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「声なき多数者」の声を聴け

意識調査から「安倍一強」の謎を解く

遠藤薫 学習院大学法学部教授

現代日本の民意と正義

■有権者の過半を占める無党派層

 「総合的政治姿勢」とは微妙な回答である。保守・中道支持層とリベラル支持層を分かつのが、アベノミクス、外国に対する姿勢、憲法改正、原発再稼働等に対する評価であり、それらを包括する「総合的政治姿勢」であるとすると、それはこの二つの層が、国家の「正義」(最も基盤となる価値意識)について対立しているということもできるだろう。実際にそうだろうか。筆者がつい最近(18年10月)実施した意識調査(注3)から確認してみたい。

図4 調査対象者の支持政党(%)拡大図4 調査対象者の支持政党(%)
 18年調査で、現在の支持政党を聞き、それにもとづいて、保守層(自民党、日本維新の会、日本のこころ)、中道層(公明党、国民民主党)、リベラル層(立憲民主党、日本共産党、自由党、社会民主党)、無党派層(その他、わからない)に分類した(図4)。すると、保守層と中道層を合わせて約3割、リベラル層が約1割に対して、無党派層が約6割を占めていることがわかった。つまり、現代日本の有権者(調査対象者)の半分以上が、はっきりした支持政党をもたない無党派層なのである。いま、この無党派層が何を政治に求めているのかについてもっと考える必要があるのではないだろうか。

■保守・中道・リベラル・無党派層の正義

 そこでグループごとにどのような「正義」を支持しているかを層別に集計し、図5~8に示した。これによれば、「国家は自国優先を貫くべきか、多民族との共生を図るべきか」「格差を容認するか、縮小すべきか」「競争促進のために勝者を手厚く遇するべきか、競争促進はモラル低下を招くか」「対立者とは徹底的に戦うべきか、対話重視で解決すべきか」の四つの問いに対して、いずれも、保守層は前者の態度を支持するものの割合が高く、リベラル層は後者の態度を支持するものの割合が高い。そして、その間に、中道層と無党派層が位置する。とくにこれら四つの問いでは、無党派層は中道層よりもリベラル寄りに位置している。

図5 自国優先か多民族共生か拡大図5 自国優先か多民族共生か
図6 格差を容認すべきか、縮小すべきか拡大図6 格差を容認すべきか、縮小すべきか
図7 競争促進か、競争促進はモラル低下を招くか拡大図7 競争促進か、競争促進はモラル低下を招くか
図8 対立者とは徹底的に戦うか、対話重視か拡大図8 対立者とは徹底的に戦うか、対話重視か

 図4で見たように、無党派層は全体の6割を占めている。その大きな部分が、リベラル政党に投票すれば、政治の勢力地図は大きく変わるだろう。だが、後述するように、実際はそうなっていない。なぜだろう?

■無党派層とは――声をあげない人びと

 では無党派層とはどんな特性をもった人びとなのだろうか。18年調査によれば、無党派層は、男性より女性でその割合が高く、若年層になるほど多く、学歴が低い層ほど多く、世帯年収も低い方が多い。つまり相対的に社会的な力の弱いグループで無党派層の割合が高い。

図9 「自分のような普通の市民には、社会のことを左右する力はない」に対する意見拡大図9 「自分のような普通の市民には、社会のことを左右する力はない」に対する意見

 そのことを表すかのように、「自分のような普通の市民には、社会のことを左右する力はない」と思うかという質問に対して、「そう思う」「どちらかと言えばそう思う」と答える人の割合は保守層、中道層と同程度だが、「そう思わない」「どちらかといえばそう思わない」という人の割合は圧倒的に低い(図9)。つまり、政治に対して「自分にも何かができる」と思っている人が少ないということである(反対に、「何かができる」と思う人の割合が最も高いのはリベラル層であるのも興味深い)。無党派層はいわば「声をあげない」国民層なのだ。


筆者

遠藤薫

遠藤薫(えんどう・かおる) 学習院大学法学部教授

専門は社会システム論、社会情報学、メディア論など。主な近著に『ソーシャルメディアと〈世論〉形成』(東京電機大学出版局)、『ソーシャルメディアと公共性』(東京大学出版会)、『ロボットが家にやってきたら… 人間とAIの未来』(岩波書店)など。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです