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徴用工問題で隘路の日韓

「未来志向」紡ぎ直せるか

箱田哲也 朝日新聞論説委員(国際社説担当)兼編集委員

懸案の核心「個人の尊厳」

日韓が抱える課題拡大日韓が抱える課題
 日韓の司法判決がそれぞれ異なる判断をしたのは、単に法律論の話だけではなく、実際には植民地支配、さらにはその支配のもとで繰り広げられた個人の尊厳についてどう考えるかの違いがある。

 日本から、今ごろ何をまた言い出すのか、という声が出るのは当然だろうが、そうやってはねつけてしまえば終わるという問題でもない。今回の判決は、植民地支配からの解放以来、日本と韓国の間でくすぶりつづけている懸案の核心的な部分を含んでいるためだ。

 法解釈はそれとして、日韓間の歴史認識問題において、なおも重要なのは植民地支配の実態のファクトレベルでの見極めであることは言うまでもない。

 ところが歴史認識問題では、事実を矮小化または否定する動きや、その反対に実態以上に被害を誇張するような言説がせめぎあう。

 たとえば10月末に出た徴用工判決に関し、安倍晋三首相は国会で、「政府としては徴用工という表現ではなく、旧朝鮮半島出身労働者」と呼んでいると述べ、その理由として、当時の労務動員の方法には「募集」「官あっせん」「徴用」があったが、原告4人は「いずれも募集に応じた」ためだと説明した。強制ではなく、自分の意思で応じたと強調したかったようだ。しかし、この発言には韓国側で反発が起きただけでなく、日本の専門家からも、「徴用」以前もかなり強引なケースがあり、「人質的略奪、拉致」などとした記録が残っているとの指摘が出た。

 強制労働に神経をとがらせ、動員の実態を打ち消そうという日本政府の動きは15年の「明治日本の産業革命遺産」の世界文化遺産登録の際にも表れた。いわゆる強制労働をどう表現するかをめぐり、日本は「その意思に反して連れて来られ、厳しい環境の下で働かされた」と説明しながらも、国際法に言う強制労働にはあたらないと主張した。当時は首相官邸サイドや外務省の一部幹部から、こんな説明すらも不要だとの強硬論が出た末に落ち着いた表現だった。

 この世界遺産登録の際の日韓の対立から、当時かなり双方の意見が近づいていた慰安婦問題での水面下協議を、日本政府は中断してしまった。結局はその年の年末、日本で仕事納めがあった日に日韓両外相によって合意が発表されたが、この慰安婦問題もまた、事実と記憶のはざまで揺れ動いてきた懸案だ。

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筆者

箱田哲也

箱田哲也(はこだ・てつや) 朝日新聞論説委員(国際社説担当)兼編集委員

1988年、朝日新聞入社。初任地の鹿児島支局や旧産炭地の筑豊支局(福岡県)などを経て、97年から沖縄・那覇支局で在日米軍基地問題を取材。朝鮮半島関係では、94年にソウルの延世大学語学堂で韓国語研修。99年以降、2度にわたってソウル特派員を務めた。2013年4月から現職。