メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

元陸将 山口昇氏に聞く

「なんとなく」が縛ってきた自衛隊 憲法を国民のものにするために

山口昇 元陸将、笹川平和財団参与、国際大学副学長

敵基地攻撃は法理上あり得た

――憲法から導き出される一番大きな縛りは専守防衛だと思いますが。

山口 それだけですかね。最小限の武力しか持たないということ。それから、9条が直ちに規定しているのは政治的目的を達成させる手段として戦争をしないという縛りがあります。あそこの書きぶりは第1次世界大戦後に締結された不戦条約とほぼ一緒で、みんなが国際政治上の問題を戦争という手段で解決することはやめましょう、ということを言っています。それを憲法でちゃんと書いているのは日本やイタリアなどいくつかの国だけです。交戦権は交戦したときに、例えば交戦する相手国の領土を占領・統治したり、相手国と通商する船を押さえたりする権利ですが、自衛のための戦いですから基本的に必要ありません。

 縛っているのは専守防衛だけではないですね。明示的に規定しているものと、なんとなくやってはいけない、例えば専守防衛と言いながら敵基地攻撃というのは昭和30年代から「やむを得ない場合はやる」と言っていました。ミサイルがまさに発射されようとして、他に手段がないときに、相手の発射台をたたく。それをたたかないで座して死を待つというのは憲法の趣旨ではないという答弁があります。理論的には、合理的に判断して、日本に向かっているミサイルだということなら、法理上は撃たれる前に排除するということはあり得るわけです。ただ、なんとなく1発撃たれないと撃ち返せない。最初に犠牲が出ないとできないという雰囲気があった。これは必ずしも9条そのものが言っているわけではなく、みんなが縛られているのです。

 それから、大規模な軍隊を持たないので徴兵制はいらないということも9条が直ちに規定してダメと言っているわけではなく、なんとなく推論しています。攻撃型空母や大陸間弾道弾を持たないということも憲法を敷衍(ふえん)した政策の延長線上にあります。最小限の自衛力とは言えないと考えるからです。

 他方で核兵器のことは、非核三原則は国是で、憲法に準ずるような位置づけはしていますが、法理上は純粋に防衛的な兵器として核兵器があるのだったら、それは否定するものではないとしています。外国人から「憲法9条があるから核兵器が持てないのでしょう」と言われますが、「そうではない」といつも説明しています。いろんな理由があって「核兵器を持たない」と決意をしたのです。

 現代の戦争はほぼ自衛権の発動です。自衛権を発動して、どこかに出て行って、先にたたく。専守防衛というのは、そういうことはやりませんという意味です。憲法の精神を敷衍すればそういうことになるということだと思います。

 専守防衛と言いながら敵の基地は攻撃できますよとずっと言い続けてきて、非核三原則がありながらアメリカの核抑止力には依存する。相反することを併せのんで防衛、安全保障をまっとうしてきたわけですから、専守防衛で完全に手足を縛られたかというと、必ずしもそうではないと思います。

 専守防衛というのは使い方の問題です。どんな兵器でも、拳銃だって攻撃的に使おうと思えば使えます。それをもっぱら防衛的に使うというのが専守防衛です。

――現役時代、指揮官も務められました。9条があることでの不自由さを感じたり、隊員の命を危険にさらしてしまいかねなかったりという状況はありましたか。

山口 そこも憲法9条ではたぶんない。ただ、憲法9条を敷衍して、海外派兵をしませんとか、海外派兵が何かと言ったら、武力行使を目的として自衛隊のような集団を外国の領域の中に送るということです。今は解釈が定着していますが、議論が進むまでは、例えば防衛駐在官は派兵ではないかとか、出張で海外に行くことも海外派兵と言われかねない時期がありました。そういったものはだんだんと是正しながら来たわけで、個人的には不自由は感じてきませんでした。

 憲法9条の範囲の中でどれをやるのかということではなくて、「何がやりたいか、何をやるべきか」という問いがあって、その後に憲法の議論が来る。政策は憲法の枠内で立てられるわけです。我々は与えられた手段と人、物で日本を守る、自衛隊法3条が定める「主たる任務」として我が国を防衛する。それから「必要に応じ」公共の秩序の維持に当たる。その中には災害派遣や治安出動、海上警備行動、領空侵犯対処などがある。具体的に「こうやりましょう」と言ったとき、それが憲法違反かどうかという議論です。

 基本的に安倍政権の考え方というのは、それ以前と大きく変わっていません。自衛隊の位置づけも、集団的自衛権の行使についても日本の個別的自衛権の行使に近い部分しか認めていません。積極的平和主義と言っても今の憲法の大きな枠の中だと思います。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

山口昇

山口昇(やまぐち・のぼる) 元陸将、笹川平和財団参与、国際大学副学長

1974年防衛大学校卒、フレッチャー法律外交大学院修士課程修了。ハーバード大学オリン戦略研究所客員研究員、防衛研究所副所長、陸上自衛隊研究本部長などを歴任した後、2008年12月退官(陸将)。09年4月~15年3月防衛大学校教授。11年3~9月内閣官房参与。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです