中島隆(なかじま・たかし) 朝日新聞編集委員
1963年生まれ。86年、朝日新聞に入社、初任地は鹿児島。その後は、長く経済部で大企業を主に取材してきたが、リーマン・ショックをきっかけに中小企業取材に目覚め、2012年4月に現職となってからは「私は中小企業の応援団長」と自称している。著書に『魂の中小企業』(朝日新聞出版)など。
「選ばれる国」になり得るか
発展途上の国々から来日した方たちに働きながら技術などを身につけていただき、母国で生かしていただく。
建前ではそう位置づけられている「外国人技能実習制度」ですが、実習生の失踪が後を絶ちません。不当な扱いを受けている実習生の方々も多く、きわめて深刻な問題になっています。
悪いのは、誰だ?
実習生のみなさんに過酷な長時間労働を強いている中小企業経営者だ。
実習生のみなさんを超低賃金で働かせている中小企業経営者だ。
実習生のみなさんを使い捨ての労働力と見ている中小企業経営者だ。
そう思っている方も多いと思います。もちろん、経営者に非はあります。
でも、ひどい経営者は大企業にだってごまんといます。
リーマン・ショックのとき、派遣社員のみなさんを切り捨てた大企業の経営者たち。無理な要求で下請けの町工場を追い詰めた大メーカーの経営者たち。貸し渋り・貸しはがしで中小企業を破滅させた銀行の経営者たち。
そんな経営者たちの行いで多くの人が自ら死を選び、夜逃げをした人たちも後を絶ちませんでした。
でも、経済合理性という「錦の御旗」を掲げた大企業の経営者たちは、なんとなーく許されてしまいました。
脱落した人や企業は生産性が低かったんだから、仕方ないさ。
経済に新陳代謝はつきものだから、仕方ないのさ。
大リストラで多くの人を不幸にして業績を上げた経営者が称賛されてきたなんて、世も末です。
そんな問題意識から中小企業に向き合ってきた私は、考えこんでいます。
たしかに実習生にむごいことをしてしまった中小企業の経営者は、悪い。行いを改めなければなりません。
でも、中小企業だけを批判はできないはずです。
政府は有効求人倍率が高いことを誇ってきました。アベノミクスの成果なのです、と。人手不足に苦しむ中小企業は、自力で何とかしなくてはなりませんでした。でも、従業員を募集したって日本人はなかなか来ません。危険、汚い、きついの3Kの業種では、絶望的です。
外国から実習生が来てくれました。アベノミクスの果実とやらは落ちてこず、経営が苦しくなる一方です。そこで、日本人のアジアの方を下に見てしまう悪習から無理難題をおしつけてしまったのだろうか。経営者は平気だったのだろうか、いや、苦しんだに違いない。
だから、私は考えこんでしまった次第です。
実習生、留学生、正社員。いろいろな立場で、外国の方たちは日本で働いています。外国の方たちと経営者の双方がハッピーになるには、どうしたらいいのでしょう。
そのヒントを求めて中小企業を巡りました。いました、いました、外国の方たちに寄り添っている経営者が。言葉や文化、慣習の違いに悩みつつ、変わる日本の仕組みに戸惑いつつ、道を切り開こうとしていました。
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