デジタル、新技術に挑んでこそジャーナリズムの価値が高まる
2017年02月22日
スマートフォンとソーシャルメディアが急速に普及し、メディアをめぐる環境は大きく変化しています。新聞、テレビ、出版といった従来型メディアは、こうした時代にどう向き合うのか、そうした変化の中、どのようなジャーナリズムを追求していくのか。メディアの中で、デジタルや新技術の戦略を担い、また新分野で成長を模索するみなさんにお集まりいただき、メディアのいまと未来を語り合っていただきました。
山腰 2016年は、トランプ現象に見られるようなポピュリズムとニュースの信頼性がリンクする形で、改めてメディアの存在が問われた年でした。ソーシャルメディアの普及で、メディアやジャーナリズムを取り巻く世界が大きく変化していく中で、各社がどんな取り組みをされているかうかがいたいと思います。まず、講談社の瀬尾さんにうかがいます。雑誌、書籍、新聞など印刷メディアは営業的には下降線をたどっていますが、印刷メディアの現状をどうお考えですか。
山腰 講談社は2015年春に大胆な社内改革を断行されたと聞いていますが、その狙いと今後の戦略は。
瀬尾 70年ぶりに大きな改革をしました。それまであった「編集局」という名前を外し、「事業局」に変えました。編集、販売、広告の三つに分かれていた機能をばらして、コンテンツ中心に再編しました。私のいる第一事業局はニュース系あるいはノンフィクション系です。雑誌では「週刊現代」「フライデー」、書籍ではノンフィクションや学術書など、そして「現代ビジネス」「クーリエ・ジャポン」のようなデジタルニュース媒体です。第二事業局は女性誌や生活書などです。それぞれに、販売、広告の機能を付け、コンテンツをいかに広めビジネスにするか、速やかに判断できる体制にしようという狙いです。書籍や雑誌はまだまだ売れる分野で、新しいライターや作家を発掘する役割が社会から求められていると思っています。
一方、新しいフロンティアはグローバルとデジタルです。これは表裏一体でデジタル化によって海外での販路は広がります。16年には米国アマゾンのコミックランキングで『進撃の巨人』が1位から20位をほぼ独占したこともあります。17年春には『攻殻機動隊』がハリウッドで実写映画化され、これも話題になるでしょう。デジタル化で海外でもかなりマーケットが広がりました。
山腰 お話に出た「現代ビジネス」は瀬尾さんが責任者となって2010年1月に創刊されました。現状は。
瀬尾 「現代ビジネス」を立ち上げた7年前は、朝日新聞の「論座」、講談社の「月刊現代」がすでに休刊になるなど、総合誌の休刊が相次ぐ時代でした。総合誌は、人を発掘して世に出したり、新しい問題点を発掘したりという雑誌の役割の象徴的存在でしたが、ビジネス的に難しくなっていました。この役割をなくしていいのかといろいろ画策しました。最初は紙メディアを含めて検討したのですが、ちゃんと原稿料を払い、読者に届け、しかも採算性がなければいけない。一番可能性があるデジタルを選びました。
「現代ビジネス」は一部課金していますが、事実上、無料で見られる広告モデルで、収益も9割ぐらいは広告です。アーカイブを見るには、お金を払ってくださいとお願いしています。理想を言えば、広告と有料課金収入が半々ぐらいになればいいが、まだそこには至っていません。
山腰 日本経済新聞は新聞社の中で先頭を切って電子版をスタートされました。日経電子版の状況はいかがですか。
山腰 朝日新聞にはメディアラボという部署がありますが、できた経緯とその狙いは。
新聞業のビジネスモデルは、コンテンツの制作、発行、配達までを通して押さえるところが一番の強みだったと思いますが、それが立ち行かなくなっていることは明らかです。朝日新聞は売り上げの85%を新聞業に頼っています。その「モノカルチャー」を転換するため、新しい「作物」を育てようというのが、メディアラボができた理由です。当時、一番鮮烈に言われたのが、「朝日新聞のDNAを断ち切る」という言葉でした。
