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厄介と愛想を尽かすのはまだ早い

政治の本当の意味と魅力を知ろう

苅部直 東京大学法学部教授(日本政治思想史)

 政治に愛想を尽かすなって? 余計なお説教はやめてくれよ。そもそも政治なんて、七面倒くさいドタバタ劇をお偉方が勝手に演じているだけ。そんなものとはなるべく関わらない方が、幸せなんじゃないのかい。そう思う人は、きっといるだろう。

 反対にこんな人もいる。毎週、首相官邸の前へデモに行き、政府に対する怒りの声をツイッターで毎日、発信しているオレ。忙しいけどこれだけはやってるんだよ。愛想を尽かしてるなんて、一体だれの話なんだ。この「ジャーナリズム」の読者には、意識の高い人が多いだろうから、後者の占める割合が高いかもしれない。

 しかし、あえて乱暴に言おう。この対照的な両者はどちらも、「政治」という営みのもつ本当の意味と魅力をわかっていない。後者の人も、実際に経験しているのは「政治」そのものではなく、「運動」だろう。一地方・一国・一地域・世界全体など、それぞれの領域に応じて、全体のあり方を構想し、その実現に向けて他者と交渉しながら権力を行使する。そうした意味での「政治」そのものについて理解していない点では、どちらの人も同じである。

 このように書くと、まじめな読者からは、「では、『政治』がわかるようになるためには、政治学を勉強しないといけないのでしょうか」と質問がくるかもしれない。職業的な政治学者である当方としては、「その通りです」と答えて、政治学を全国民の必修科目にしたいという利害関心がうごめき出すところであるが、そのように言い切れないところが、「政治」の厄介な特色なのである。

学問としての政治学と「政治」との違い

 学問としての政治学については、近年、川出良枝・谷口将紀編『政治学』(東京大学出版会)、久米郁男ほか『New Liberal Arts Selection 政治学(補訂版)』(有斐閣)、杉田敦・川崎修編著『西洋政治思想資料集』(法政大学出版局)、河野有理編『近代日本政治思想史』(ナカニシヤ出版)といった、すぐれた概説書・入門書がいくつも刊行されている。こうした本は文献案内も充実しているから、政治思想や政治史、地方自治や国際政治など、政治学のそれぞれの分野で自分の関心のあるところを選んで、さらにさまざまな読書に進む手がかりにもなるだろう。

 手前味噌ながら紹介すれば、拙著の『ヒューマニティーズ 政治学』(岩波書店)、宇野重規さん・中本義彦さんとともに編集した『政治学をつかむ』(有斐閣)という本もある。前者は大学に入る前の人、後者は大学の一般教養課程で政治学を学んでいる人を対象にして作ったもの。先に挙げた数冊の本を読む前に、ごらんになるのも役立つかもしれない。

 だが、経済学を学べば有能な経営者になれるとか、日本文学で優秀な博士論文を書いた人がすぐれた小説家になれるとかいうことは、必ずしも起こらない。それと同様に、「政治」をめぐるさまざまな思想や事実について、学問上の知識を得ることが、実践としての「政治」に関する深い洞察を、その人にもたらすとは限らないのである。それはまた、何度も熱心にデモに参加する経験を積めば、おのずと身についてくるものでもない。

人間には欠かせない自由と政治の結びつき

 とらえるのに厄介であるが、しかし人間の生存にとって不可欠である「政治」。その性質について、政治学者、永井陽之助はこう説明

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