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大本営は信じられていなかった

辻田真佐憲 作家、近現代史研究者

 「あてにならない当局発表」の比喩として、いまも盛んに使われている大本営発表。もともとは、日本軍の最高司令部・大本営によって行われた戦況の発表をいった。最終的にそこでは、敵戦艦の撃沈が4隻から43隻に、空母の撃沈が11隻から84隻に水増しされ、反対に、味方戦艦の喪失が8隻から3隻に、空母の喪失が19隻から4隻に圧縮された。そのデタラメぶりがあまりにひどかったために、戦後70年以上がすぎてなお、さまざまな場面で引き合いに出されつづけている。
それにしても、アジア太平洋戦争下の国民は、大本営発表をどれくらい信じていたのだろうか。現在から振り返れば、このような虚報を無邪気に信じていたとは思えない。ただ、その実態は意外とつかみにくい。というのも、世論調査にあたるものが当時あったわけではないからだ。

 当然ながら、戦後の回想は使いづらい。「信じていた」という証言は「だまされていた。したがって責任はない」との弁解かもしれないし、「信じていなかった」という証言も「自分は時代に流されず、鋭敏だった」との自己アピールかもしれない。大本営発表に言及した日記なども残されているとはいえ、それをもって直ちに国民全体の考えとすることはできない。

 では、まったくのお手上げなのだろうか。いや、そんなことはない。特別高等警察(特高警察)や憲兵隊などが当時集めた噂話や投書、落書きには大本営発表への不平不満が記されているし、アメリカの戦略爆撃調査団が戦後すぐに行った調査には、勝利への確信が消えていくさまが映し出されている。これらと大本営発表の変遷を突き合わせることで、ある程度の手がかりがつかめるはずである。

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筆者

辻田真佐憲

辻田真佐憲(つじた・まさのり) 作家、近現代史研究者

1984年、大阪府生まれ。慶應義塾大学文学部卒業、同大学院文学研究科中退。著書に『天皇のお言葉』『大本営発表』『ふしぎな君が代』『日本の軍歌』(以上、幻冬舎新書)、『空気の検閲』(光文社新書)など多数。監修に『満洲帝国ビジュアル大全』(洋泉社)がある。軍事史学会正会員、日本文藝家協会会員。