がちゆん社長 国仲瞬さん インタビュー
2017年08月24日
沖縄をめぐる過去と現在の認識、そしてあるべき将来への道筋について様々な議論が交わされるなか、沖縄県中城村(なかぐすくそん)にある「株式会社がちゆん」の取り組みが注目を集めている。修学旅行で沖縄を訪れる生徒を対象に、沖縄戦や基地問題などについての対話の場を提供し、平和学習プログラムを企画・運営する企業だ。琉球大学の学生らが起業した組織で、「がち(本気)」で「ゆんたく(対話、沖縄の方言で『おしゃべり』)」するのが、社名の由来。同社の代表取締役社長兼CEO・国仲瞬さん(24)に、がちゆんの取り組みと沖縄問題についての認識、将来への展望などを聞いた。
—「がちゆん」は学生時代に起業されました。修学旅行生を対象にした企業活動はどのように始まりましたか。
国仲 2013年に琉球大で実現型ディスカッションサークル「がちゆん」を作ったのが始まりです。若者が真剣な課題について思考・ディスカッションする場があまりにもなかったので、本気で議論する場が必要だと感じて始めました。専攻が教育学部の国語教育だったこともあって、話す・聞くといった対話に関心がありました。また、ただ単に議論をしておしまいにするだけではなくて、それを行動に起こすことを目標にやっていました。その時点では、特に平和教育ということは考えていませんでした。
—では、現在のような平和教育を中心としたスタイルになる転機はどこにあったのでしょう。
国仲 そのサークルのメンバーと平和の礎(いしじ)にたまたま行ったとき、行き会った修学旅行生が「あの崖は戦争を諦めたやつが死んでいった所だろう」と言うのを聞いたんです。男の子3人組で、周りに大声で言っていた。びっくりしすぎて声をかけられませんでした。ディスカッションの活動をしていたので、あの子にちゃんと話してあげればよかった、沖縄のためにもあのような子と向き合わないといけないなと思うようになったんです。
そのうち、たまたま埼玉県の学校から連絡が来ました。沖縄で同世代の若者とディスカッションさせたいという熱い先生がいたんですが、どこに聞いても320人もの修学旅行生を受け入れられるところがなかった。めぐりめぐって、サークルを立ち上げて半年ぐらいの僕のところに連絡が来た。僕らとしてもぜひ、やりたいことだったので引き受けました。
あいにくの暴風雨のせいで、集めた学生80人全部は行けませんでしたが、なんとか15人で320人を相手にディスカッションしました。荒業だったんですが、それがすごく楽しかった。生徒さんたちも一緒に真剣に考えてくれました。「ああ、これは本当にやりたい、続けたい」と。そこから修学旅行生との対話による平和学習がスタートしました。
ただ、僕自身はサークルの立ち上げ前から個人として「語りつぎ部(べ)」という活動をしていて、自分のおじいちゃんの戦争体験をどうやって小学生とかに伝えていくかといったことを、自分の活動としてやっていました。それががちゆんに重なっていったところはあります。
—サークル活動がNPOになったりする例は耳にすることがあります。なぜ、あえて株式会社にしたのですか。
国仲 修学旅行が1年先とか2年先の希望で入ってくるんです。来年のこの時期このプログラムでとか、この子たちの後輩にもお願いしますね、と。でも、学生団体が続かない姿を見てきて、このままではまずいと思いました。最初のコアメンバーは卒業や就職で抜けていく。来年また沖縄に来てくださいねと僕らが言っても、その時に果たしてこのサークルあるのか、と。自分自身、そんな責任持ってやっていなかった。でも活動は絶対沖縄のためになる。それに、僕らがさじを投げたら沖縄の若者で誰がやるんだろうか、とも思った。それで、100年先もこのプログラムをきちんと沖縄に残すという思いも込めて株式会社にしました。
—企業にすることのメリットを教えてください。ボランティア団体ではできないのは、どういったことでしょう。
国仲 非営利だと聞こえはいいんですけど、継続は難しいし、質も上がりにくい。「NPOだったら応援したのに。平和を金もうけの道具にするの」とも言われましたが、収益を上げて、人材育成にお金を使ったり、沖縄戦や基地にかかわる若手研究者への助成に使ったりしたかった。研究分野によっては、その時の政権の政策や政治情勢の影響で、公的なお金は切られてしまうことがあります。
また、経済的に自立した集団でもありたかった。補助金使わない、助成金要らない、借り入れもしない。沖縄にかかわることは沖縄で雇用を作って続けたかったし、基地経済に依存しない沖縄の経済的自立にも貢献したかったんです。
—がちゆんのこれまでの、実績と規模はどれくらいですか。
