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大本営は信じられていなかった

辻田真佐憲 作家、近現代史研究者

発表は変化しても、信頼性は回復せず

 『特高月報』は1944年11月までしか残されていない。しかも、後半ほど噂話などの収集は低調だった。これを補うのが、憲兵隊の資料である。憲兵隊もやはり国民間の「造言飛語」や「流言蜚語」などに目を光らせていた(『近代庶民生活誌④』収録の「憲兵司令部資料」「東京(東部)憲兵隊資料」)。

 資料が残っている1943年末からみていこう。ちょうど大本営発表第3期の終わりにあたる。

 「大本営発表は適当に斟酌して考へるべきである」(4月上旬から12月まで、北海道)

 「南太平洋方面に於ける海鷲の赫々たる大戦果の蔭には相当尊い犠牲があつたが、事実の発表はされて居ない。[中略]斯ることをせずもつと事実を発表して、国民を緊張せしむべきだ」(12月3日、神奈川県)

 「ガダルカナルでも本当は日本が不利だ。転進と云ふ言葉を使つてゐるが、事実は後退なり」(12月4日、兵庫県)

 「大本営の発表も当にならぬものが多い。戦況も皆々信用は置けぬ。日本も相当戦艦其の他がやられてゐる」(12月18日、愛媛県)
やはり「転進」の言い換えがみごとに見透かされている。この表現は、佐藤賢了陸軍省軍務局長と、有末精三参謀本部第二(情報)部長の合作だとされる。連戦連勝を誇る陸軍として「退く」という言葉は断じて使いたくない。そこで苦し紛れで「転じて進む」としたわけだが、

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筆者

辻田真佐憲

辻田真佐憲(つじた・まさのり) 作家、近現代史研究者

1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。著書に『天皇のお言葉』『大本営発表』『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)など多数。監修に『満洲帝国ビジュアル大全』(洋泉社)がある。軍事史学会正会員、日本文藝家協会会員。