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大切だけど、お金がかかる子育て支援

夢をつむぐため、政治がすべきことは

駒崎弘樹 認定NPO法人フローレンス代表理事

 子育てと仕事を両立できる社会をつくりたいと考え、2004年、NPO法人フローレンスを設立して10年以上がたちました。日本初の「共済型・訪問型」の病児保育サービスを首都圏ではじめたのを皮切りに、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートするため、さまざまな活動に取り組んできました。

 空き住宅を使った小規模認可保育所の「おうち保育園」。医療的ケアの必要な子どもたちを長時間受け入れるための「障害児保育園ヘレン」開園や「障害児訪問保育アニー」の開始。ひとり親家庭に安価で病児保育を提供するための寄付会員(サポート隊員)制度……。幾つも先進的な取り組みに挑戦し、それなりの成果をあげてきたと自負しています。

 十余年の事業展開を振り返って思うのは、子どもや親子にかかわる課題は、それこそ無数にあるということ。そして、少子高齢化が進み、格差の拡大が目立つ近年、そうした課題が一気に顕在化し、社会で認知されてきたという事実です。

 そんななか、昨年秋に自民党総裁に再選された安倍晋三首相が、「アベノミクスの第2ステージ」として提唱した「新3本の矢」のど真ん中に、「夢をつむぐ子育て支援」を据えたことは、素直に評価しています。このようにアジェンダとしてあげないと、政策にまとめるインセンティブはでてこないですから。

 もちろん、手放しで評価しているわけではありません。ほんとうに夢をつむげる子育て支援になるかどうかは、まだ分かりません。国論を二分した安全保障法制の審議の過程で削られたポリティカルアセット(政治的資産)を取り戻すため、誰も反対しない子育て支援や社会保障の充実を掲げてみせたものの、安倍首相には実際には取り組む気はなく、やる「フリ」をするだけではないかという危惧は残ります。

 安倍政権は「本気」なのか、「フリ」に過ぎないのか。「本気」にさせるために、なにかできることはあるか。そもそも政治には子育て支援でなにを期待しているのか。「1億総活躍社会」に向けた施策が動き出す2016年の冒頭にあたり、現場の体験を踏まえつつ、考えてみたいと思います。

安すぎる保育士の給与 資格をとっても働かず

 子育て支援にとって決定的に重要なのは財源です。裏を返せば、安倍政権が本気かどうかのメルクマールは、お金をどこまで用意できるかです。

 少子化を克服したといわれる海外の国々、たとえばフランスやスウェーデンなどと日本との大きな違いは、子育てにかける予算額です。対GDP(国内総生産)比でみると、日本の場合、せいぜい約1%。約3%のフランスの3分の1しかありません。

 昨年4月、政府は「子ども・子育て支援新制度」をスタートさせました。当初、1兆1千億円の財源が必要だと言われましたが、用意されているのは7千億円の枠だけ。4千億円が欠落したままです。しかも、この4千億円を付加したところで、子ども関連の予算はGDP比1%ちょっと。国際的にみて、全然足りません。そんな現状で「希望出生率1・8」なんて、ちゃんちゃらおかしい話です。

 現実問題として、子育て支援にはそれなりのお金がかかります。安倍政権は「待機児童ゼロ」を目指し、保育の受け皿を「40万人」分整備する現行計画を、「50万人」に増やすとしています。その際の最大のネックは保育士不足です。なぜ不足しているかというと、処遇があまりにひどいからです。

 具体的に言うと、保育士の給与は全国平均で月20・7万円です。業界では比較的賃金が高い公立保育所の公務員保育士を含めてもこの程度にしかなりません。全産業の月給の平均値より10万円も低い。低賃金といわれている介護福祉士よりも低いのです。

 そのため、がんばって保育士の資格をとっても、別の仕事に就いて保育士として働かない、いわゆる「潜在保育士」が多数、生じています。彼らがちゃんと保育士として働けば、保育士不足は解消されます。問題の所在は明白なのです。

 戦後、日本では教師が足りない時代がありました。そこで、政府は賃金などの処遇を改善して、教師の数を増やしました。保育士の拡大についても、最も有効な対策が給与の引き上げであることは明らかです。

 政府によると、保育士の月給を1万円上げるとすれば、約340億円の財源がいります。とすれば、全産業の平均まで上げるにはその10倍の3400億円の財源をひねり出す必要がある。税収の上ぶれ分を充てる▽失業率低下に伴う雇用保険の剰余分を転用する▽高齢者に配分されているお金を削減する―などで、それだけの財源を調達しなければなりません。でなければ、2017年度末には保育士が7万人足りなくなる。保育所は増やせず、待機児童ゼロは達成不能です。

 安倍政権が、子育て支援や子どもの貧困を、イシューとして認知した点は評価に値します。だからこそ、あと一歩踏み出し、先立つもの、つまり財源を用意してよ、と言いたいのです。

 残念ながら、安倍政権はこれまで、子育て支援に存分にお金を回してきたとはいえません。子どもの貧困対策には、日本各地でNPOが立ち上げた「子ども未来基金」のようなものに頼り、寄付で対応しようとしていますが、「おいおいそこは寄付じゃないだろう。きちんと税金を使ってやるべきだろう」と思うのです。なにしろ、継続的にお金が出ていくわけですから。

6割負担でも構わない金持ちの高齢者の風邪

 とはいえ、現下の苦しい国家財政のなかで、財源をひねり出すのは難題です。ただ、確実に言えるのは、これまで高齢者に配分されてきたお金を削り、子どものために使う。すなわち、将来を見据えて社会保障に手を突っ込むことは、もはや避けられないということです。

 たとえば年金です。1億円以上の資産を持つ高齢者に満額の年金はいるでしょうか? いくらかを子どものために使ったほうが、お金の使い道としては有効だと僕は思います。財産権の関係で年金を減らすのは無理でも、富裕層の年金に課税することはできるはずです。受給年齢の遅くするのもアリでしょう。

 社会保障は倫理的に踏み込みづらい分野なのは確かです。ただ、高齢者を中心とした医療・介護費が多くを占め、年間の自然増が1兆円ともいわれる社会保障費に切り込まずに、子育て支援を充実しようとすれば、単純に増税するしかない。その結果、景気が冷え込むという負のスパイラルに入ってしまいます。

 僕は増税を否定しているわけではありません。逆進性がある消費税増税は最後の手段にするとして、まずは所得税の累進度を大きくしたり、税の捕捉率を上げたりして、課税ベースを広げるという方法はありうると思います。ただ、その一方で、社会保障改革からも逃げてはいけないのです。

 所得の少ない人たちの医療を圧迫してはいけませんが、お金持ちの風邪まで3割負担でいいのか。所得に応じて医療の負担分を変え、お金持ちは6割負担でも構わないのではないでしょうか。

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筆者

駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス代表理事)

駒崎弘樹(認定NPO法人フローレンス代表理事)(こまざき・ひろき) 認定NPO法人フローレンス代表理事

1979年生まれ。慶応大学卒業後、病児保育サービスを提供するNPO法人フローレンスを設立。以来、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートする事業を次々と展開する。政府や自治体の審議会委員やアドバイザーとしても活躍。現在、厚労省の「イクメンプロジェクト」座長。著書に『働き方革命』(ちくま新書)など。1男1女の父で、誕生時には2カ月の育児休暇を取得。