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中小企業は制度どう見る

「選ばれる国」になり得るか

中島隆 朝日新聞編集委員

実習生の将来見据え

拡大「クリタエイムデリカ」で働くミャンマーからの実習生のみなさん。ミャンマーの「愛してる」という意味のポーズをしていただいた=埼玉県越谷市.

 埼玉県の越谷市。そこに「クリタエイムデリカ」という会社がある。創業して70年あまり。スーパーやコンビニなど向けに、ざるそば、パスタなどの中食を24時間体制で、1日8万食つくる。

 従業員は、およそ400人。日本人と外国の方が半々ぐらい。技能実習生はミャンマーから45人、留学生もいるし、中国などからの正社員もいる。

 社長の栗田美和子さん(64)は、こう言う。

 「うちが外国人を雇い始めたのは30年ほど前、コンビニとの取引を始めたのがきっかけでした」

 24時間365日体制で生産しなくてはならなくなった。人が集まらなくて困っていたら、知り合いからペルーの人を紹介された。雇ったものの、パスポートが偽造されていたので雇いつづけることができなくなった。

 1988年、イラン・イラク戦争が休戦。そのあおりで日本にあふれたイランの方たちを、栗田さんは雇った。「不法就労なのは承知していましたが、イラン人も生きなくてはなりません」。中国の方も1年の研修生として雇った。

 そして93年、技能実習制度が創設された。惣菜製造業に適用されたのは2015年。ミャンマーの方たちを受け入れた。

 「うちの外国人雇用は、世の中の流れに沿ってきただけです」

 ここで、「外国人技能実習制度」を簡単におさらいしておこう。

 目的は、技術や技能、知識を開発途上の国々へ移転し、その国の経済発展を担う人づくりに協力すること。つまり、あくまでも国際協力、である。

 だが現実は、経営者にとっては労働力確保の手段であり、外国の方たちにとってはカネ稼ぎの手段である。

 実習生が来日して働くまでは、こんな仕組みになっている。

 母国で日本語を3カ月ほど学び、日本政府が認めた現地の「送り出し機関」が実習生たちを日本へ送り出す。実習生たちを受け入れるのは日本にある、これまた日本政府が認めた「監理団体」。そこで1カ月ほど、仕事や生活に必要なことを学んだうえで企業に派遣されていく。派遣先の多くは中小企業である。

 そんな仕組みの中、栗田さんは2013年、みずから「アジアイノベーション協同組合」という監理団体を設立した。ミャンマーで10カ月から1年、日本語と食品製造を学んだ若者を受け入れ、自分の会社や要望のある企業に送り出している。組合は、心のケアなど実習生を丁寧にフォローし続けている。

 先に書いたように、本来、技能実習生は母国で日本語を3カ月ほど勉強すればいい、とされている。けれど、ミャンマー語の文字と似ても似つかない、ひらがな、カタカナ、漢字を使う日本語を3カ月学んだところで、日本語能力試験のレベルでは「N5」に届かせるのがやっと。そう栗田さんは考えるのだ。

 能力試験のレベルは「N1」まで5段階あり、「N5」は初歩中の初歩。基本的な日本語をある程度理解することができるレベルとされるが、あいさつができる程度である。

 それでは日本で働くのは難しい。そう考え、栗田さんは、ミャンマーでの10カ月から1年をかけた勉強で「N4」レベルに到達してから来日してもらっているのだ。「N4」は、基本的な日本語を理解することができるレベルだ。

 日本語でのコミュニケーションができるようになれば、仕事の現場で、日本人従業員にかわいがってもらえる。だから、栗田さんは、会社でも日本語の勉強に力を入れさせている。

 「N3」への到達は必須だそうだ。日常的な場面で使われる日本語をある程度理解することができるレベル、である。そして、目指せ「N2」、とハッパをかけている。新聞や雑誌の記事が理解でき、自然に近いスピードの会話やニュースを聞いて理解できるレベルだ。

