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21世紀家父長制の悪夢

新天皇家の発する家族メッセージ

牟田和恵 大阪大学大学院人間科学研究科教授

「善き家族」の模範

 近代家族の登場の担い手となったのは、産業革命にいたる前後から勃興成長したブルジョワジー(有産市民階級)だ。ブルジョワは、日本語では(すでに死語に近い言葉になっているが)「金持ち階級」のようなニュアンスで使われるが、本来の意味は、出自は平民でありながら経済的に成功し立派な社会的地位を有する人々のことだ。ブルジョワジーは、生まれながらに「尊い」身分で(「ブルー・ブラッド」と言われるとおり「血」が異なる)莫大な土地や財産を有する王や貴族と違い、商工業に携わり、あるいは専門的な職業によって財を成し豊かな生活を築き上げた人々だ。したがって彼らにとって、自らの階層を再生産しその地位を維持するには、日々の勤勉努力、将来を見据えた計画的な生活態度、そして安定的な家族生活を維持し子供の教育を行っていくことが必須である。とりわけ女性は、そのために、子の教育に熱意を持ち健康にも配慮する、善き母でなければならないのだ。

 「勉強しなくては将来いい会社に入れない」と子供の成績や進学に腐心する現代の人々はまさにその末裔なのだが、近代に生まれたこうしたブルジョワ的価値観と家族の在り方は、その後、上下の階級に波及していく。

拡大図2 「サンスーシ公園の皇帝一家」 1891年、ベルリン・ドイツ歴史博物館 © William Friedrich Georg Pape (1859–1920) [Public domain]
 王たちは、本来そうした「ブルジョワ」的価値観とは無縁で、贅沢や奢侈、性的放縦が許されていたのだが、絶対王政の時代が終わり、市民社会の時代がやってきたとき、次第にブルジョワの「道徳的に正しい」家族の在り方に倣う必要が出てくる。そしてやがて王室や皇帝一家が「善き家族」の模範を積極的に示して国民統治を図ろうとするのだ。彼らは、子供たちと妻を愛する善き夫(図2のドイツ皇帝)として、愛する夫との間に9人の子をなし続け愛情豊かな女王(イギリス・ビクトリア女王)として君臨した。とくにビクトリア女王は、イギリスが大英帝国として世界の覇権を握った時代の君主だが、善き妻・善き母として表象され、その「帝国の母」「慈愛」のイメージが大英帝国の維持・拡大の礎となったといわれている。

 こうした王家の家族の肖像は、数多く描かれ、国民に家族のモデルイメージを提供し続けた。そしてこうした家族像には、頑健で勇ましい男性(図2のように男は軍服や水兵服を身に着け)と優美でたおやかな女性(女は華やかではあるが清楚な白いドレスやワンピースをまとっている)という男女のありようを対称的・補完的に描くジェンダーステレオタイプが刻印されているのである(三成美保『ジェンダーの法史学―近代ドイツの家族とセクシュアリティ』勁草書房、2005年)。

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筆者

牟田和恵

牟田和恵(むた・かずえ) 大阪大学大学院人間科学研究科教授

専攻は歴史社会学、ジェンダー論。著書に『ここからセクハラ! アウトがわからない男、もう我慢しない女』(集英社)、『ジェンダー家族を超えて』(新曜社)、『戦略としての家族』(同)、『架橋するフェミニズム:歴史・性・暴力』(編著、電子書籍)ほか。「国会議員の科研費介入とフェミニズムバッシングを許さない裁判」原告(http://kaken.fem.jp/)。