが、一方で誤解を招くことのないように十分配慮した。

ツイッターと連動する無料サービスを使う

 公開インタビューを実施するにあたっては、ツイットキャスティング(通称ツイキャス、http://twitcasting.tv)というソーシャルメディアの無料サービスを使った。

 ツイキャスは、ツイッターと連携しており、新たな会員登録は不要で、スマートフォンやタブレット、パソコンなどの動画撮影機能を使って、簡易にネット上でライブ中継できる。

 また中継画面の脇には、視聴者が質問や意見などを書き込めるスペース(タイムライン)がある。中継をしている人たちは、そこを見ながら、質問に回答したり、反応したりすることができる。さらにオフィシャル登録をすることで、通常は制限のある中継時間が無制限となるほか、中継後はすぐにアーカイブ化され、録画を視聴することができる。

 ツイキャスを運営するモイ株式会社によると、現在、全世界で800万ユーザーが登録。とりわけ日本では、青少年層に広く浸透し、学生だけで、国内の中高大学生の3分の1にあたる400万ユーザーが登録している。ユーザーの55%が24歳以下のほか、25歳から34歳が22%、35歳から44歳が17%を占める。また女性の比率が6:4で男性を上回っている。朝日新聞がこれまでアプローチできていない若者や女性に訴求力のあるメディアだ。

 朝日新聞でツイキャスを利用したのは今回が初めてではない。

 以前にも現場からライブ中継をしたことがあった。テーマは鉄道と将棋。前者はユーザーとの親和性が容易に想像できたが、後者については受け入れられにくいのではないかと懸念していた。

 実験的に取り入れたのは、朝日新聞が共同主催している名人戦。昨年の第2局と第3局で、解説者へのインタビューのほか、対局終了後の「感想戦」をライブで中継したところ、約1時間半の中継にのべ2万887人が視聴し、録画と合わせると、合計2万7451人が閲覧するといううれしい誤算となった。同時視聴も最も多い時で1103人を数えるなど、想定外の結果に手応えを感じた。

 またツイキャスの普及が進むなか、政治の分野でも少しずつ利用が増えていた。大阪維新の会が継続的に使っているほか、東京都知事選や沖縄県知事選の候補者が街頭演説を中継し、衆院選でも何人かの候補が利用を予定していた。

不安も抱えながら軽やかに始める

 とはいえ、不安材料はいくつもあった。まず不慣れの問題。記者歴25年の松下編集委員は、取材のベテランとはいえ、公開インタビューの経験はこれまでなく、撮影などにあたった筆者も前述した機会でしかツイキャスを使ったことがない。またこちらが話を聞きたいという取材相手が、必ずしも一般的に関心を呼ぶかどうかもわからない。不確定要素を抱えながらの、やや見切り発車は否めなかったが、 ・・・ログインして読む
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筆者

藤谷 健

藤谷 健(ふじたに・たけし) 朝日新聞東京本社報道局ソーシャルメディアエディター

1963年生まれ。87年、国際基督教大学(ICU)卒業後、朝日新聞社入社。在学中にフィリピンのシリマン大学に留学。宇都宮、札幌勤務を経て、外報部(現国際報道部)。ロンドン大学東洋アフリカ研究学院で開発学修士、ローマ兼ベオグラード支局長、英字紙ヘラルド朝日編集部員、ジャカルタ支局長、外報部次長などを経て2009年から13年までアジア総局長(バンコク)。ツイッターは、@TFujitani_Asahi