 N3を取ったら、N2を取ったら、それぞれ手当を支給しようかな。ただいま栗田さん、検討中である。

 日本語の勉強に力を入れさせているのは、コミュニケーションをするほかにも、ねらいがある。

 「この子たちがミャンマーに帰ったとき、N2の力があれば現地の企業で活躍できます。日本人がビジネスや観光でミャンマーに行ったときの通訳やガイドができます」

 ミャンマーの平均月収は、日本円に換算すると1万円ほど。「その10倍をミャンマーで稼げます。この子たちが幸せになれます」

 栗田さんの会社では、実習生の時給は1年目は最低賃金プラス少し。1年ごとに10円昇給。なので、生活費をのぞくと手元に毎月10万円以上は残すことができる。

 実習生の失踪。その原因のひとつに、来日前に抱える多額の借金が指摘されている。母国の送り出し機関や日本語学校などに払うカネを、親や知人から借りているのだ。栗田さんによると、その額はベトナムだと100万円を超えるが、ミャンマーの場合だと平均で60万円ほど。なので、手元の10万円を返済に回すと、半年で完済できる計算だ。

 借金を返したあとは貯金ができて、母国への送金もできる。

 栗田さん、送金先は、どこですか?

 「実習生それぞれが持っているミャンマーの銀行口座です」

 栗田さんは実習生に、日本に来る前にミャンマーの銀行で口座をつくらせているのである。日本にお金を置いていたって超低金利でお金は増えない。でも、ミャンマーだと年10%ほどの利子がつく。自分の銀行口座をつくる、もミソ。家族や恋人に勝手に使わせないためだ。

 「貯金をどう使うか、しっかり考えなさいと指導しています」

 実習生の中には、親に家をプレゼントした人がいる。ミャンマーの田舎では、日本円で100万円あれば家が買える。

 3年働いて帰国するとしたら、銀行口座には200万円はたまる。これだけあれば、首都ヤンゴンでも起業したり店を持ったりが可能になる。

 栗田さんは、実習生に、こうも言っている。「あいさつをして、掃除もしよう。ご近所の人たちに、いい子たちだと思ってもらわなければダメだよ」

 実習生のキンテ・テ・カインさん(21)は来日3年目。N3を取得済み。「私はもっと日本語を勉強し、日本の大学に行きたい」。ゾウ・グムン・パラーさん(22)は、「ぼくはお金をためてミャンマーに帰り、金の仕事をしたい」。ミャンマーは金の産出国だ。ニェ・イ・トウェさん(24)は、「私の村にはお店がありません。お金をためて、将来はお店を開きたい」。

 実習生のみなさんは明るく、日本語や仕事への一生懸命さが分かる。でも、甘い言葉が実習生を誘惑する。栗田さんは実習生を守ろうと必死だ。

 「外国人がたむろしている場所に行ったらダメ。高い給料をあげると誘ってきても、信じちゃダメ」

 栗田さんによると、実習生がSNSで誘われることも多いのだとか。誘いは、もちろん母国語。それを信じて実習先から失踪、不法残留となり、過酷な労働をさせられる。つまり、母国の人が母国の人をだましているのだ。

 「だまされないためにも日本語の能力が必要なのです」と栗田さん。日本語が分からないまま来日すると、母国の人たちとグループをつくりがちになるし、母国語に引き寄せられてしまう。

 甘い言葉に誘われないためには、賃金だけではない魅力がある会社にする必要がある。そう考える栗田さんは埼玉大学の学生にインターンに入ってもらい、会社に足りないものは何かを指摘してもらっている。

 今年、実習生2人が失踪してしまった。だが、栗田さんには立ち止まる暇はない。厳しい現実に向き合い、前に進むしかない。「奮闘しつづけます」

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筆者

中島隆

中島隆(なかじま・たかし) 朝日新聞編集委員

1963年生まれ。86年、朝日新聞に入社、初任地は鹿児島。その後は、長く経済部で大企業を主に取材してきたが、リーマン・ショックをきっかけに中小企業取材に目覚め、2012年4月に現職となってからは「私は中小企業の応援団長」と自称している。著書に『魂の中小企業』(朝日新聞出版)など。