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YAHOO!ニュース、「取材をしない」編集部

いかに報道マインドを根付かせるかに腐心

井上芙優 ヤフー株式会社Yahoo!ニュース編集部員

2014年の衆院選時の「衆院選対策本部」の様子。企画、編集、エンジニア、デザイナーなど、Yahoo!ニュースを含む各部門・職種のメンバーが集まり、24時間態勢で対応にあたった2014年の衆院選時の「衆院選対策本部」の様子。企画、編集、エンジニア、デザイナーなど、Yahoo!ニュースを含む各部門・職種のメンバーが集まり、24時間態勢で対応にあたった
 ヤフー・ニュースの編集部が新卒社員を受け入れるようになり、ことしの春で5年目を迎えた。「取材をしないメディア」で、ニュース編集者を育てることは可能なのか―。

 当初、このような課題を抱えながら手探りで始まったヤフー・ニュースの新人教育だが、この5年間を振り返ってみると、ソーシャルメディアの浸透、スマートフォン・タブレット端末などのスマートデバイスの普及など、テクノロジーの進化にともなってニュース編集者に必要とされる素養も変化してきたと感じている。

 本稿では、次世代を担うジャーナリスト志望の皆さんに向け、ヤフー・ニュース編集部の新人教育のいまについて紹介したい。

スタッフの総数160人 編集部は26人で運営

 まずはじめに、ヤフー・ニュース全体そして編集部の概要について紹介する。ヤフー・ニュースのスタッフは約160人(2015年3月現在)。編集者のほか、エンジニア、デザイナー、企画など様々な職種から成り立っている。

 そのうち編集部は26人。ヤフー・ニュースの業務の裏側についてテレビ番組などのメディア取材が入る際は、ヤフー・ニュース トピックスの「13文字見出し」の編集作業がクローズアップされる機会が多いため、ヤフー・ニュースといえば「編集部」のイメージが強いかもしれない。

 しかし、人員規模でいうと編集部はヤフー・ニュース全体からみると一部であり、多種多様な人材がチームを組んで、国内最大級のニュースサイトを支えているというのが実態だ。

 編集部は前述のように26人で、半数以上を報道機関などでの取材・編集経験を積んで転職してきた中途入社の社員、残りを新卒で入社してきた社員が占める。

 業務内容はヤフー・ニュース トピックスの編集作業のほか、SNS公式アカウントの運用や、世の中の意見を投票形式で問い可視化する「意識調査」の設問作成、個人の書き手でつくる「ヤフー・ニュース 個人」での書き手とのやり取り、オウンドメディアのコンテンツ作成など様々だ。

 東京の本社オフィスのほかにも大阪、北九州、八戸にも編集部があり、24時間テレビ会議と仮想空間のチャットルームでつながっている。

 2011年度、ヤフー・ニュースの編集部に初めて新卒社員が配属されるようになるまでは、編集部は30代中心の中途入社の社員で占められていたが、変化の著しいインターネットの世界では若い人材の発想力や時代感覚が必要とされることから、新卒入社の新人を受け入れるようになった(詳しくは本誌11年3月号「報道マインド必要なヤフーニュース 今春、新規採用者から編集者育成へ」参照)。

 14年度までに、この4年間でヤフー・ニュース編集部の門をたたいた新卒入社の社員は計8人(いずれもビジネスコースの採用枠で入社し、入社後に編集職に配属)。ちなみに、新卒社員を受け入れるようになってからも、不定期ではあるが報道機関などで経験を積んだ人材の中途採用も実施している。

 前職で積んだ経験をヤフー・ニュースでの業務に生かす中途入社の社員と、旧来型メディアの考え方にとらわれない柔軟な発想をもった新卒入社の社員が、肩をならべて仕事をしている。

ニューストピックス編集作業の流れ

主要8本のトピックスが並ぶ、Yahoo!ニュースのトップページ主要8本のトピックスが並ぶ、Yahoo!ニュースのトップページ
 ヤフー・ニュース トピックスの編集は、1996年にヤフー・ニュースがはじまって以来、デザインや機能の移り変わりとともにその作業内容も少しずつ変化してきているが、現在の作業の大枠を簡単に示すと、以下の流れとなる。

①ヤフー・ニュースに配信される記事(1日あたり4000本)から、「トピックス」のメインとなる記事(ヘッドライン)を選ぶ。

②記事の内容をより深く広く理解するための関連リンクを探し、小見出しをつけて編集する。

③13文字の見出しをつける。

④別の編集メンバーがトピックスの中身を校正し、掲出する。

 ヤフー・ニュース トピックスの主要8本は上から下にかけ、「硬→軟」のグラデーションのついた並びで編成されており、この編成については指定された担当者をおいている。ヤフー・ニュース トピックスを編集する際の軸となる「公共性と社会的関心」に基づき、重要なニュースや世の中で関心の高いニュースをバランス良く、最適なタイミングで掲出するスキルが求められるため、主要8本の編成は主にベテランメンバーが中心だ。報道機関でいうと、デスクのような存在に近い。

 ヤフー・ニュースには、契約を結んでいる数多くの新聞社、テレビ、雑誌、ネットメディアや個人の書き手などから、1日あたり計約4000本の記事が配信されるが、その中で、トピックスに掲載されるのは1日あたり100本程度。月間100億以上のPV(ページビュー)という大きな影響力を持つサービスの「看板」となる記事を選ぶということは、大きな社会的責任を負うことである。

 ニュースを俯瞰して把握し、それぞれの媒体の記事を読み比べ、その都度判断を下した上で掲載する必要がある。政治、経済、海外、地域、スポーツ、エンタメなど幅広いジャンルの情報をウォッチするだけではなく、ネットメディアとして、新聞やテレビでは報じられていないが、ネットの中で話題となっている出来事にもいち早く反応しなければならない。

 そのためには、インターネット内外問わず日々の情報収集などで知見を広め、メンバー同士で日常的に議論する姿勢が欠かせない。デスク脇のテレビにながれるニュースを横目に、タブレット端末でソーシャルメディアのタイムラインをチェック、別のモニターではウェブサイトを巡回……といった様子が、編集現場の日常風景となっている。

編集者に求められるスキルとマインド

業務やサービス開発の裏側などを発信しているYahoo!ニュース公式スタッフブログ業務やサービス開発の裏側などを発信しているYahoo!ニュース公式スタッフブログ
 編集部に配属された新卒社員はまずこの①から④までの作業をできるようになるための研修に入る。研修期間をすぎても先輩社員から後輩社員への日常的な指摘や指導はあるが、他の社員が作成したトピックスを校正する④のステップに進むまでに、およそ約半年の研修期間を設けている。

 ヤフー・ニュースの編集者として、身につけなければいけないことは、大きく分けて二つある。ニュースの「価値判断能力」、そしてヤフー・ニュースの編集者として求められる「マインド」である。

千本ノックのような「価値判断能力」演習

 まず、「価値判断能力」について。ヤフー・ニュース トピックスを編集するにあたって「最適な13文字見出しをつけること」はもちろん重要なスキルであり、一定の訓練を要するが、そのステップに進む前にまず必要なのが

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