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1日の使い方を自分で決める

〝いいとこ取り〟の猟師生活

千松信也 猟師

拡大けもの道でイノシシの通った跡を示す筆者。倒木の表面が削れている

 京都の山中。11月15日の狩猟解禁日に罠(わな)を仕掛けたそのときから、僕の猟は始まる。

 前日までに入念に山の下見をし、狙っているシカやイノシシの残した痕跡からその行動を判断し、頻繁に使っているけもの道を見つけ出す。糞や足跡、ドングリの食痕、木に残された傷や泥跡。それらのヒントから見えない獲物の姿を想像する。山の中のけもの道は無数に枝分かれしているが、そのなかの有望そうな道を選んで5~10丁ほどの罠を仕掛ける。けもの道に直径12センチの穴を掘り、そこを獲物が踏んだら鋼鉄製のワイヤーがその獲物の脚を括って捕獲する〝くくりわな〟というタイプの罠を使っている(くくりわなの直径はクマの錯誤捕獲防止のため法令で12センチ以下と定められている)。

 罠を仕掛けたら、その後はいつ獲物が掛かるかわからないので毎日の見回りが必須になる。日本で認められている法定猟法は大きく分けて3つある。銃と罠と網。そのうち、銃による猟は日の出から日没までと決められている。網猟も特殊なものを除くと張りっぱなしの網は許可されておらず、自分で操作する網を用いるのが原則となっている。そういう点では、罠猟だけが〝24時間営業〟の猟のスタイルと言えるのかもしれない。

拡大罠に掛かったイノシシ。長時間放置すると暴れて肉質が低下してしまったり、死んでしまったりすることがある

獲物はいつ掛かるかわからない

 僕は運送会社の準社員として働き、現金収入を得ているが、猟のシーズンはだいたい週3日ほど働いている。仕事のある日は出勤前の早朝か仕事が終わった後、山の見回りに行く。冬場の猟の時期は日が落ちるのが早いので、暗くなってからヘッドライトをつけて見回ることもある。

 くくりわなは獲物を傷つけるようなタイプの罠ではないが、掛かった獲物を長時間放置すると、暴れたときに起きる怪我や打撲などで肉質が低下してしまっていることが多く、場合によっては死んでしまったりする場合がある。美味しい肉を得るためにも、獲物を無駄に苦しませないためにも毎日の見回りは欠かせない作業だ。

 見回りでは、獲物が掛かっているかどうかをチェックするわけだが、そのけもの道に狙っている個体が来たかどうか、来ているならなぜ罠を踏まなかったのか、前夜に残された足跡などからそれらを推測しながら歩いていく。時には、罠の直前ギリギリのところで罠に気づきUターンしている足跡を見つけることもある。僕がこうやってけもの道を歩くように、シカやイノシシもこのけもの道を歩きながらクンクンと地面のニオイを嗅ぎ、「なんか怪しい人間が来ているぞ。用心しないと」なんて思っているのだろう。

 雨が降ろうが風が吹こうが、自分が風邪を引いていようが、見回りには必ず行かないといけない。一つの山をだいたい30分程度で回れるような感じで罠の配置を調整し、2~3つの山に罠を仕掛けるのが例年のパターンだ。それぞれの山の間の移動時間などを考えると、見回りの所要時間はだいたい2~3時間となる。これはその年の自分の忙しさとの兼ね合いで、もっと規模を縮小する場合もある。子どもが保育園に通っている頃は園の送迎などもあったので、罠の数も今より減らしていた。

 ただ、この所要時間はあくまでも獲物が掛かっていなかった場合の話。獲物が掛かっていた場合、かかる時間は格段に延びる。見回り時に罠に掛かった獲物の姿が見えたら、まずは遠くから状況を確認し、問題なければ獲物を驚かせないようにその場を離れ、次の罠のチェックに向かう。ワイヤーが木に絡んで獲物が変な体勢で倒れ込んでしまって弱っているような場合以外は、発見してもすぐに止め刺しは行わない。まずはすべての罠を見回って、全体の状況を把握してからの作業になる。1日に2頭、3頭とまとめて掛かっていることもたまにあるからだ。その場合は、搬出ルートやそれぞれの獲物の状態などを考慮して、もっとも効率の良い作業手順を頭で組み立ててから作業に取り掛かる。

 獲物が掛かっていると、その止め刺し&血抜き、搬出、ハラ(内臓)出し、冷却作業など、一連の作業を終えるのに1頭あたり2時間ほどは余計に掛かる。罠猟は単独猟が基本なので、獲物を山から引きずり出すだけでも大仕事だ。夕方から見回って獲物が掛かっていたときは全部の処理を終えたら深夜になっていることもしばしばだ。

 そんな見回りの手間を省くために最近は罠に取り付けるセンサーなんかも売られている。罠が作動したらその連絡が携帯電話に送られてくるというものだ。なかには現場の映像までデータ送信されてくるものもある。僕は、「昨日の夜からぐっと冷え込んだし、今日はボチボチ掛かってるかもなあ」なんて言いながら毎日けもの道を歩くのが楽しいので、「そんな便利なもんもあるんやな」くらいに思ってあまり興味がなかったのだが、先日センサーを実際に使っているという人と話す機会があり、意外な話を聞いた。

 「いやあ、見回りせんでええし、時間の節約になると思ったら逆やってなあ。獲物が掛かってへんかどうか気になって携帯電話のメールばっかりチェックしてまうんやわ。しかも仕事中に獲れとる写真が送られてきたら、逃げへんか気になって仕事が手に付かんし、夜中にメールが来たらやっぱり目え覚めてまうし……。24時間いっつもわかるってのも考えもんやで」

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筆者

千松信也

千松信也(せんまつ・しんや) 猟師

1974年、兵庫県生まれ。京都大学文学部卒。大学時代に狩猟免許を取得し、現在も運送会社で働きながら京都で罠猟を続ける現役猟師。著書に『ぼくは猟師になった』(新潮文庫)、『けもの道の歩き方 猟師が見つめる日本の自然』(リトル・モア)など。