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アクターの連携が生んだ「市民立法」

候補者男女均等法への歩みとこの先

三浦まり 上智大学法学部教授

 「政治分野における女性の参画と活躍を推進する議員連盟」は2015年2月26日に、中川正春会長、野田聖子幹事長、行田邦子事務局長の体制の下、超党派で17人が役員となり発足する(3月末に会員数は45人)。法案の中身を検討するワーキングチーム(WT)には中川正春、行田邦子、福島みずほ、石橋通宏、宮川典子、重徳和彦、中野洋昌が就き、私もWTのアドバイザーとなり、4月から本格的な議論を開始した。

 クオータ制は選挙制度との組み合わせによって様々に設計ができ、その実効性も設計次第で変わる。諸外国の例を参考にしながら、日本にあったものを絞り込んでいく段階で重要なのは、クオータ制の設計に関するアイデアと実現可能性である。アイデアを提供するのは研究者の役割であり、実現可能性に関しては法的な可能性を衆議院法制局が、政治的な可能性をWTメンバーが検討した。

 中川会長の方針は、現行の選挙制度を前提にクオータを導入するというものであった。したがって、専門家として私に課せられた課題は、衆議院の小選挙区比例代表並立制を前提に、実現可能で実効性の高いクオータ制を提案せよというものであった。

 クオータを設計する際の障壁のひとつは憲法である。強制的なクオータを導入し、政党の候補者選定に対して縛りをかけることは、結社の自由、立候補の自由、差別禁止に抵触するかどうかが論点となる。違憲の可能性があるかもしれない法案を議員立法として提出することは相当に難しいため、クオータを合憲とする憲法学者による学術論文が応援団として必要だ。当時の学界状況ではそのような論文はなかったため、基本理念を定めることと、クオータ制を実施したい政党にはそれを可能とする仕組みを整えることが模索された。

 すでに世界から何周も遅れている日本がこれから作る法案は、女性枠を設けるという時代遅れのものではなく、男女双方に対して数値を定めるべきであり、つまりは最新の世界潮流を取り込み、パリテ(男女均等、同数)の理念を体現すべきだというのがWTの方向性であった。パリテの理念を具現化する制度としては、比例代表の男女(女男)交互名簿があり、それをどのように法制化できるのかの議論を続けたのである。そして、理念に関しては理念法を制定し、公職選挙法改正とあわせて提出することを目指した。

 今回成立した「政治分野における男女共同参画推進法」はこの理念法であり、2015年の夏にその骨格はできていた。基本原則として政党は候補者擁立の際に男女同数を目指すことを明記した点が画期的である。男女同数という文言がその後問題になるとはこの時点では想像だにせず、議論の中心は公職選挙法改正にあった。成立後にメディアからの取材で、女性議員を増やす意義について、当時の議連ではどのような議論があったのかを聞かれたことがあるが、すでにそうした意義を感じている国会議員が議連に参加していることもあり、私の記憶ではそうした議論はなかったように思う。むしろ、具体的な制度設計について、細かい議論を行っており、専門家としての私の役割もそこにあった(注4)。

「クオータ」から「パリテ」へ

 理念法の制定に関しては、議連役員会での承認を経て、舞台は各党内の合意形成へと移った。2016年の通常国会前半には野党は法案提出の準備を整えたが、与党の動きは慎重であった。自民党内の合意形成は野田聖子と宮川典子が尽力し、とりわけ宮川は「汗と涙」の根回しを精力的に展開した。自民党内でも意見は分かれ、クオータに賛成する男性議員もいれば、強硬に反対する女性議員もいる。全体として女性議員を増やすことに正面から反対する議論はなかったように思うが、手段としてのクオータに対しては、理解が深まっているという状況ではなかった。

 与党内の議論、あるいは社会全体の理解を得るために、クオータからパリテへと言説が転換したことが奏功したのではないかと思う。

 クオータとパリテは何が違うのか。私自身の説明は、クオータは手段、パリテは原則、というものである。クオータは男女平等という目標を実現するための手段であり、手段である以上、手段としての合理性が問われ、また目標が達せられたら速やかに廃止されてしかるべきである。積極的是正措置(ポジティブ・アクション)、あるいは暫定的特別措置としてクオータを捉えれば、そうなる。他方、パリテは民主主義の原則であり、人口が男女半々で構成されている以上、意思決定は男女半々で担うことが民主主義であるという考え方である。実際に制度設計をすれば、パリテは50%のクオータと変わりはないが、よって立つ思想基盤は異なる。手段としてのクオータに違和感を覚える人も、人口が男女半々と言われてしまうと、パリテの原則に反論することは難しい(注5)。

 クオータはすでに130カ国で導入されているとはいえ、どの国も導入過程では論争となり、時には改憲を経て導入に至っている。クオータがどのような理論で正当化できるかには莫大(ばくだい)な研究蓄積があり、そしてどのように社会が受け入れるかも国によって異なる。日本ではクオータに関する議論の蓄積が、学界でも社会でもあまりない。パリテの基本原則の下に、政党に自主的にクオータの実施を求めるという理念法の建てつけは、クオータに賛成する政党も反対する政党も合意できるものであった。最終的に理念法が成立できたのも、パリテを理念としたからであろう。

 クオータの社会的受容に関しては私自身が研究テーマとしており、

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筆者

三浦まり

三浦まり(みうら・まり) 上智大学法学部教授

1967年生まれ。慶應義塾大学、カリフォルニア大学バークレー校大学院修了。政治学博士。専門はジェンダーと政治、福祉国家論。一般社団法人パリテ・アカデミー共同代表。著書に『私たちの声を議会へ:代表制民主主義の再生』(岩波書店)、『日本の女性議員:どうすれば増えるのか』(朝日選書)など。