メディアラボが最初に取り組んだのが、社内の新規事業コンテスト「START UP!(スタートアップ)」の実施でした。夏までに社員から提案を募り、書類選考による1次審査を通過した10件が専門家の指導のもとブラッシュアップして1月の2次審査に進みます。そして優秀提案に選ばれた提案者がメディアラボに異動する仕組みです。最近は若手の提案が目立ち、部門横断チームを作って提案する動きもあり、頼もしく思っています。
山腰 収益への貢献は。
堀江 人件費を除くと黒字が見えてきた事業もあるといったところです。収益ベースではまだまだ貢献していないと思っております。
山腰 テレビ朝日はスポーツやドラマなどが好調だと思いますが、現状はいかがでしょうか。
山腰 テレビ朝日は2014年7月にコンテンツビジネス局と事業局が統合して、愛宕さんのおられる総合ビジネス局が発足したとうかがっています。総合ビジネス局の組織と役割はどのようなことでしょうか。
愛宕 テレビの収入の基本はコマーシャル収入です。これは営業局が担います。それ以外の収入では、書籍やDVDを作ったり、番組を海外に売ったり、イベントを行ったり、さらに今一番活況なインターネットでの動画配信もあります。総合編成局が担当する映画事業を除き、ビジネスを全般的にやっているのが総合ビジネス局です。いろいろな部署が、総合ビジネス局という形で一緒になったことは非常によかったと思っています。例えば、イベントがあると会場での物販が収入の大きな要素になるので、同じ局であれば、よい連携がとれます。
山腰 NHKはビジネスからは少し離れたところで、新しい技術の活用などを模索されていると思います。
もう一つ、力を入れているのは、4K、8Kという高精細の映像です。今まで4K、8Kが紅葉や海を美しく見せることができるのは分かっていました。それが最近、ニュース番組でも、たとえば、沖縄のサンゴの白化の問題を取材した場合に普通の2Kカメラで撮ると全体的に白く映ってすべて死滅しているように見えるのですが、4Kで撮るとサンゴの一部の触手が動いていて、専門家が見るとそれはまだ再生する可能性があるというような「新たな真実」を映し出せることが分かってきた。
50年以上前の東京オリンピックと同様に、2020年の東京オリンピック・パラリンピックが、メディアの大変革期になるのではないかと感じています。
山腰 公共メディアとして災害報道が重要な柱だと思います。どのようなことに取り組まれていますか。
中嶋 2011年の東日本大震災を教訓に、災害報道(「減災報道」と呼んでいますが)を見直しており、津波の伝え方とか画面の表記とかを改善しています。
「ソーシャルリスニングチーム」というチームを作っていて、100人ぐらいが交代で一日中デジタルの情報を見続け、物事の発生とかネット上の様々な動きをつかみ取って、速報につなげていくことをやっています。そこで得た情報が実際の出稿に結びついたケースはものすごく多いですね。
昨年6月にニュース・防災アプリというのをリリースしました。NHKのニュースや防災に関する情報が入っていて、いつでもどこでも見られます。もう一つ、新しい取り組みとして、これまで災害が起きた時、マスに向かって情報を出してきましたが、最近は、「自分にとって」とか「地域にとって」の情報を求める動きが出てきた。これからはパーソナライズされた情報をいかに出していくかも新たな課題です。
山腰 朝日新聞のメディアラボは、新たな技術への取り組みをされていますか。
堀江 AR(拡張現実)では、紙面にスマホをかざすと動画や音声などデジタルコンテンツを楽しめるアプリ「朝日コネクト」を開発し、日曜別刷り「GLOBE(グローブ)」などで活用しています。VR(仮想現実)と自然言語処理の取り組みも進めています。
自然言語処理については、
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