ネガティブ情報の影響薄く
2018年12月21日
近年、安倍政権を巡ってテレビや新聞などマスメディアの報道が有権者に効かなくなっていると言われる。特に若い層が安倍政権を支持しており、それがメディア環境の違いによるのではとの議論もなされている(注1)。
これらの議論で前提になり始めてきたのが、同じ社会に属しながらも「世代」や「性」によって、内閣への支持が異なる可能性である。しかし、実は、日本の政治研究においては、世代別・性別に支持の動向を分析したものはそれほど多くない。執筆者の1人(逢坂)もかつて森政権や第1次安倍政権の支持率とメディア報道の関係について分析したことがあるが(注2)、その際も内閣支持率の動き全体として捉えていた。例えば、森政権時に内閣支持率が2段階に落ちたのを、最初の「『神の国』発言」で無党派の支持が剥がれ、次の「えひめ丸事件」とその対応で、自民党支持者の支持が落ちたと分析した。つまり、支持政党の別で反応が異なりうるとは考えていたものの、「世代」や「性」によって支持率そのものや反応が大きく異なることはあまり視野に入れていなかった。
そこで今回は、世論調査のデータを用いて、直近の安倍政権の支持構造を関連データと共に分析したい。その際、「世代」や「性」によって支持がどのように異なっているかを分析するとともに、かつての第1次内閣との全体的な比較やそれぞれの内閣における時間的な変化を観察することで、政権の支持構造の中身を捉えてみたい。「同じ社会にいて、同じ政治状況を前にしながら、性別・世代別で反応は異なるのか」という問題意識のもと、内閣支持率の細かい変動を見ることで初めて、政治ニュースがそれぞれにどの程度「届いているか」と議論することの前提が整うと考えられるからである。
安倍内閣の支持構造にいかなる特徴が見いだせるのかを明らかにするために、朝日新聞社が実施している定例全国世論調査(注3)の集計データを用いて分析することにしよう。
図1ー1は、第4次安倍内閣の支持率について、全期間の平均値をまとめたものである。性別に関して概観すると、男性(44・4%)は女性(33・8%)に比べて約10ポイント平均支持率が高く、第4次内閣の支持構造には大きな男女差が存在していることが分かる。
その上でさらに細かく、性別×世代別の平均値を見ていこう。全体的には、男女とも高齢化するほど支持は低下する傾向がある(70代以上ではやや増える)。そして顕著なのが、18歳~30代の男性の支持が高いことである(注4)。20代男性と30代男性の支持率は57・4%と52・8%で、同世代の女性よりもそれぞれ19ポイントも高く、最も支持していない60代の女性とは30、25ポイントもの差がある。第2次以降の安倍政権において、男性からの支持(注5)と若者世代からの支持(注6)がそれぞれ高いという指摘は既に存在しているが、「若年層」の「男性」からの支持が際立って高いという傾向を見いだすことができる。
しかし、2006~2007年の第1次内閣における支持構造と比較すると、安倍政権の支持構造に対して新たな印象を受ける。図1ー2は第1次安倍内閣の平均支持率を性別×世代別に示したものである。ここから、第1次内閣においては現在とは逆に男性(41・0%)よりも女性(43・2%)の支持率が高く、年齢的にも高齢化するほど支持を増大させていたことが分かる。さらに、最も支持率が高い層は70代以上の女性(53・9%)であり、逆に最も支持率が低い層が20代の男性(36・6%)であった。かつての安倍首相は、象徴的な表現を使うのであれば、「年配の女性」からの支持が高かったのが特徴だと言ってもいいだろう。現在の第4次内閣とは正反対の支持構造であったのだ。
以上のように安倍政権の平均的な支持構造を比較したが、内閣支持率はその時々の政治情勢(とメディアの報道)の変化の影響を受けて変動しやすい指標である。換言すれば、性別×世代別の支持率の動き方を調べることで、各グループの有権者が政治状況やメディア報道にどの程度「反応」しやすかったのかを析出することが可能になる。
図2ー1は、第1次安倍内閣に対する支持率の推移を示したものである。まず、2006年9月の政権発足当初は、どのグループからも満遍なく高い支持を集めていた。小泉純一郎氏の後を継いで首相に就任した安倍氏は、第1次小泉内閣の時に官房副長官となり、小泉首相の北朝鮮訪問の際の拉致被害者の帰国問題をきっかけにテレビ番組に盛んに出演して有権者の人気を得る。そして、その人気を小泉首相に買われて第2次小泉内閣で若き幹事長となり、総裁候補の地位を獲得したという経緯があった。その意味では、「テレビに作られた宰相」という側面もあったと言える。その安倍氏が若き宰相として登場してきた時、全ての世代や性別から高い支持を集めた。
この第1次安倍政権への高い支持は2段階で減っていくことになる。第1段階は、郵政民営化に反対した議員たちを自民党に復党させたことの影響による減少である。小泉首相は、2005年夏の「郵政解散」によって自民党に大勝をもたらす。郵政民営化を単一争点に設定して衆議院を解散し、「改革」に反対する者を「抵抗勢力」と呼び、「改革政党」たる小泉自民党への支持を訴えた。その際、自民党の議員にも郵政民営化に反対する者はいたが、彼らには党の公認を与えず、逆に「刺客」を送るなどして、選挙そのものが非常にドラマ化されテレビでも大きく取り上げられた。この選挙によって、それまで低迷し、民主党に迫られていた自民党の党勢が大きく回復する(注7)。自民党は小泉首相が登場した当初に掲げた「改革政党」のイメージを再び身にまとったことになる。
しかし、第1次安倍政権は、その郵政選挙・改革自民党の敵役たちを就任2カ月後の2006年12月4日に復党させた。そもそも第1次内閣での安倍首相は発言が曖昧(あいまい)で、郵政選挙圧勝の原動力となった若年層が離反しつつあるという指摘が就任直後からからなされていたが(注8)、この復党は第1次政権の改革イメージを毀損してしまう。そしてこれを境に、同月21日の本間正明政府税調会長の公務員官舎問題での辞任、27日の佐田玄一郎行革担当相の政治資金不適正処理問題による辞任など、様々なスキャンダルが噴出して、同年10月には63%あった支持率は、07年2月には37%と26ポイントも大きく減少した。
第2段階は、2007年5月に発覚した「消えた年金」問題と、松岡利勝農水相や赤城徳彦農水相の事務所費問題、柳沢伯夫厚労相や久間章生防衛相の相次ぐ失言などの一連のスキャンダルによる下落である。これによって7月の参院選の敗北へとつながり、2007年7月の参院選直後の調査では「危険水域」の30%を割ることになった。
しかし同時に指摘しておかなければならないのは、第1次安倍政権において、全体的に見ればどのグループの支持率推移も似通ったトレンドであり、高齢層の方が支持率が高いという傾向はあっても、突出して安倍首相を支持/不支持していたグループが見いだせるわけではないということである。この点に関連して、郵政解散のあった2005年の小泉内閣のグループ別支持率の推移を図2ー2にまとめた。小泉内閣においてもグループ間である程度の支持傾向の差異は見られるが、第1次安倍政権同様、変動のトレンド自体はいずれのグループも類似している。すなわち、世代×性別ごとの推移という側面に着目する限り、第1次安倍政権は小泉内閣と同じく、政治情勢や報道に対する各グループの反応傾向は比較的同質的だったと考えられる。
ここで焦点を当てたいのが、30代以下の若年層男性の支持率である。2017年2月時点では、
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