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社会保障は野党がリードできるテーマ

負担とサービス分かち合う社会めざす

山尾志桜里 民進党衆院議員・前政調会長

 居場所のない子どもが人の命を奪う。定職のない若者が「オレオレ詐欺」に手を染める。ホームレスの高齢者が強盗にあって落命する。自己責任の世界に翻弄され、生活がすさんで転落したり、いわれのない被害にあったりしている。それでいいのでしょうか?

 実際、自己責任を背負える人間というのはそうはいません。そして、自己責任のツケは必ず社会に回ってきます。しかも最初にそれが回ってくるのは弱者なんです。社会の課題を自己責任という形で放置しておいたツケが、為政者など放置した当人に回るならまだしも、現実にはそうではない。

 いまの時代に求められているのは、自分一人ですべて背負う「自己責任」では断じてない。負担もサービスもみんなで分かち合い、より良い社会をつくっていくことではないか。そんな気がします。

 「日本死ね」ブログを契機に、これまで自己責任を強いられながら、声を上げることもなく、我慢をしてきたお母さんたちが、動き出しました。

山尾 子育てのしやすい社会を求め、女性たちがそれぞれできることを分担し、つながりました。ネットで署名したり、プラカードをデザインしたり、ベビーカーを押して国会までデモに来たり、です。

 残念なのは、そうした動きにプロがイデオロギー的なレッテルを張ることです。声をあげている人は切実な正義感からの人が少なくない。政治家にはそうした声を純粋に聞く、耳を傾ける姿勢が求められると思うのですが。

 冒頭で触れましたが、お母さんたちは待機児童問題の窮状を訴えようと、超党派の国会議員を対象にした集会も開きました。厚労委員会で培った人脈を使い、私は他の政党の議員に非公式に参加を呼びかけました。もともと社会保障問題をやろうという議員が集まっているはずなのに、与党は公明党の議員が一人お見えになりましたが、自民党の議員は結局、誰も来ませんでした。

仕事は「朝型」でこなし週2回、保育園にお迎え

 山尾さんご自身も5歳児のママですね。仕事と子育てのはざまで悩むことはないですか。

山尾 そうですね……。率直に言って仕事柄、子どもといる時間を取りにくいというのが、一番の悩みですかね。それでも、認可ではないですが幸い保育園には入れられたので、週に2回は迎えに行くことにしています。夜の日程は1週間前までに決めるとか、仕事は「朝型」でこなすとかすれば、なんとかなるものです。子育て中の男性も参考になると思います。

 また、自分が政治の世界で不十分ながらも取り組んでいる政策課題は、回り回って必ず自分の子どものためにもなるという確信も、心の支えになっているかもしれません。

 なるほど。子どもに自分の仕事を話すことはあるのですか。

山尾 まだ小さいのですが、テレビを見て、多少は政治家というものが分かってきているし、私が家にあまりいなくて寂しさを感じることもあると思うので、時々仕事の話をします。「あなたは毎日、保育園に行けて楽しいでしょう。でも、行きたくても行けない子どももいるんだ。ママは、そういう子どもたちにも、同じように楽しい思いをしてほしいんだ。そんな仕事をしているんだ」といったことは、折に触れて結構しゃべりますね。

 世の中のお母さんと同じように、悩みを抱える政治家として、これからどう政治に取り組みますか。とりわけ子ども・子育て支援についてはどうですか。

「掛け声」倒れを見抜くメディアの報道に期待

山尾 野党としては、与党の後追いでもないし、与党の逆張りでもない。機先を制して、自分たちのほうから新しい社会像を提示して、ついてくるならついてきて、という位の気概が必要だと思います。

 子ども・子育て支援について言えば、きちんと財源を振り向け、投資をすることで、1年後の経済というより、10年後の日本社会の持続可能性を高めていくという方向を打ち出すべきでしょう。

 言い方を変えれば、「社会保障と税の一体改革」のセカンドシーズンを示すということではないでしょうか。一体改革では子育てが初めて社会保障の一隅を占め、そこに増税という選択肢が示されました。あまり評価されていないけれど、間違いなくひとつ段階を上がったと思います。とすれば、今度は次の段階にいかないといけない。消費税の配分の割合を変えるのも、その一環ですね。

 そのときの目標は、就学前教育から高等教育までの無償化です。財源問題からも逃げず、そこに向かっていきたい。 そのとき、与党はついてこられますか。私の見る限り、安倍政権はついてこられないと思います。

 子育て支援もそうですが、社会保障は息の長い取り組みが必要です。メディアはどう報道すればいいと思いますか。

山尾 それぞれの政党や政治家の社会保障政策が、「がんばります」という掛け声だけで終わってはいないか。現実的な財源を見据えた具体像を描けているのか。そんな視点を持ち、目先の動きだけにとらわれない、丁寧な報道をしていただくとうれしいですね。政治家にも励みになります。(聞き手・吉田貴文)

注 「保育園落ちた日本死ね!!!」というタイトルの匿名のブログが投稿されたのは2月15日。「何なんだよ日本。一億総活躍社会じゃねーのかよ。昨日見事に保育園落ちたわ。どうすんだよ私活躍出来ねーじゃねーか。子供を産んで子育てして社会に出て働いて税金納めてやるって言ってるのに日本は何が不満なんだ? 何が少子化だよクソ」「(議員が)不倫してもいいし賄賂受け取るのもどうでもいいから保育園増やせよ。オリンピックで何百億円無駄に使ってんだよ。エンブレムとかどうでもいいから保育園作れよ」などと、入園の選考にもれた怒りが赤裸々な言葉で書かれていた。これを受け、SNSなどでも議論が広がった。

                                  ◇

※本論考は朝日新聞の専門誌『Journalism』10月号から収録しています。同号の特集は「どうなっちゃうの? 社会保障」です。

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