国仲 昨年度に受け入れた修学旅行生は100校ほどで1校につき約150人。スタートからは累計で3万人くらいです。社員は自分を入れて7人で、大学生スタッフが200人ほどいます。学生スタッフは面談や研修などをして教育現場に出せる質を保つようにしています。学生との学び合いががちゆんの平和学習の軸なので、学生スタッフの育成には時間もお金もかけています。
県内の高校でも授業を持たせていただいているので、高校時代から社会課題などを考えられるような人材育成をして、そのままうちのスタッフになってもらえるような循環を目指しています。
—学生スタッフは今でも琉球大学が中心ですか。また、沖縄出身と県外出身者の比率はどれくらいでしょう。
国仲 沖縄全土の大学から集まっています。琉球大はもちろんですが、北部の名桜大から沖縄女子短大、沖縄キリスト教学院大学まで。出身地域では、県内と県外が半々くらい。県外出身の学生は、わざわざ沖縄の大学を選んでくれたくらいですから、沖縄のことを学ぶ意欲がある。それに対して、県内出身者は生まれた時から基地があって、ある意味それが当たり前。だから、「生まれたときからあるので、基地とかいっても別に普通だけど」といったスタンスの子たちが「やっぱりちょっと考えないと……」というようになる。感性が違っていて、お互いに影響して学び合っていくことができるんです。僕らのプログラムを高校時代の修学旅行で受けて琉球大に進学してくれた子もいます。それも成果の一つかと思います。
修学旅行生を受け入れるときも、大学生はローテーションさせることが基本です。1人の大学生があるグループにつきっきりになるのではなく、4ローテくらいします。1グループにつき4人ほどの大学生にかかわってもらうんですけど、その時もできるだけ県内出身者と県外出身者の大学生が交ざるようにしています。
—修学旅行生たちと「ゆんたく」する魅力はなんですか。また、その具体的な手応えを教えてください。
国仲 沖縄に関心があるなしにかかわらず生徒が(こちらからしたら)「勝手に」来てくれるので、全体に向けて「強制的に」できるところです。「僕らは一番理想的な集客装置みたいなのを持っているな」と言いあっています(笑)。興味ある子だけにやっても意味はない。
手応えは、まず第一には学校の先生方の評価ですね。基本的にほとんどの学校がリピートしてくれています。毎年来てくれている学校もありますし、修学旅行全体のプロデュースまで相談してくれる学校もあります。僕自身が沖縄県の修学旅行アドバイザーでもあるので、呼んでもらって講演をすることもあります。
生徒さんに対する手応えは、平和学習をやってこれまで一人も寝てないこと。サークル時代を含めてです。会社のホームページに感想を書き込んでくれる子もいますし、文化祭で保護者に向けて「がちゆん会」みたいなのを開いたという例も聞きました。少なくとも僕らが実現型ディスカッションと言っている理念がちょっとずつ広がってきている実感はあります。ただし、感想文は一切指標にしてません。
—なぜ感想文は信用できないのですか。学びの言語化は必要では?
国仲 体験や議論をしていろいろ複雑なことを感じ取ってくれたかもしれないのに、無理やり言語化してしまうところが感想文にはあります。17歳くらいの語彙力と言語化能力では難しいと思います。僕らも含めて、平和学習の感想文テンプレートは誰でも持っている「やっぱり平和は大事だと思いました」「戦争は悲惨なことで繰り返してはいけないと思いました」……。正直にそう思ってくれるのは立派だと思うんですけど、それよりも、どれくらい「いいモヤモヤ」を持ち帰ってもらうかに、重点を置いています。簡単にわかったつもりになってスッキリしてほしくはないんです。
がちゆんで平和学習して、「正直、よくわからない。揺り動かされた何かはあるんだけども、それは今はまだ言葉にできない。ちょっと待ってください」と言ってもらえるほうが、ずっとうれしい。参加者に複雑な表情が表れている時があって、見ればわかります。その「いいモヤモヤ」を、これから生きていくなかで、さらに経験を積み重ねながら言葉にしていってほしい。
—言葉にする前に、まず自分で感じて考えることが大切ということですか。
国仲 はい。ただし、それでは定量的な数値評価ができないので、平和学習の専門家の先生方に頼んで、客観的に数値化してもらえるよう取り組んでいるところです。ある種のイデオロギーに向けていくための結論を持った研究ではなく、教育学の一環として。
—平和学習といってもさまざまです。具体的な工夫を教えてください。
国仲 教材作りにこだわっています。自然と夢中になるディスカッションや、現在の沖縄の状況は何なのかという問いからスタートする平和教育を目指しています。世界のいろいろな課題をカードにして、
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