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震災8年、忘却と無関心に抗うために

メディアはプレイヤーとして地域の中に

小松理虔 ローカルアクティビスト(地域活動家)

マジックワード「復興」

 まずはじめに考えたいのが「復興」の捉え方の問題だ。

 復興とはなんだろう。震災以後、この二文字が地元のメディアに躍らない日はない。誰もが復興を目指し、復興を語る。しかし、その復興が何を指すのかは、ほとんど誰も語らない。私は震災直後から、この「復興」という言葉に強烈なモヤモヤを感じながら生活してきた。

 誰もが復興を語る。自分も復興に動員される。それなのに誰もゴールを示してはくれない。ゴールなき復興は次第に「マジックワード」になり、具体的な中身などないのに、復興を語ると何かポジティブなことに取り組んでいるような気になれてしまう。高揚感や一体感もある。しかし復興は本当に進んだのだろうか。

 復興とは、かつての日常を取り戻すこと、すなわち「被災者ではなくなること」でもあると私は考えている。言い換えれば「復興」という言葉は、まだ復興していない人が使う言葉だ。被災者は、被災者でなくなるために「復興しよう!」と叫ぶ。しかし、復興を叫ぶほど自分が「復興が必要な人」=「被災者」であるという立場を固定化してしまう。とても矛盾に満ちた言葉なのである。

 これまでを振り返れば、復興という言葉は外側から押し付けられた言葉でもあっただろう。福島で起きることが、簡単に復興に結びつけられてしまうのだ。地元の高校生が合唱コンクールで金賞を取れば「復興の歌声」になり、子どもが生まれれば「復興の産声」になる。ランナーの快走も球児の活躍も「復興」という言葉とともに語られていく。そうして復興は、「聞こえの良さ」をまといながら、私たちを被災者の立場に固定していく。

 私個人の身にも覚えがある。震災直後の2011年5月。私は、友人とともに地元の商店街に空きテナントを借り、小さなコミュニティスペースをオープンした。震災後に計画が生まれたわけではなく、2010年くらいから温めていた企画で、実は2011年3月12日に海沿いの空き物件の契約書を取り交わす予定になっていたのだ。その物件が津波をまともに受けてしまい、それで仕方なく別の場所にあった物件を借りただけで、このコミュニティスペースは「震災がきっかけ」ではなかった。

 ところが、取材にやってくる地元のテレビ局の記者は「被災者同士の交流の場」というストーリーを持ち込んでくる。私が「震災とは関係ない」と言っても、「とはいえ震災で感じたこととはつながってますよね」と食い下がってくる。「そうですね、地元が傷ついたからこそ大切さを…」などと語れば、そのセリフが切り取られることは目に見えている。せめて、コミュニティスペースの効果を考えたり、具体的な運営の仕方を紹介してもらえたら地域活性の役に立てるのに、ただ単に「復興の美談」として消費していくだけ。その物事が持つ本来の意味や価値ではなく、復興のストーリーに合致するか否かで取材対象が決められている。震災後の報道は、そういうものが多かった。

 メディアのなかの復興は、なんとなくの一体感を醸成はするが、物事の本質を伝えきることができない。むしろ、その聞こえの良さゆえに、本当に復興を必要としている弱者の姿を見えなくさせてしまったり、価値が認められていないものに過剰にそれらしい価値を「添加」してしまうことにもなる。復興を叫ぶことが、物事の本質や真価、課題を見えなくさせてしまうのだ。

 震災後、福島県内ではさまざまな食のプロジェクトが生まれた。風評打破のためにさまざまな新商品も誕生した。「福島の産品はすばらしい」というような言葉がメディアに並んだ。確かに風評で傷ついた土地に自信を取り戻すための言葉は必要だったと思うし、実際に高い評価を受けた商品もある。しかし、そうした前向きにすぎるマジックワードは時に批評性を排除し、福島県内の復興ストーリーのなかでしか通用しないものを生み出してしまう。復興を掲げているとなんとなくメディアで紹介され、盛り上がっているように見えるからだ。

 評価されているのはどのポイントなのか。他県の取り組みはどうなのか。改善の余地はどこにあるのか。本当に必要だったのは、多角的に事象を捉え、自分たちの宝物を虎視眈々と育てていくヒントになるような報道ではなかったか。

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筆者

小松理虔

小松理虔(こまつ・りけん) ローカルアクティビスト(地域活動家)

1979年、福島県いわき市生まれ。法政大学卒業後、福島テレビ記者やかまぼこ製造会社勤務などを経て現職。福島県いわき市小名浜で企画展示スペース「UDOK.」(うどく)を主宰。「いわき海洋調べ隊『うみラボ』」共同代表。『新復興論』(ゲンロン)で第18回大佛次郎論壇賞受賞。共著に『常磐線中心主義』(河出書房新社)など。