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社会を切り取り、解釈する前に

自分の「正しさ」、疑う胆力を

初沢亜利 写真家

「全否定される国」へ

地方からの見学者たち。平壌市内。写真集『隣人、それから。38度線の北』から拡大地方からの見学者たち。平壌市内。写真集『隣人、それから。38度線の北』から
 バグダッドで私が見たものは独裁国家がアメリカの一方的な攻撃を受け滅びる姿だった。日本のすぐ隣にある北朝鮮のことが気にならないわけがなかった。

 拉致問題と核・ミサイル問題で日本政府、メディア、国民から全否定されているこの国を自分の目で見たい、という欲求が膨らんでいった。イラク渡航は成り行きだったが、北朝鮮については様々な本も読み、一定の考察を経て、2009年に朝鮮総連中央本部に企画書を提出することから始まった。

 その後7回訪朝し、今年2冊目の写真集を出版するほどまで執着することは予測しなかったが。

 2010年に初訪朝し、11年から撮影を開始する予定だったが、そのさなかに東日本大震災が起きてしまった。

 宮城県名取市に入ったのは翌日だった。どの写真家や映像作家よりも早かっただろう。フリーランスは上司に行け、と命じられることはない。従って自分がそこに行く意味があるのかを決断しなければならない。何を撮りどう伝えるかを考える以前にまずは行くことを選んだ。

「桜に希望」、よそ者の感覚

2011年4月末に咲いた気仙沼の桜。写真集『True Feelings』から拡大2011年4月末に咲いた気仙沼の桜。写真集『True Feelings』から
 夜明けを待ち、水の引いた名取市閖上(ゆりあげ)に消防団と共に入った。瓦礫(がれき)に覆い尽くされた一帯には道路がなく、足元に注意しながら歩くと100メートル進むのに5分かかった。建物が流されたことで5キロ先の海岸を見渡すことができた。そして何より印象に残っているのは静寂さだった。核戦争が起き、地球全土が消滅した後は、こんな感じなのだろうか、と冷静に想像した。不思議と悲しみの感情は湧き上がってこなかった。静けさだけが身に染みた。

 さて、ここからどうするか?

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筆者

初沢亜利

初沢亜利(はつざわ・あり) 写真家

1973年、フランス・パリ生まれ。上智大学文学部卒業、写真ワークショップ・コルプスを修了し、イイノ・広尾スタジオを経て写真家として活動。2013年東川賞新人作家賞、16年日本写真協会新人賞受賞。写真集に『Baghdad2003』『True Feelings 爪痕の真情。2011.3.12~2012.3.11』『隣人。38度線の北』『沖縄のことを教えてください』『隣人、それから。38度線の北』。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです