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「情報の接触経路」の破壊的変化が起きている

即応が求められる新時代のデジタル戦略

藤村厚夫 スマートニュース株式会社執行役員メディア事業開発担当/シニア・ヴァイス・プレジデント

 朝日新聞のインターネット版「朝日新聞デジタル」の前身「アサヒ・コム」が、先駆的に開設されたのが1995年。米国の経済紙「Wall Street Journal(ウォールストリート・ジャーナル、WSJ)」が、最初の「インタラクティブ版」を開設したのが96年である(注1)。

 誕生以来20年、デジタルメディア、わけてもデジタルを基盤としたニュースジャーナリズムは、インターネットの大規模な普及とともに、急速に進化を遂げてきた。

 2014年の時点で、世界のインターネット利用者は約30億人(注2)。同時期の世界の総人口が約73億人に及ぶ(注3)ことを計算に入れると、インターネットに接続する人口は、数年後には倍加する現実が見えている。デジタルメディアは、さらに成長の可能性に富んだ肥沃な市場を目前にしているといえる。

 だが、足もとの数年に目を転じれば、現実は楽観を許さない様相も見せる。デジタルメディアをめぐる環境では、後で述べるように破壊と断絶を含んだ変化が進み、さらにはそれが急加速しようとしていることが見えてくるのである。

 先に「進化」と書いた。社会インフラの整備、市場経済の成熟、国民の消費活動など累進的な要因の下で、発展段階的と見られてきた社会の情報化は、いま世界でほぼ同時並行的に急進展する異例の様相を見せている。

 実は〝正常な進化〟からは予測できないような大きな変化の波が到来しているのである。

スマートフォンの浸透で新たな時代へ

 ひとつ例をあげよう。

 先に世界のインターネット人口は約30億と述べた。同じ2014年、世界で出荷されたスマートフォン端末は、13億台に及ぶ(注4)。インターネット利用者の2人に1人がスマートフォンを利用、という状況に近づこうとしている。

 新興国でも事情が共通している。新興国諸国を総合すると、こちらもスマートフォン所有率が4人に1人へと近づこうとしている(注5)。情報産業の発展段階、固定回線など通信インフラの未整備を跨またぎ越して、無線によるインターネットへの接続とスマートフォンの浸透が、先進諸国同様に急速に進展しているのだ。

 アップル社が最初のスマートフォンを出荷してから、わずか8年。世界規模におけるインターネット接続と、その利用スタイルは一変したのである。

 筆者は、このような短期間の激しい環境変化が、メディア事業とジャーナリズム全般に対しても、新たな断絶的な変化をもたらすと理解する。

 デジタルメディアにとり、現在は〝20年間の変化の帰結〟ではなく、〝まったく新たな時代への序奏〟と見なすべき兆候に満ちている。

 本稿は、インターネットとデジタル化の波が、メディア事業およびジャーナリズムに「及ぼした」影響を整理するものではない。新たにどのような大転換がわれわれを待ち受けているのかを素描し、課題のいくつかを明らかにしようとするものである。

テレビを凌駕するネット経由の情報入手

図1 先進9カ国における「国際ニュース」の取得先比較拡大図1 先進9カ国における「国際ニュース」の取得先比較
 まず、「ニュース」への接触手段が変化している。図1は、先進9カ国における「国際ニュース」への接触方法を比較したものである(注6)。

 2014年の段階で、すでに中国、日本、イタリアでは、インターネット経由でのニュース接触の比率が、テレビをしのいでいることが分かる。新聞・雑誌、ラジオは遠く後塵を拝しているのが実情だ。

 インターネット経由でニュースに接する傾向の伸びは、先進諸国全体の趨勢であることが明瞭だ。非デジタルの既存の情報産業が依然として未成熟であるような新興国諸国においては、このような傾向が先進諸国以上に極端化する可能性がある。

 もはや、テレビか新聞か、あるいは雑誌かなどというフォーマット(形式)の区分が問題なのではない。既存のメディア事業者は、インターネット経由での情報流通に最大限の注力をしなければならない。これを「デジタルファースト」戦略と呼ぶ。

 国内におけるある調査では、「オンライン検索エンジンがトラディショナルメディアよりも信頼される情報源に」などと、ニュース情報の発生順序から考えれば〝あり得ない〟現象が報告されている(注7)。

 これはインターネットが、ニュース情報などを伝達する主たる経路へと発展した結果、デジタルメディア(ウェブサイト)の情報を収集し、これを利用者に的確に伝える検索エンジンの役割の重みが生んだ転倒である。

 だが、このような変化もまた〝20年もの間〟の帰結にすぎない。事態はさらにその先を行く。ジャーナリズムと読者との接触経路、すなわち仲介者において破壊的な変化が生じているのである。さらにデータを見ていく。

フェイスブックが情報接触でも最大手

 米国のシンクタンクの調査(2014年)によれば、米国成人の約4割が、ソーシャルメディア「Facebook(フェイスブック)」からニュース情報を取得している(注8)。いまや、ジャーナリズムに対する影響力の最大の源は、検索エンジン最大手の「Google(グーグル)」から、月間アクティブユーザー(MAU)が14億人(15年3月)を超える(注9)フェイスブックへとシフトを終えたのである。

 さらに、重要な点がある。フェイスブックのモバイル(スマートフォン等の)端末に限ったMAUがすでに、12億人を超えていることだ。先にあげた14年のスマートフォン端末の出荷台数に迫る規模といえる。世界的規模で見て、スマートフォンとフェイスブックが、ニュース情報への主要な接触経路を形成しているものと理解していい(注10)。

図2 米国主要サイトへの来訪者比率(2015年1月)拡大図2 米国主要サイトへの来訪者比率(2015年1月)
 メディア事業にとり、「デジタルファースト」が第一義という段階は、実は早くも過去のものとなり、現在では
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筆者

藤村厚夫

藤村厚夫(ふじむら・あつお) スマートニュース株式会社執行役員メディア事業開発担当/シニア・ヴァイス・プレジデント

1978年、法政大学経済学部卒。アスキーで月刊誌編集長。ロータス(現日本アイ・ビー・エム)でマーケティング責任者を経て、アットマーク・アイティを起業。その後、アイティメディア代表取締役会長として同社をマザーズ上場に導く。2013年4月から現職。業務と並行してデジタルメディアの将来像設計を主題に執筆・講演活動中。